第8話 カレナと反省会
◇リバティアスダイヴ◇
同時刻、ナレカの意識体は現実世界での討伐状況を中継してこちらに投影していた。
「まずは討伐おめでとうございます」
ナレカに賞賛をおくる。
「色々ありがとう。だけど、予想外のことも多くて思ったより苦戦したね。
あれだけ忠実に再現してもまだまだ足りないもんだね」
ナレカは若干疲れているようだった。
「はい、その辺り後で振り返りしましょう。こちらではリリースしてから1週間、
数々のパーティが廃村のデモンオーガの討伐クエストをプレイしました。
その中には神がかったプレイをしている方も何人かいました。それをお見せしましょう」
ナレカに廃村のデモンオーガのプレイ動画を見せた。
あるパーティは今回と同じ8人だったが、開始5分で討伐した。驚きのタイムだ。
中級女神術を連続で叩き込む連携で、ほぼデモンオーガに何もさせずに終わっている。
勿論初見突破ではないが、配置とパターンを完全に把握している動きだ。
また、時間は相当かかっているが、ソロで討伐した猛者も現れていた。
こちらもパターンを完全に把握しており、ヒットアンドアウェイを繰り返して、
チクチク削って倒していた。1時間ぐらい同じ作業を繰り返していた。
ナレカは唖然としていた。というよりやや引いていた。
これがゲーマーという人種ですよナレカさん。
「どうやら現実世界での討伐はまだ早かったようね。どうも早とちりが悪い癖でね」
ナレカは行動に移すのが早すぎるのが自分の短所だと説明する。
「死者は出ていないので及第点だとは思いますが、より安全な策が取れるならそれに越したことはありませんよね。ただ、現実の討伐では想定外のこともかなりあった様で、こちらも課題があることが分かりましたので、ちょっと振り返りをしましょう」
ナレカに振り返りを提案する。
「まだ付き合うつもりなの?」
ナレカは今後について聞いてきた。
このゲームの世界では、ナレカが期待するような現状を打開するほどの劇的な力は手に入っていない。
取り合えずリバティアスダイヴをシミュレーションしてみるということで、ここまで用意した結果、廃村のデモンオーガは辛うじて討伐できたので、成果が全くないわけではないのだが。
「ナレカさん。私のところにいらしたのは戦略的には失敗なのかもしれません。
ですが、お互いマイナスではないようですので、せめて王都周辺のデモンオーガの一掃はできるよう、お付き合いさせていただこうと考えてます」
「要するにゲームのネタがほしいんでしょ?」
ナレカはストレートに聞いてきた。
「まぁ、それはそうなんですが、折角確率の低い異界交信でこの世界に来たんですから、
もう少しお役に立ちたいというのも一応本心ですよ?」
ナレカはしばし考えたのち答えた。
「……ありがとう。じゃあもう少しお願いしようかな。
だけど、他世界との異界交信は続けるつもりだから。より良い力が手に入れば遠慮なくそちらを使わせてもらう。アナタ達に要らぬ負担をかけずに済むしね」
むしろゲームのネタがまだまだ欲しいので、新しい力はまだ見つからないことを祈る。
面と向かっては言えないけど。
「分かりましたが、異界交信ってリスクもあるんですよね?大丈夫なんですか?」
なんか魔域と繋がったとか言ってたような。
「そうね。魔域と繋がることもあるし、妹も向こう側から戻って来てないし。
でも、今回みたいな例もあるってこと」
妹さんの件は気になるけど、今は聞ける雰囲気ではなさそうだ。
「分かりました。この話は置いといて、改めて振り返りしましょう」
ナレカが投影していた映像をリバティが録画していたので、再生する。
「まさか、ここにも万能鏡みたいなものあるの?」
ナレカがえっ?という表情をする。
「肉眼で見える範囲を映像に残すことは私たちの世界でも可能なんですよ。
これは映像を電子データにして保存したものを再生してるんです。
ピンとこないと思いますが魔術ではありませんよ」
勿論、透視の様に肉眼で見えないところまで録画するようなことはできない。
リバティアスにはカメラはないのだろうか。
「そうなの?まぁ魔力を節約できて助かるけど」
改めて私は映像を見て状況を分析する。
「なるほど、予想より廃村の老朽化が進んでいたようですね」
傭兵達の動きが時折止まったり、顔を手で覆う場面が散見された。
また、慌てていたり足元がおぼつかないのが気になっていた。
「砂埃がひどくて敵を捕捉するのに手間取ってます。足場も安定しないようで何度も転びかけてます。すみません。この辺は再現が足りませんでしたので、フィードバックします」
リバティとバックのエンジニアに指示して物質の劣化をゲームに組み込む。
「そう……ゴーグル装備しておけばよかったね。他にも改善点はある?」
「返り血を浴びたからかジンギさん、でしたか?の動きが鈍くなっています。
戦いに集中しているのでテンションは高いですが、パフォーマンスは落ちています。
やはり廃村というロケーションがよくないですね。周りの方々にも徐々に疲れが見えてきています。この辺もゲームに取り入れましょう」
「疲れなんてどう取り入れるの?」
「スタミナの数値を弄ってもう少し現実に近づけてシビアにしましょう」
スタミナを全く考慮していなかったわけではない。
連続でステップやスキルを発動できないようにスタミナで制限を設けていた。
ゲームでは基本しばらく行動せずに放っておくと自動で徐々に回復するが、睡眠モードも取り入れた。
現実でも休めばある程度回復するものだが、食事を取ったり寝たりしないと完全回復とは行かない。
ゲームでも継続戦闘中は上限が減るよう疲労状態を見える化した。
「あとは何よりデモンオーガが膝をついてからの動きですね。
これは完全に想定しておりませんでした。魔獣って痛覚とかないんだろうなと勝手に思ってまして、延々と動き回れるものと思ってましたけど、あれだけ足を傷つければやっぱり立ち上がれなくもなるんですね。ちょっと先入観に囚われすぎていたかもしれません。
基本的に生物的な構造は普通の動物と同等と考えてよさそうですね」
「まさか返り血も再現する気?」
「はい。血だけでなく、水に濡れると動きが鈍くなるというのを取り入れます」
私はあっさり答える。
「これ、ゲームなんでしょ? 血吹き出したら嫌でしょ。グロいし」
ナレカが嫌そうな顔をしている。
「問題ありませんよ。流血描画なんて今時珍しくもありません。
むしろコアな層にはますます受けますよ」
気持ち悪いという人もいるだろう。だけどこれはリアル志向のゲームだ。
プレイヤーはむしろ喜ぶだろう。
「……ちょっと感覚狂ってるんじゃない?」
ナレカはドン引きしていた。
「そうかもしれません。所謂ゲーム脳ってやつですかね? でもちゃんとR-15指定はしますよ」
「何それ?」
「15歳以上対象のゲームということです」
健全な子供達の成長を阻害するような真似はいたしません。
「そういう問題?」
ナレカは頭を抱えていた。
「でもこれを取り入れて現実に近づけるほど勝率は上がると思いますよ?」
「それは、そうかもしれないけど……」
ナレカはそれ以上何も言ってこなかった。
リバティに指示してデモンオーガの生体を大幅にアップデートした。
録画した討伐の動画と身近にいる近しい動物、取り合えず熊の生態を参考にアップデートした。
これで次からはより生物として洗練されたデモンオーガとなっているだろう。
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