第6話 カレナの戦術
死んでからリスタートまで30分のインターバルを設けている。
全滅プレイを避けてもらうため、死ぬことによるリスクを設けている。
「何もできなかったな」
「範囲攻撃抜けないとな」
「何をされたか見た奴いるか? 後ろにいたマリはどうだ?」
「うーん。腕をぉ振り回したみたい。ちょっと伸びるみたいですねぇ」
後方のマリと呼ばれた魔術師の女の子は見ていたようだ。
デモンオーガは腕が大きく、そして長く、さらに伸びる。
腕を振り回しただけで衝撃が起きるほど高威力なようだ。
「その人数でやるのはやはり無謀ね」
ナレカはため息交じりに言う。
「まぁまだ1回目です。もう少し静観しててください」
ナレカにちょっと様子見するようにお願いした。
「もう一回やってみるか」
「よし、ちょっと作戦を変えよう」
メンバーはまた装備を整えて再挑戦する。
「なるほど。復活できるとはこういうことね」
ナレカは一応の納得はした。
「そうです。そして何度も挑戦して攻略法を編み出します」
ナレカは顔をしかめた。
「そう簡単に行くとは思えないけど?今ので魔獣に対してかなりの恐怖が植え付けられたはず」
「ないない。ここはゲームの世界ですし、アイツらゲーマーですもん。
そりゃ多少のトラウマはあるかもしれないですけど、アドレナリンドバドバですよ」
「アドレナリンドバドバはよく分からないけど、やる気ってことね」
ナレカはしばらく見届けることにした。
その後、数回挑戦して歯が立たず、パーティは挑戦をいったんやめた。
「ほら、やっぱり諦めたじゃない」
ナレカがぼやく。
それにギンジが答える。
「ん? 今のレベルじゃ勝てなそうだから少しレベル上げしようと思ってな。
しばらくしたらリベンジだ」
「レベル上げ?」
そういえば説明してなかった。
現実世界ではピンとこないだろうな。
「修行すれば強くなりますよね?その要領です。体力作りだと思ってください」
また無理くり説明する。
「あとは、もう少し弱めの大きい敵と戦って慣れないとねぇ」
「それと、装備のランクも上げた方がよさそうだ。マリ、お金ちょい使っていい?」
「使いすぎないでよぉ」
彼らはまだ諦めてないようだ。
私はメンバーに助言する。
「お疲れ様。いろいろ分かったことがあるんだけど」
軽く説明をしようとしたところ、
「おいおい。お前運営側だろ?管理者が答えを言うのは反則じゃないか?」
ギンジが割って入ってきた。
「ちょっと事情があってね。それにこの敵はリバティが、あーAIが生成したから、
私も行動パターンは知らないよ。イチプレイヤー、イチ賢者としての助言」
「それなら、まぁ、いいか」
パーティメンバーも耳を傾ける。
「まず、範囲攻撃の回避方法だけど、バックステップでは衝撃に巻き込まれちゃうから、
前方に避けて。敵の足元が安全地帯だと思う。ただし踏みつけには気を付けて」
敵の足元に向かって回避する。
ゲームではよくやる戦法だが現実でやるのは勇気がいる。
踏みつけは警戒しなければならないが、巨大な腕に比べて足は貧相だ。
その小さな足から繰り出される攻撃であれば耐えられるはず。
「それから、この廃村エリア限定だけど、村長の家の屋根の端に安全地帯があるみたい。
そこからであれば遠距離から一方的に攻撃できるはず。ただし家が壊れそうになったら退避してね」
地形でアドバンテージとれるなら積極的に利用した方がよい。
「なるほど。何度も挑戦できる状況なら勝ち筋が見えてくるってわけね。
犠牲を出さずに攻略法を研究できるのは悪くない」
ナレカは納得した、が、
「しかし、なぜ人数を増やさないの?戦力増強ならそれが手っ取り早いじゃない。
どうせここでは死なないんでしょ?」
納得はしつつも腑に落ちない点を指摘する
「ナレカさんの世界の討伐隊は、人員は十分にいらっしゃるんですか?」
「いないから困ってるんだけど」
だよね。分かってて聞いたんだ。
「そうですよね。これはリバティアスの再現です。討伐隊の人員も十分にいない状況のなか、
できる限り少数精鋭で、安全に勝つ方法を見つけます」
「そんな都合のいい攻略法あれば苦労しないんだけどね」
ナレカはぼやきながら、またパーティの様子を伺う。
しばらくしてレベル上げと装備を整えたパーティは再挑戦を始めた。
ギンジ達前衛はデモンオーガの初撃をセオリー通りフロントステップで交わし、闘気を込めて足元を執拗に連続斬りで攻撃する。
デモンオーガは蹴りを放ってくるがこれはガードで防ぎきる。戦士役は多少のダメージはお構いなしだ。踏みつけもしてきたが、足を上げる予備動作が分かりやすいため、回避していた。
一方、後衛の弓使いはデモンオーガの攻撃範囲外からチクチク攻める。
マリ達魔術師は村長の家の屋根の安全地帯から詠唱して一方的に女神術を当てる。
あの巨体を怯ませるには中級女神術が必要だ。詠唱中は無防備なため、安全地帯から中級女神術を詠唱し、腕を振り回す直前のタイミングを見計らってミドルフレアをぶつける。
「ふーん、うまいね」
ナレカは感心していた。
「そうですか? ゲーマーなら普通の動きですよ。リトライの成果ですね。
重要なのは敵にできる限り何もさせずにこちらの攻撃を一方的に当てることです
この人たちは日々そんなことばかり研究してるんですよ」
「よし、ちょっと映像撮っていい?万能鏡で記録したいんだけど。今後の作戦のヒントになりそうだから」
「どうぞ。ですが撮り直しになるかもしれませんよ?」
ナレカは万能鏡に映像を記録し始めた。
何回もリトライしてるから撮り直しになるかもしれないと話したが、
特に気にしてる様子はなかった。
程なくしてデモンオーガの討伐に成功した。
「ふぅ、やったか」
「オレ、被弾しなかったわ」
「まぁまぁ楽しめたね」
「そこそこのアイテムですね~」
ナレカは驚いた表情をしている。
「まさか本当に数人で討伐できてしまうとはね。しかもこんなに早く」
こんなに早くとは言うが、ここに至るまで20回はリトライしている。
「よし、折角だから、この戦術を現実世界の廃村のデモンオーガにも試してみようかな」
リアルのリバティアスのナレカ本体はどこかへ向かっているようだ。
えっと、この人本気なのかな?
「え? あの、もっといい方法があるかもしれません。もっと安全な方法を――」
慌ててナレカを引き留める。
現実世界はほぼ一発勝負だ。命に係わる分、可能な限り安全策を取った方がよい。
が、ナレカは話を聞く気はないようだった。
「いや、いいよ。これで十分。ゲーマーとやらで攻略できるのなら、本物の傭兵にもやってもらわないとね。それよりベータテストとやらはクリアなんだよね?」
「はい、なので、王都周辺だけでなく、まずは王国全体を再現します。隣国は追々ですね」
「そうね。元々他国はその国の賢者がプロテクトかけてて簡単には透視できないの」
他の国にもナレカのように透視投影の魔術を使える賢者達がいるようで、
その者たちが自分たちの国の機密を守っているようだ。王都も例外ではない。
仕組みはよく分からないけど、レーダーの様なもので、ジャミングも可能ということなんだろう。
その後、ナレカに王都全域、隣国の手前までを透視投影してもらい、
その地形をリバティで読み取ってゲーム上に構築し、人や動物、魔物を配置した。
ある程度の広さのフィールドが出来上がったので、
MMORPGとしてオープンにプレイできる状態になった。
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