第52話 カレナの推測とナレカの不安
「そうなるね。この辺りに巣があったとか、出産の時期だったとか?」
アタシは適当に思ったことを口にしてみる。
「川の底に穴がいくつかありました。それが巣だと思います。
多分蟻の巣みたいに穴は全部繋がってるんじゃないですか?
川底の土には魔力を弱める作用がある様です。突然現れる様に錯覚したのは、巣穴に潜って感知しづらくなって、船に近い穴からパッと出て来てたからですね」
川底は奴の巣になっていたのか。全然気づかなかった。
では、定期船が通ったくらいでは、ヌシは今まで怒らなかったということか。
「なるほど。それで川底を事前に調べていたのですね。
で、岩を落としていたのは、水を濁らせるだけではなく巣穴を塞いでいたと」
クラウドはカレナの戦術に納得していた。
「そんなピンポイントに塞ぐことはできないので、障害物程度ですね。
あと、性別は分かりませんけど、繁殖してるんですかね? そんな何匹もいるんです?」
カレナは出産にも否定的な意見だった。確かにヌシは今回初めて遭遇している。
繁殖期なんて話は聞いたことがない。
「ヌシの目的はこちらからティアジピターに行く人を阻止することだった。
だけど、それは人の都合で、ヌシのメリットにならない気がしてます。
例えば、向こう側の誰かがヌシにそれをお願いしたとかじゃないですかね?
いや、対価を用意できるのかな。あの暴れっぷりはむしろ無理矢理……」
カレナはブツブツと推測を述べていた。
ティアジピターの人々がこちらを襲うようにけしかけたってこと?
「向こう側の人々が我々を襲うように、ですか。しかし何のために?」
クラウドは否定をしなかったが、腑に落ちない様で、カレナに問いかけた。
「それは向こうに着いたら分かるかもしれません。ただ、歓迎されないかもしれませんよ。私とナレカさんが、いる、いないに関わらずね」
「アタシをアンタと同じ括りにしないで欲しいんだけど。
でも覚悟はしておいた方がいいかもってことね」
話し込んでいる内に船は無事に停泊所に帰港した。
「じゃ、私は戻りますんで、ナレカさん、転移魔法陣消しといてくださいね」
アタシは了承した。この辺に虫は見当たらないけど、警戒しているようだ。
「今日は本当にありがとうございました。またの機会に」
「疫病神らしいんで、会わない方がいいんでしょ。
ナレカさん、土産話待ってますね。ちゃんと虫の件調べて下さいよ」
カレナは一方的に話をして転移魔法陣の中に入っていった。
ナルカはその場に座り込んでしまった。かなり疲労が溜まっているだろう。
「……一方的に助けてもらいましたが、虫の件は調査しないといけませんね。
残りのことは翌日考えるとして、今日は宿泊所で休みましょう」
みんな宿泊所に歩いて行った。
アタシはカレナに言われた通り転移魔法陣を消してから停泊所に向かった。
あんな話聞いた後で、土産話なんてあるか。
あれ? 転移魔法陣消しちゃったけど、どうやって土産話伝えようか……。
アタシは考えるのをやめてナルカと宿泊所に向かった。
◇リバティアスダイヴ◇
私はリバティアスダイヴに戻ってきた。
「あ、チーフ、どうでしたか?」
ギンジと雑談していたユウキは私に気づいて状況を聞いてきた。
「ヌシはやっつけたよ。船沈没させたから船長がブチ切れてたけど。
あ、壊したのは私じゃなくてナレカさんなんで」
ユウキは頭を抱えて首を横に振っていた。
「あーあ、ナレカも可哀想にな。で、虫の方は何か分かったのかよ?」
ギンジはナレカに同情しつつ、私に聞いてきた。
「虫の件はさっぱりだね。それはティアジピター着いてから調査してもらう。
まぁ、歓迎されるか分からないけどね」
私は両手の平を前に向けて、分からないのジェスチャーをした。
「歓迎? どういう意味です?」
「ヌシが襲ってきた原因が向こう側の人の仕業かもってところ。
あ、その話はちゃんとしたからね。それでも行くみたいだし後は自己責任」
話を聞いたギンジとユウキは顔を顰めていた。
「そいつは嫌な感じだな。つーか面倒事が増えちまったな」
面倒事が増えたのは向こうにとってはそうかも知れないけど、私達には関係のないことだ。
「やや心配ではありますが、ナレカさんから情報が来るまでは、こちらで調査継続ですね」
ヒュゥゥゥン
ユウキがそう言っている傍らで転移魔法陣が消失した。
「あれ?おい、転移魔法陣消えちまったぞ?」
ギンジは予想外のことが起きたような感じで聞いてきた。
「あぁ、ナレカに消せって言ったの。こっから虫が入って来るかもしれないから」
「そ、そうですか。では、ナレカさんからの情報はもらえなそうですね……」
ユウキは苦笑いをしながら答えてきた。
ん?
「いや、ナレカさんには情報が入ったら持って……来いって……あ」
「転移魔法陣消えちまったな。それにナレカはティアジピターに行くんだろ?
どの道ティアマーズの停泊所に転移魔法陣あったって意味ないだろうけどな。
また頑張って異界交信やるしかないな」
ギンジは淡々と状況を説明してくれる。
もぉぉぉぉ。
私は髪をわしゃわしゃして自分の見通しの甘さを恨んだ。
ザッザッ
「カレナ殿、こちらにいたか。少し話が」
チャリティソードの団長ロウガがこちらに来た。
「あ、お、お疲れ様です。どうしました?」
私はくしゃくしゃの髪の状態でロウガの話を聞いた。彼は全く動じていない。
「実はあれから、カマキリ以外の種を見かける様になったのでな。
クモとムカデとサソリ型だな。何れもカマキリの様に手強い相手だ。
こちらに録画してあるから目を通してもらいたい」
ロウガはそう言って万能鏡を手渡してきた。
クモは糸を吐いて攻撃している。
ムカデは丸まって突進したりしている。
サソリはハサミと尻尾で攻撃している。
どれも厄介そうだ。一気に三種も増えたか。こりゃ面倒臭いことになってきたなぁ。
「リバティ、どれもデータベースにはない種だよね?」
(はい、チーフ。もちろんクモやムカデやサソリの魔物は既存の種にいますが、それより凶悪なのは以前のカマキリと同じです)
リバティは肯定した。既存種の上位種なのかなぁ。
「一応確認だけど、ここで開いてた転移魔法陣から入って来たんじゃないよね?」
向こう側には虫はいなかった。そうでないと信じたいが。
「我々も見張っていました。流石にあのサイズは気づくと思いますが」
では、虫共はどこから入ってきたのだろうか?さっぱりだ。
「このまま後手に回るのは少々分が悪いと思う。
この際、情報を開示して徹底的に駆除するべきではないか?」
「私も同意見ですチーフ。そろそろ隠してはおけないでしょう。
この際だから他のプレイヤーにも討伐に協力してもらったらどうでしょうか?」
私はしばらく考え込んだ。ま、それもそうだよね。
「OK。んじゃ、長期的なクエストとして、虫駆除やってもらいますか」
掲示板に虫の魔物討伐クエストを告知した。
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