第55話 ナレカとティアジピター
◇東京◇
私はゲームをログアウトして仮眠室に行くため廊下を歩いていた。
見知った顔の人が前から歩いてきた。
「疲れた顔をしているね。カレナチーフ」
「道楽社長、お疲れ様です」
我が社の社長、香月 道楽である。
このゲームを作るのに反対意見もあったのだが、社長が許可を出してくれた経緯がある。
「バグの件、解決したかい?」
「取り合えずの対処はしました。原因は分かったのですが、
普通のウイルス対策ではダメそうですので、”外部の者”に協力を依頼します」
”外部の者”と言っても関係者だし、面倒ごと持ってきた張本人だから何が何でも協力してもらうけど。
「そうだろうね。助力が必要だったら言ってくれ。お金もある程度は工面する」
そうだろうね? この人はどこまで知ってるんだろうか。
「はい、ありがとうございます。取り合えずちょっと寝ます」
私はそう言って仮眠室に入室した。
◇リアルリバティアス◇
船長から定期船の準備ができた旨の連絡が来た。
アタシは宿泊所から出て定期船に乗り込んだ。
「船長、短い間ですがお願いします。昨晩本国と調整して新しい船を用意することが出来そうです。
船の資材と船大工も数日後には到着することでしょう」
クラウドが船長と話し込んでいる。どうやら万能鏡で本国と連絡を取っていた様だ。
「助かります。では、船を出しますので、皆さん乗ってください」
船長はアッサリ応対した。私達とは目を合わさない様にしている。
リマ達はフン!と言いながら船に乗り込んでいった。
以前とは違って静かに船は進んでいる。波も穏やかだ。
ヌシと戦った辺りを通っているが、当然何も起きない。
カレナが言っていたヌシの巣と思われる穴が所々に見て取れた。
「やれやれ、ようやく静かな船旅になったじゃないかい」
キズミは甲板から外を見ている。静かなのは今の内かもしれない。
だけど、アタシはカレナが言っていたことを思い出して気が重くなっていた。
「皆さんティアジピターの停泊所はもうすぐです。下船の支度をお願いします」
船長が目的地到着の旨を伝えに来た。目が笑ってない。塩対応だ。
メンバーは下船の支度をしていた。
「おや?何だか人が集まってますね」
またか。こういうのは大体禄な目に遭わない。
「検問でしょうかね。私が話しをして参ります。帝国軍の皆様もご同行願えますか?」
船長はそう言って小舟を出して帝国軍と一緒に停泊所へ話しをしにいった。
船の上にアタシ達だけ取り残された。すごーく嫌な予感がする。
船長と向こうの兵士らしき者達が船に乗ってこちらに戻ってきた。
帝国軍は一緒にいないようだ。先に行ったのかな。
「大変お待たせしました。こいつ等が聖獣を傷つけた罪人共です」
「ご苦労。罪人どもめ! 大人しくしろ!」
兵士達がアタシ達の腕を掴んで拘束しようとしている。
兵士達は鎧を着ているが、犬の顔をしている。
ティアジピターは獣人が多い国だと聞いている。
「おいおい、なんだよこれ!」
ジンギとキズミは抵抗している。
「私は聖獣を傷つけてはならないと再三申し上げたはず」
言ってないよ! 船長は保身のためにアタシ等を売ったらしい。グルだったのかな。
カレナの言う通り歓迎されないとは思ってたけど、ここまでとはね。
だけど、こんなのクラウドは納得しないだろうから、帝国軍は先に通したんだね。
「ティアジピター連合国辺境軍である。貴様等には我が国へのテロ行為の嫌疑がかけられている」
テロってどういうことよ。随分誇張されてるようね。
「ちょっと待ってよ! 何の根拠があってそんなこと言ってるの?」
バシッ! 兵士にひっぱたかれた。
痛ぁ。なんか私殴られてばっかりじゃない!
「大人しくしろと言ったはずだ! 貴様が首謀者か? その格好、陰湿王都の賢者会だな。
噂通りの卑怯者め! わずかな詠唱も許さん」
泣きたくなってきた。賢者会って、こっちでは悪評なの?
とはいえ、今抵抗しても勝ち目はない。
「ジンギ、キズミ、ゴメンだけど取りあえず大人しくしよう」
「ったく、何だってんだい!」
アタシは2人を宥めた。
アタシ達は大人しく辺境軍の指示に従い、拘束具を付けられ連行された。
「貴様もさっさと立て!」
兵士はナルカを腕をぐいっと引っ張っていた。
「ごめんなさい。ナルカは訳合って意識がないの。乱暴しないでくれない?」
「ふん、失魂症か。だが、拘束具は付けさせてもらう」
取りあえずよかった、話しが通じて。
しかし、失魂症というのか。この国では似た例があるっぽいね。
◇
アタシ達は、そのまま馬車に乗せられた。外は見せてもらえないようだ。
逃走ルートを分からないようにするためだろう。
「おい! これからどうすんだよ?」
苛立ちを抑えられないジンギが小声でアタシに聞いてきた。
「まぁ、成り行きに任せるかないだろうさ。
だが、極刑なんて話になったら全力で抵抗するよ!」
キズミは兵士に聞こえたら面倒な事を言っている。
まぁ、アタシもこんなところで死ぬわけにはいかない。
「着いたぞ。降りろ」
馬車は止まった。アタシ達は兵士の指示で外に出た。
町の中の様だ。獣人が多い。どうやらティアジピターに到着したようだ。
「なんだ。人間? 罪人か?」
「分からないけど、相当悪い事した人間みたいね」
ヒソヒソとアタシ達の話をしているのが聞こえる。
「賢者会の女、車椅子を用意した。失魂症の女はお前が連れて行け」
アタシは言われた通りにナルカが座っている車椅子を引いて移動した。
「俺らは牢屋にぶち込まれるのか?」
ジンギは兵士に聞いたが、兵士は無視している。
ジンギは「ちっ」といってそれ以上何も話さなかった。
しばらく歩くと大きな宮殿が見えてきた。
王都ティアマーズとは建物の雰囲気が随分違う。
「この国の王が住んでる城かね? 王都の城よりデカいんじゃないかい?」
「そうかもね。まぁ、王様には会えそうにないけどね」
キズミとそんな話しをしていると、兵士に睨まれた。
キズミはブツブツ文句を言いながら会話を止めた。
宮殿に入りそのまま地下へ移動する。地下牢かな。多少は清潔であってほしいけど……。
「お前達は牢に入っていろ。賢者会、お前にはこれから尋問をする」
「おい、乱暴にするんじゃねぇぞ!」
ジンギは兵士に食ってかかっているが、兵士に牢屋へ押し込まれてしまった。
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