第73話 カレナの検査と休暇
私はログアウトした。VRゴーグルをずっと付けてたから汗ばんでいる。
久方ぶりの現実世界か。いや、リアルリバティアスも現実世界だけど。
「凛堂さん!お疲れさまです。先生!凛堂さんが目を覚ましました」
ゲーミングチェアの周りに医療器具が置かれており、私の体にも点滴やら検査器具やらが繋がれていた。
えらく大げさな感じだけど、数日目を覚まさないじゃあこうもなるか。
部屋の扉が開いて医者と思われる白衣の中年の男がやってきた。
我が社に常駐している産業医だ。
「こんにちは、凛堂さん。気分はどうですか?」
産業医は静かな口調で私の体調を確認する。
「あ、はい。全然大丈夫です。取りあえずお腹すきましたね」
「はは、特に病気という訳ではないからね。検査も異常はなしだ。
ただ、ゲームのやり過ぎには注意してほしい。”せめて”食事は取ってほしい。
仮想現実体験型のゲームはのめり込むと身体に異常を来すからね。
貴方の場合は仕事の様だけど、忙しいようなら上司と面談しよう」
医者は優しく話していたが、食事を取れという部分は強調した。
今回の件は仕事かどうかは微妙だけど、上司のせいではない。
「はい、取りあえずここでの検査は終わり。
前回と同様に医療施設で順番に検査を受けて下さい」
前回とは、初めて向こうに行ってサールテと戦った時のことだ。
あの時も色んな検査をさせられたが、またやるのか。
「はい。ありがとうございました。おっと!」
ドタッ!
私は椅子から立ち上がろうとしたところ、バランスを崩して転倒した。
「痛た。数日寝てたぐらいでこれ?運動不足かな」
「大丈夫かい? たしかに運動不足も多少はあるだろうけど、それよりもゲームの世界では普段以上に動いていただろう?
プレイ時間が長い程、ゲームでの凄い動きを脳が覚えてしまう。
その状態でログアウトして現実に戻ってくると、覚醒した意識と衰えた肉体とでバランスが取れず、動けなくなるんだ。しばらくはこれに掴まって移動しないとね」
医者は症状について説明しながら、歩行器を渡してきた。
体が重いし、言うことを聞かない。私はゆっくり体を起こして歩行器に掴まった。
やれやれ、入院患者みたいになってしまった。
歩行器を引いて私は部屋を出た。
「やあ、カレナチーフ、取りあえず居室に寄ってから検査だね」
道楽社長もログアウトしたようで、私に付き添った。
「それにしても、ここまでのめり込むとは思わなかったよ」
「会社の売り上げのために成果を……」
「コラコラ、心にもないことを言うもんじゃないよ」
私の安っぽい言葉を道楽社長は遮った。
「売り上げなんて物はね、後から付いてくる物だよ。
僕らは研究者だからね、ゲームの人気は二の次だ」
その通りなんだろうけど、リバティアスダイヴの魔物討伐シミュレーションには、ある程度のプレイヤーがいた方が討伐の確率も精度も早さも上がると言うもの。
人気があるに越したことはない。
「すみません。AI研究よりゲームの人気を優先していたかも知れません」
私は謝罪しつつ、気になっていたことを聞いてみることにした。
「道楽社長、いつから私がリバティアスとやり取りしていることに気づいたんです?
異世界の話を聞いてもあまり驚かなかったようですし」
「カレナチーフがリバティアスダイヴを運営する頃から何かしらあったんだろうと、薄々感じてはいたよ。キッカケはなんだろうと、気になっていたしね。
板東チーフの件で、ただならぬ事件に巻き込まれてるなと確信したよ」
ほぼ最初から気づいてたんだね。こりゃ共有しなかったこと怒ってるのかな。
板東チーフは魔族サールテが体を乗っ取ってリアルで暴れた事件だ。
ボコボコにされて酷い目にあった。
「今はリバティ愛よりナレカ愛かな?」
「それは絶対にあり得ません!!」
道楽社長が茶化してきた。アイツはどう考えても疫病神だ。
「ははっ、少なくともリバティは積極的にこの一件に関わろうとしている。
リバティアスの世界がリバティ自身も好きなんだろうね。
AI研究の成果の方も十分出てると思うよ。だからこのまま見守るつもりだ」
道楽社長は肯定的だった。ありがたい話だ。
ガラッ!
私は居室に入った。ユウキの他、バックのエンジニア達が一斉にこちらに来た。
「あ、チーフ、大丈夫ですか?」
「いや~お腹すいたよ~、ラーメン食べたいね」
コホン
道楽社長が態とらしく咳払いをした。
大丈夫ですよ……ちゃんと検査行きますって。
「ティアジピターに闘技場あったよ。会場に使えそうだね。こっちはどんな感じ?」
私は向こうの情報を伝えつつ、リバティアスダイヴの現状を確認した。
「そうですか。それは好都合ですね。すぐに闘技場作りますね。
こちらは蟲はまだ偶に見かけるのですが、いろいろ分かった事があり――」
「ほらほらカレナチーフ、報告が私が聞いておくから。
タクシー呼んだから、それに乗って検査に行きたまえ」
道楽社長が報告を遮ってきた。
仕方ないから取りあえず私はタクシーに乗って病院へ向かった。
私はその後、脳神経外科だの心療内科だのをたらい回しにされた。
どうやら特に異常はないらしいが、疲労は溜まってるから休めと言われた。
――って前回と同じじゃん。
検査が終わった頃には普通に歩けるようになっていたので、夜の街を歩いていた。
「疲れたー、お腹すいたなぁ」
やっと、まともなご飯を食べられる。
私は目についたラーメン屋に入って行った。ラーメンはまともなご飯だ。うん。
その後、私は3日間の休暇をダラダラと過ごした。
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