第54話 カレナとベラカス伯爵
ベラカス伯爵と名乗った男は、また態とらしくお辞儀をした。
仲間がヤられて怒ってるという雰囲気ではない。遊びに来たんだろう。
「サールテでは物足りなかったようですので、今度は小生が力を披露させていただこうと思います。
ここは仮想世界で人は死なないのでしょう?大サービスです。存分に勉強なさってください」
要はゲームの世界であることを承知した上で、遊んでくれるらしい。全くお優しい限りだね。
ベラカス伯爵が両手を広げると、虫の軍勢が後ろから湧いて出た。
チャリティソードは全員臨戦態勢だ。
「サールテ――。前のサバイバルクエストの一件か。ならば全力で行かせてもらう!カムイ!」
ロウガはカムイに詠唱指示をしたのと同時に左手に持った剣で虫に切りかかった。
カムイは術の詠唱を始めた。そのカムイを守るように数人が立っている。
「各員陣形!爆炎、それは女神の憤怒、広域神術付与」
カムイは再び付近のメンバーに一斉に神術付与をかけた。
「火炎狼烈破拳」
ドドドドドドドドッ!
炎の狼が出現した虫を一掃する。
「やりますね。私が使役している魔蟲をこうもあっさりと」
奴にはまだ余裕がある。大群を連れてきているようだ。
「どうやって、これだけの虫を連れて来たんですかね?」
聞いたところで答えてくれるかは分からないけど、一応聞いてみた。
「もちろんあなた方がご用意して下さった転移魔法陣を通ってきましたが?」
ベラカス伯爵はさも当然と言わんばかりに答えた。
「真面目に答えてくれるとは思ってませんでしたが、そんなの気付かない訳ないでしょ」
「そこは、この庭園の支配権をいただきましたので」
支配権? まさか管理者権限?
「え?電脳世界をどうやって好き勝手に?」
ファンタジー世界にITなんてないだろうにどうやったんだろうか。
「つい最近まで猛威を振るっていたウイルスがあるでしょう?」
ベラカスはヒントを小出しにして楽しんでいる。
「まさか、スカラベ?取り込んだの?」
「ええ、あれと小生の相性は抜群でしたので、取り込ませていただきました。
この世界のことはウイルスの製作者が色々教えてくれましたよ。
この世界であれば、ただのデータに過ぎないと思っていましたか?」
お喋りな奴のおかげで、カラクリは分かった。
コンピュータウイルスと融合とかもう無茶苦茶だね。
スカラベの製作者はまだ逮捕されてない。先に奴の駒にされちゃったか。
「さあさあ、どうしますか? ご自分の得意な場所がまさかこのような事に――」
キィィィィン!
ベラカス伯爵の言葉を遮るようにギンジは切りかかったが、背中から生えている蜘蛛の足でガードされた。
「おっと、危ない危ない、話の途中なのですが―― !?、おやおや……」
ギンジに一瞬気を取られた隙に次の広域神術付与が完了していた。
「火炎狼烈破拳」
ドドドドドドドドッ!
炎の狼が一斉にベラカスを遅う。全部はガード仕切れなかったようだ。
「隙あり! 火炎瞬突!」
トスッ!
さらにギンジの突きがベラカス伯爵の腹部を貫通したが、手応えのある様子ではない。
ブワッ!
ベラカス伯爵は大量の羽虫に分裂して数メートル移動した先で再び集まって元の姿に戻った。
その後も隙を与えないようにチャリティソードのメンバーが順番に斬りかかるが、ベラカス伯爵は同様の手口で分裂と集合を繰り返し、回避している。
「うわっ、面倒くさい奴だコレ」
私は思わず声を上げた。普通に戦っていても有効打を与えられない。
私はカムイに目で合図をしてから、小声で上級女神術の詠唱を始めた。
「いえいえ、数匹犠牲になりましたので、全く効かなかった訳ではありません。
体したものですよ。では、こちらも少し趣向を変えましょう」
ベラカスにはまだ大分余裕がある。
「なーら、跡形もなく灰にしてやんよ! 爆炎!それは女神の憤怒――」
カムイが目立つように上級女神術の詠唱を始めた。
「おーっと、させませんよ」
ベラカス伯爵は右手を分離させた。
バラバラになった右手は無数の蜂になってカムイに襲いかかる。
「カムイさんを守れ!」
数人のチャリティソードのメンバーがカムイを取り囲む様にして陣形を組む。
前衛は剣を振り回して蜂を追い払い、後衛がカムイの周りにバリアを貼った。
ブスッ!
「ぐあぁぁぁっ」
蜂に刺された数人に毒が回って悶えている。
「フッフッフッ、さて、いつまで陣形を崩さずにいられますかね?
――おっと!」
ガキン!
「てめぇ、無視すんじゃねぇよ!」
ギンジが後ろから切りかかるが、背中の蜘蛛の足でガードされ、さらに口から蜘蛛の糸を吐いてギンジの動きを封じた。
「なんだこれクソッ!」
ギンジは何とか蜘蛛の糸を解こうと悶えている。
「えーと、えーと、どうしよう」
私はオドオドして周りを見渡した。が、隠れて詠唱は続けている。
「ふむ。もう少し頑張ってくれるかと思いましたが――!おや? アナタが本命ですか!」
私の演技に気づいたのか、ベラカスは左手を分離させた。
バラバラになった左手は今度は角の尖ったカブトムシになった。
ヒュヒュヒュヒュヒュッ!
壁役のタンクがガードしたが、盾を貫通してダメージを受けている。
「ほぅら、私の相手をしている場合ですか?」
私は挑発するように注意をカムイの方に向けさせた。カムイの詠唱が完了している。
だが、バリアを貫通したのかカムイも毒を受けて苦しそうだ。
「舐ーめんじゃないよ! くらいな! ハイフレア」
巨大な炎の固まりは蜂を飲み込んでベラカス伯爵の方に飛んでいった。
ベラカス伯爵は「ふむ」とだけ言って体をバラバラにして羽虫になって四方八方に散らばった。
広い範囲に羽虫は逃げたため、ハイフレアから逃れたのがいる。
「逃がすか! 一匹残らず蒸発させる! カ・レ・ナ・ビィィィム!」
私は逃れた羽虫めがけてハイライトを放った。
円を描くようにハイライトの角度を変えて行って順番に羽虫を塵にしていく。
ハイライトが消えたところで後衛が残りの羽虫を一掃した。
その後、前衛たちは地上に残っている魔蟲を一掃した。
ようやく目に見えるところに魔蟲はいなくなった。
「終わった……のか?」
剣を収めながらロウガは辺りを見回す。
「いや、倒せてはいないでしょうね。逃げられた、かな。リバティ、どう?」
私はリバティに索敵を指示した。
(チーフ、付近に蟲はいません。おかげで管理者権限を取り戻せました)
さすが、リバティ。スカラベの方の対処も終っているようだ。
「逃げられた? 分かるのかよ?」
「多分ね。細かいのが集まって体を形成してるタイプは分身作れる奴だから、本体に逃げられたか、そもそも本体はこの場にいなかったか、だね。
面倒くさかったけど、サールテより弱かったし」
私はギンジの質問に答えた。マンガやゲームでは、大体しぶとい奴等だ。
「取り合えず皆お疲れ。庭園が安全かはもう少し調査するとして、今日はログアウトして休んで」
「うむ、だが、次のことも考えねばなるまい」
「次のこと?」
「ベラカスも相手にするとなると、40人程度では心もとない。
精鋭をもう少し集めたいところだ。そうなると――」
何か考えがあるようだが、纏まってないのかロウガは途中で話すのを止めてしまった。
チャリティソードの面々ログアウトしていった。
「さてさて、もう一度ナレカに会わないとね。はぁ~、また異界更新からか~」
私の見通しが甘かったせいだけど、なんとも気が重い。
「魔族の件はクラウドさんにも伝えないとですね。ですがチーフも少し休んでください」
「そうだ、休め休め」
ナレカには早めに共有しないとだけど。取り合えず休むか。
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