第70話 カレナとナレカの奮闘
「宰相、何を焦っておるのだ?」
王妃も宰相に問いかける。
「分かりませぬか?ティアマーズは我が国を恨んでいるのでしょう。
元々人間と獣人の確執もあったところにさらにデモンリザードを押し付けたのだからな。
故意かどうかは関係ない。そちらに犠牲が出た以上この溝はもはや埋まらん。
先に潰すしかないのだ」
ティアマーズにデモンリザードが責めて来たのはサールテのせいだ。
彼等を責めるつもりは毛頭ないんだけど。大体確執とか何年前の話をしてるのよ。
「な、何か勘違いをしていませんか? 別に恨んでませんよ」
アタシはデモンリザードの攻撃を搔い潜りながら宰相に意見をぶつけた。
「個人の話などしてはいない! 国の話をしている! 政治はそうはいかんのだ!」
「そういうことであれば、帝国軍が仲介しますよ」
クラウドは帝国軍の立場として提案した。
「もう遅い。言ったはずだ。一度召還したら我も制御はできん」
相変わらず宰相は聞く耳を持たない。魔獣達が襲い掛かってくる。
ティアジピター軍は宮殿の前を固めて陣形を組んでいるが、魔獣相手だとかなりビビっているようだ。
やり取りを見ていたカレナが溜息をついてから説明を始めた。
「説得は無理ですよ。サールテと取引しちゃったから引くに引けないんでしょ?
協力したら、デモンリザード1000体をティアマーズへ仕向ける様な提案があったんでしょ。
んで、私等が報復に来たと思って処分しようとした。そんなところでしょう?
海の藻屑にならなかったから焦ったんですか?後の作戦は大分雑でしたね」
あの頃、アタシ達は王都周辺に居座っているデモンオーガを一掃しようとしていた。
デモンオーガでは勝てないと悟ったサールテには、次の手が必要だった。
ティアマーズが予想より抵抗してくるから、こっちを優先して潰したかったんだろうね。
「海の藻屑って……、じゃあヌシをけしかけたのもテメェか!?」
「ったく、アンタのマッチポンプに付き合わされるところだったのかい!」
ジンギとキズミは真相が分かり怒っている。
「ヌシには警告のみさせるつもりだった。それを貴様等がいたずらに攻撃のだろう!」
往生際の悪い奴だね。ヌシはどう見ても船を沈める勢いだったよ。
「宰相、何と愚かな。そんなことをお前の妻が許すと思っているのか?」
王妃は呆れと怒りの混じった声で呟いた。
「許しなど乞うておりませぬ! ただ民が妻と同じように魔獣に殺されるぐらいなら、我一人外道に墜ちることなど些末な問題でしょう」
妻を殺され、か。余裕がなかった状況なのは理解したけど。
「はあ、では、宰相の目を覚ます必要がありますね。
皆もいいですね?今度は指示に従ってもらいますよ?」
クラウドは周りの帝国軍に釘を刺した。皆ばつの悪い表情をしている。
会話をしている間にアタシの女神術の準備ができた。
「轟雷!それは女神の制裁、広域神術付与」
アタシはジンギとキズミと数人の帝国軍に一気に神術付与をかけた。
その後すぐに次の充填詠唱を始める。
「おっしゃあ、行くぜ!疾風迅雷!」
ジンギは雷のごとき疾さで、次々とデモンリザードを葬っていく。
帝国軍もそれに続く。
「ほう?やりおる。あの力が1000体の魔獣を退けたか」
王妃は彼等の戦いぶりを見て感心していた。
「す、すごい、魔獣相手に一歩も引かずとは」
兵士達も初めて女神技に見入っていた。
「女神の憤怒っ、女神の制裁っ」
ボワンッ!バリリッッ!
えっ?
王妃がボソッと一言だけ言うとローフレアとローサンダが順番に放たれ、デモンオーガの顔面にヒットした。アタシはハッとして王妃を見た。
カレナも王妃をチラッと見ている。
「たわけ! 何を見とれている? うぬらも戦わぬか!」
王妃は棒立ちしている兵士達に渇を入れた。
「ぐっ、し、承知いたしました」
「そうそう働け働け。爆炎!それは女神の憤怒。広域神術付与」
カレナはティアジピター軍に神術付与をかけた。
「おいおい、大丈夫なのかい? ありゃ敵だろう?」
先ほどまで敵対しようとしていた者達を強化したため、キズミが警戒している。
「いや、カレナさんには対局が見えているのかもしれませんね。
このままではそちらにも被害が出ます。協力していただけますね?」
「し、仕方ないわねっ、魔獣よ、魔獣対峙に協力するのよ! その後は処刑よっ!」
一応協力はしてくれる様だけど。考え改めてくれないかなぁ。
燃える武器を持ったティアジピター軍が一斉にデモンオーガを攻撃する。
デモンオーガの凪払いに何人か吹き飛ばされたが、数で押している。
グェェェッ!
帝国軍は銃を持っているため、空のデモンワイバーンの対処をしている。
デモンワイバーンは空からブレスを吐いている。数が多い。
「おい、リマ! 上級女神術を使え!」
「いや、こっちも手一杯だってば!ナレカ、準備してんなら早くしろ!」
帝国軍だけでは厳しそうだ。丁度アタシの上級女神術の詠唱が終わった。
「暗闇!それは女神の堕天……」
アタシは空に向かって杖を構えた。狙うはデモンワイバーンの密集区域。
「ハイダーク!」
ブォォォォォォッ!
空に巨大なブラックホールが現れ、付近の魔獣を片っ端から飲み込んだ。
「ば、馬鹿な……これほどとは」
宰相は膝を付いて、魔獣討伐の様子を見ていた。
「闇属性など希少だというのに、これほどの使い手がいようとはな。
数はティアジピター軍が圧倒的だが、質ではまるで相手にならぬな。
敵対する相手を見誤ったな宰相。己の愚かさを悔いよ」
王妃は空を見上げながら宰相に叱責した。
魔物の数も大分減ってきた。そろそろ打ち止めだろうか。
しかしーー
ブゥゥゥゥン
キシャァァァァ
これまで見たことのないカマキリの魔物が現れた。
いや、アタシ達はつい最近コイツ等を見ている。
「な、何だコイツ等は!?」
宰相は驚いている。彼にとっては想定外の事態だったようだ。
「魔蟲? あぁ、やっぱり生きてましたか。あのクソ野郎」
カレナは意味深な台詞を言って、蟲の討伐を続けた。
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