第86話 ナレカとカレナとヌシの再戦
まるで、こうなることを見透かしていたかのようだ。
「ちっ、勿体ぶるな馬鹿者め!」
王妃は舌打ちして、臨戦態勢に移行した。皆もそれに続く。
「ぐぉぉぉっ。何かが、何かが頭の中にっ」
「ごめんね。悪いけど、また攻撃するよ!」
「船長、早く船を動かして!」
クラウドは女神銃を撃ちながら、船長に操舵を指示する。
アタシ達は再び、ヌシと戦うことになってしまった。
「クソックソッ! 何でいっつもこんな目に会うのよ! ーー女神の憤怒!」
ボンボンボンボン!
リマは早速短縮詠唱でヌシを牽制している。
マインドコントロールを今もされてるなら、ソイツを見つけないと。
ただ弱らせても、傷が治ったころにまた暴走してしまう。
アタシは広域分析を発動し、可能な限り集中して見続けた。
「ナレカさん! ぼーっと見てないで手伝ってって!」
カレナは集中しているアタシに向かって大声を出している。
目頭が熱くなってきた。それに何だか目が痛くなってきた。
しかし、それと同時にヌシの首筋に動く者を捕らえた。
「おーい、ナレカー?」
「ねぇ、王妃、カレナ、ヌシの首筋の右側……何か……動いてない?」
アタシは目を押さえながら、2人に問いかけた。
カレナは「いや、忙しいんだよ」と愚痴を言っている。
「何を言うておる? 首筋の右側だと?……!? あれか!」
王妃は首筋の異変にすぐに気づいたようだったが、
カレナは首を傾げている様だったので助言をした。
「カレナ、高魔法で見て。修行してたやつ」
カレナは「あー」と言って、広域分析を発動した。
「何々? うわっ、キモッ。そうか、直接入り込んでるのか。
リマさん、ジンギに補助魔法をかけてください。」
「はぁ? 何でアタシがコイツに」
カレナの指示にリマは露骨に嫌な顔をした。
「やれやれ、俺も嫌われたもんだね。どうする気だ?」
ジンギは溜息を尽きながら、カレナに意図を確認する。
「ヌシの首筋の右辺りに何かいます……。精霊さんちょっと飛んでくれる?
おそらく線虫の類だと思いますが、アレが暴走の原因でしょう」
カレナは精霊をヌシの首筋に付近に飛ばした。光はそこで停滞している。
攻撃ではなく、マーキングを意味している。
「なるほど、分かりました。その線虫とやらを斬るのですね。
では、まず、我々で周辺の硬い皮膚を剥がしましょう」
意図を汲み取ったクラウド達は散開してヌシの注意をそらす。
「ほらほら、聖獣さん、アタイが相手だよ!」
キズミは常にヌシの視界に入ってヌシを煽っている。
タンク役を買って出てくれた。
「ならば、皮膚を焼くのがよかろう。ヌシよ我慢せい、女神の憤怒!」
ボン! ボン!
複数人の女神術で首筋の右側を執拗に狙う。
短縮詠唱を覚えただけあって、攻撃は休むことなく続けられている。
「アンタ、外すんじゃないよ! エッジ」
リマはジンギに忠告しながら、斬撃強化魔法を施した。
「ジンギ、ちゃっちゃと済ませてね」
アタシはリマの強化にさらに重ねて雷を付与した。
「へいへい、さて、マジに行くか」
ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
ヌシの首筋はかなり焼けている。これなら内部まで斬撃が通るだろう。
ジンギは剣を構えた。
その時――
ヒュン!
ヌシのしなる尾がジンギに向かってきた。
バキィィィン!
アタシは咄嗟にバリアを張ってジンギを守った。
ぐふっ。衝撃が体に伝わり呼吸が乱れる。
「悪ぃ、助かったぜ」
「っはぁっ、攻撃は、全部、引き受けるから、早くして!」
アタシは呼吸を整えながらジンギを急かした。ジンギは改めて剣を構える。
「こそこそ隠れやがって寄生虫が、迅雷空斬!」
ザシュッ!ブシュゥゥゥゥゥゥ!
雷を帯びた斬撃が首筋を深く抉ったため、鮮血が噴き出した。
「えぇい! 威力を上げすぎだ馬鹿者! あと数センチズレていたら致命傷だったぞ!
だが、中にいた蟲は真っ二つの様だ」
王妃は回復の女神術を使いながらぼやいた。
「あ、傷はまだ塞がないでくださいね。摘出しましょう。
そいつ、切断されて雷食らったから一時的に動けなくなってるだけなので」
「うわ、アンタ何でそんな詳しいの? キモいんだけど」
リマが顔をしかめてカレナを煽った。
たしかにこういうミミズみたいな奴は斬られても生きてることがあるけど。
「寄生虫の類だと思いますけど、この世界ではあまり認知されてないようですね。
食中毒とか普通にあるでしょうに。医療が遅れてるのかな」
逆にカレナがリバティアスをディスってる様にも聞こえる。
「それじゃ、ジンギかキズミさん、蟲取ってもらえますか?」
「うえっ、ヤダよ。気持ち悪ぃ。大体どこにいるか分かんねぇよ」
「アタイもヤダよ。言い出しっぺのアンタが取りなよ」
みんな露骨に嫌な顔をして、やりたがらない。
当然だろう、アタシも出来ればやりたくない。
「早ようせい! さっさと傷口を塞ぎたいんだ。妾がやればよいのか?」
やり取りを見ていた王妃が苛々しながら突っ込んできた。
「やれやれ、このままにしておくと雑菌が入りますからね。
ナレカさん、ヌシにローサンダを。麻酔代わりです。
クラウドさん、傷口をちょっと開いてください」
あ、アタシは強制的に手伝わされるのね。カレナの指示通りローサンダを当てた。
クラウドは嫌な顔一つせずに粛々と対応していた。
傷口から動く者を肉眼で捕らえたカレナは、なんと素手でそれを引っ張り上げた。
ベチャッ! ヒタヒタ
一瞬蛇かと疑う、巨大なミミズの様な蟲が引っ張り上げられた。
「はい半身、もう片方はこっちね」
ベチャッ! ヒタヒタ
手際よくもう片方の線虫も取り除いた。
「船長、船室にある強めの酒をください。消毒するんで」
「いっ?なぜ、そんなことを!」
船長は食ってかかろうとしたが、王妃に睨まれて渋々了承した。
「そこの傭兵共、酒を傷口にかけよ。それくらいはやってくれるのだろう?」
王妃の冷たい言動にジンギとキズミは無言で対応した。
「たーいへん、お待たせしました王妃。傷を塞いでいただいて大丈夫です」
「全く」などとぼやきながら王妃はヌシに治癒の魔法を使った。
みるみる傷は治っていったが、完治とまでは行かないようだ。
「おぉ! なんと悍ましい。このようなものが我の中を徘徊しておったのか?
情けない姿を幾度も晒すとは我も墜ちたものよ。感謝する賢者達よ」
ヌシは頭を左右に振って自身の失態を嘆いた。
「なぁ、結局これなんなんだよ? 何か良くねぇもんでも食ったのか?」
ジンギはすっとぼけた質問をしてきた。
「ふぅ、これまでの状況から察しは付くでしょう?
蟲を扱う者と何度も交戦していたでしょう」
クラウドが呆れながら答えた内容に、ジンギは「あ~」と言って納得していた。
まさか本当に分からなかったの?
「ベラカス伯爵なのは、ほぼほぼ間違いないだろうけどさ。何が目的なんだい?」
キズミも犯人は分かっていたようだが、目的まではアタシも検討つかない。
「サールテと同じやり口なんだったら、何かの準備の為の時間稼ぎというところでしょうか。
そろそろ、大規模に蟲が進行してくるかもしれませんね」
カレナの見解を聞いたクラウドが嫌な顔をしながら答えた。
「また後手に回ってしまったということですか。全く、見通しの甘い自分が嫌になりますね。
サールテから何も学べていないのか。すぐに町に戻って状況の確認をしましょう」
ここは取り合えず大丈夫だろう。皆馬車に乗って町に戻った。
町は大丈夫だろうか……?
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