第7話 ナレカの討伐本番
◇東京◇
私は完成したゲームのサービスインさせるため、経営会議に提出した。
制作の経緯を濁したので大分怪しまれたが、AIの成長に関する報告書を一緒に提出した。
「凛堂チィィフ! 我が社はゲーム会社ではなぁいのですよ!」
と坂東チーフには言われたが、AI研究としての成果も一緒に持ってきている。
「まぁ、待ちたまえよ、坂東チーフ。このAI研究の成果はちょっと面白いよ。カレナチーフ、僕が許可する。やってみたまえ」
そういったのは社長の香月 道楽だった。
何やってるかよく分からないひとだけど、皆から親しまれて道楽社長と呼ばれている。
「ありがとうございます。道楽社長」
AIの研究成果から経営陣は満足してくれたようなので、サービスインの許可が下りた。
かくして、リバティアスダイヴはサービスインした。
ここからは現実世界のリバティアスをリアルリバティアス
ゲームのリバティアスをリバティアスダイヴと命名する。
◇リアルリバティアス◇
アタシは先ほどまで起きた出来事を頭の中で整理していた。
飛んだ先にはリバティアスに似た世界が広がっていた。
そこで出会った賢者のカレナという女性。
博士帽子に白いシャツに黒のマントまではアタシと同じ格好。カレナはハーフパンツだった。
赤茶髪の三つ編みで目はパッチリしている。背格好は私と同じぐらいで160cm前後だろう。
そこは自由に作り替えられる仮想世界であり、リバティアスを再現し、町を人を魔物を再現し、
プレイヤーと呼ばれる本物の人間がデモンオーガ討伐をシミュレーションし、戦術は固めた。
こんな話信じるだろうか。
ジンギにこれまでの経緯を説明する。
廃村のデモンオーガについては実際にプレイヤーが討伐した映像を万能鏡で見せる。
ジンギはなるほど、と頷いてはいたが、難しい顔をして問いかけてきた。
「やり方があるっつーのは分かったが。こんな少人数で挑むのか?」
討伐したのは必要最低限4人のパーティだ。しかも何度もやり直している。
これで一発勝負の本番に挑むのはリスキーだ。
「いや、さすがに10人は編成した方がいいかな。回復は多めにね。集まりそう?」
前衛と後衛半々で5人の2パーティでローテーション出来るぐらいでないと厳しいだろう。
「俺だって王都じゃ名の通った傭兵だ。意地でも集めるさ」
ジンギも人望はある方だが、相手が魔獣となると他の傭兵も及び腰だ。
報酬を積んでも集まりが悪い。
1週間後、結局集まったのは8人だった。
「クソッ軟弱者どもが!」
思ったより集まらなかった状況に苛立ったジンギは吐き捨てる。
「まぁ、十分でしょ。理論上は勝てるはずよ」
「アニキ、やりましょうや!」
「あの野郎にリベンジの時だ!」
傭兵仲間たちはやる気の様だ。
「ナレカが持ってきたネタって言うのがアレだわ。報酬は十分に出るのかしら?」
魔術師の女、リマが聞いてくる。いつも傭兵団のお金の管理をしている人だ。
以前、異界交信失敗して魔獣を連れてきた際に退治を手伝ってもらった。
無償労働だったので、相当根に持ってるようだ。
「リマさん、厄介ごとを起こしたのは異界交信で魔獣連れてきた時だけですよね?
お金は心配しないでください。討伐に成功したら何が何でも賢者会から引っ張り出します」
「当然よ。まぁ倒せる根拠もあるみたいだし、今回はそれに乗ってみるってだけよ」
まだ、信用されていないようだ。
8人のパーティはデモンオーガを討伐しに廃村に向かった。
廃村の奥にいたデモンオーガは人間の匂いを感じて立ち上がる。
改めてあのシミュレーションの再現度の高さには驚かされる。
「よし、全員散れ!」
ゲーマーたちのやり方と同じようにやろうとする。
しかし、やはり前に向かって交わすというのに慣れていないせいか、
反射的にバックステップで距離を取ろうとしてしまい吹っ飛ばされていた。
「落ち着いて! 前に! 奴の足元に行って!」
アタシは前衛に怒鳴る。
魔術師のリマは村長の家の屋根の安全地帯から中級女神術ミドルフレアをぶつける。
最初の2回ほどは上手く当てていたが、前衛が吹っ飛ばされて引きつけ役がいなくなったため、
デモンオーガは村長の家を攻撃し始めた。
砂埃が舞い上がって家が半壊したため、リマはバランスを崩し転落してしまった。
ガサッ!「痛ったぁ」
生きてはいるようだ。
何とか弓使いが動き回って注意をそらすが、足場が悪いため、何度も転びそうになる。
その間に吹っ飛ばされた前衛とスイッチして待機していたジンギが突撃する。
今度は腕の攻撃を前に交わして足元に潜る。
「うぉぉぉぉっ!」
がむしゃらに闘気を込めて足元を攻撃する。デモンオーガは苦悶の表情をしていた。
デモンオーガの足から血が噴き出る。ジンギは返り血を多少浴びても気にせず攻撃した。
しかし、それが仇となり動きが少しずつ鈍くなっていたため、デモンオーガの膝蹴りを食らう。
ジンギは踏みとどまって攻撃を続けた。これがアドレナリンドバドバの状態か。
幾度となく足元を攻撃していたので、デモンオーガが膝をついて四つん這いになる。
ジンギはチャンスとばかりに頭を攻撃する。他の者も続いて頭を攻撃する。
しかし、この状態でも片腕を使って薙ぎ払ってくる。今度はジンギがふっとばされた。
これはゲームではなかった動きだ。
「ジンギ!」
思わず叫んでしまった。
「大丈夫だ。アイツ大分弱ってるから威力も落ちてやがる。イケるぜこれ!」
最初に吹っ飛ばされた前衛の回復が終わったため、前衛をジンギとスイッチして攻撃する。
続けてジンギにヒール、足りない分はポーションで回復させる。
デモンオーガとの戦闘は予想より苦戦していた。パーティメンバーにも疲れが見えていた。
あれだけ再現しても想定外の事態が多い。
しかし、デモンオーガの足のダメージも相当な様で、一度四つん這いになったら中々立ち上がれない。片腕で薙ぎ払うことしかできなくなった状態はチャンスだった。全員で一斉攻撃をかける。
中々作戦通り進まなかったが、何とかデモンオーガの討伐に成功した。
「よっしゃぁぁ!」
「ざまぁみろ!」
リベンジを果たした傭兵たちは上機嫌だったが、アタシは納得できなかった。
「やっぱりアンタの持ってくるネタは碌なもんじゃないわね。でも、素材はまぁまぁの値段で売れそうだし、奴がレアなもの呑み込んでたみたいだから、これらは報酬として貰っていくわよ」
「構わないです。あと、約束通り賢者会から金ふんだくってきますよ」
リマはフンと鼻息をして、廃村の村長の家の方へ向かった。
「どうかしたんですか?」
アタシは廃村のさらに奥に進むリマを呼び止めた。
「転落した時に色々落としちゃったみたいなのよ。先に帰っててくれるかしら?」
「ジンギはどうする?」
「リマが戻ってくるまでここで待ってるぜ。それよりさっさと金取って来いよ」
「はいはい」
アタシは廃村を出て王都に向かった。
死者こそ出なかったものの重症を負った者が3人出ており、予想より犠牲が多かった。
想定外の事態もかなりあった。ゲーマーのアイツ等ならうまく対処できたのだろうか?
カレナならもっとうまくやれた?
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
面白いと思った方は、いいね、評価、ブクマ、感想、誤字ご指摘、何でも結構ですので、いただけますと幸いです。