第5話 カレナとベータテスト
「……気は済んだ?」
ナレカは完全に諦めモードで半分疲れていた。
カレナが一般人だったのもあるが、遊戯のための世界作りに付き合わされるとは思っていなかったようだ。
「一応いったんプレイできそうです。ありがとうございます。
ではプレイヤーを募ってベータテストしましょう」
「プレイヤー?何をするつもり?」
ナレカはカレナが言っている意味がよく分からなかった。
「プレイヤーにこの仮想のリバティアスを体験してもらうんですよ。
これからプレイヤー、えっと、本物の人間がこの仮想世界にログインして魔物を討伐していきます」
「は?何言ってるの? 負けたら死ぬかもしれないじゃない? 人の命を何だと思ってるの?」
ナレカは不快感を露わにした。
「すみません。説明が足りませんでしたね。これは仮想現実ですから、戦うのは本物の人間が操作するキャラ、というかアバターですよ。本当の死者は出ません。意識体だけいらしているナレカさんと同じと思ってください」
「この世界では意識体分離が一般的なの?」
無論そんな魔術は実装していない。
「みんなが同じ夢を見てるだけですって」
無理くりな説明をする。
チャットでギンジたちを呼んだ。
王都に数名の冒険者がログインしてくる。
「カレナ! こりゃスゲーな。何があった?」
「めっちゃリアル」
「ベータテスト楽しみですねぇ」
ギンジのパーティが揃った。リアルな世界にテンション高めだ。
パーティメンバーに簡単にテストの概要を説明する。
「まずは、周辺の野獣を討伐してみてくれる? お金を多めに持たせたから装備は適当に揃えて」
通貨もリバティアスのものを再現した。
「そちらのお嬢さんは? 親戚か?」
ギンジはナレカを指さして聞いてきた。
「えっと、ナレカさんって言うんだけど、まぁ友達ってところ。このゲームの世界観のアイデアを出してくれた人、かな」
「はじめまして、賢者のナレカって言うの」
異界交信で私と意思疎通ができるようになったため、私と同じ言語を使う仲間と会話できるようだ。つくづく都合のいい魔術だね。
「なんか名前も似てるな。姉妹じゃないのか?」
「私も似てるなと思ったけど姉妹じゃないよ」
「アタシには妹いるけど、彼女とは全然似てないよ。
そういえばアナタも知り合いの傭兵に似てるね」
誰のことだろう? リバティアスにいる人のようだけど。
まぁ私に似てる人がいるならギンジに似てる人もいるか。
「そうなのか? まぁ俺みたいな格好してる剣士は珍しくないだろうよ。
しっかし、やっぱこの世界観はカレナの発案じゃなかったか」
悪かったなセンスがなくて。
ナレカは半笑いだった。ちょっとイラっとした。
「おし、じゃぁやってみるか」
「装備装備っと」
プレイヤーの一行は装備を整えて王都の外に出て狩りを始める。
ナレカもお手並み拝見とばかりに付いていった。
まずはフィールドをうろついている熊の野獣を狩ってみる。
「おら!くらいやがれ! 三連斬!」
ギンジが三連続で野獣を切り払う。野獣は血を流し、やがて絶命した
「爆炎!それは女神の憤怒! ローフレア!」
魔術師の女の子が唱えた火球が野獣を焼き払う。野獣はしばらく燃え続けた後、絶命した。
リアリティを重視するため死体は残す仕様にした。
一時間後ぐらいには消えるのだが。
一行は危なげなく野獣たちを討伐していく。
ナレカはその様子をじっと見て自分の世界との違いを感じていた。
プレイヤー達は明確に役割が分かれていて戦術が組み上がっているようである。
粛々と役割をこなして、敵を倒していく。
ナレカの世界の戦士たちは個人技に走りがちだとか。
賢者会が全盛期のころは統率が取れていたが、劣勢になるにつれて統率は崩れていき、
やがて自分が生き残ることに執着し他人のことを考える余裕がなくなっていったらしい。
魔剣士や魔戦士が多いのも理由の一つで、一人で近距離も遠距離もある程度こなせるかららしい。
一方プレイヤー達にはまだ余裕がある。
「操作感はかなり繊細だな」
「めっちゃリアル」
「それ、さっきも聞いた」
メンバーの評価はまずまずだった。プレイにも慣れてきたようである。
さて、これでベースはできた。
「ナレカさん、今苦戦しているのは魔獣でしたよね? どの魔獣でしょうか?」
ちょうど陸=デモンオーガ、海=デモンリザード、空=デモンワイバーンの具合で進行してきているようだ。
「王都周辺を荒らしてるのはデモンオーガ。直接的な被害を受けてるのはコイツ等ね」
ディナアースでは、魔域から進行してきた魔獣、デモンオーガが人里周辺に多く現れるようになった。王都周辺にも何匹か生息してしまっており、対処に苦労しているようである。
「まさか、ここに再現するつもり?」
「そうです。それがメインイベントです。取り合えず王都周辺にいる内の一匹について、
詳細なデータをください。戦った記録があるなら全部教えてください」
王都近くの廃村に住み着いているデモンオーガがおり、人々を襲っているらしい。
討伐隊の編成が何度かされたがその巨体とパワーで返り討ちにあっているとのことだ。
魔獣は通常攻撃はほぼ通らず、闘気を込めたスキルか女神術でないとダメージを与えられない。
ナレカは廃村のデモンオーガを透視投影する。そして戦闘の記録を一緒に見せてくれた。
過去に多大な犠牲を払ってやっと一匹討伐できたということらしい。
姿形だけでなく、動きも再現するのだから、この戦闘記録は重要だ。
しばらくして、リバティはデモンオーガを廃村に顕現させた。
リアルな魔獣にナレカは言葉を失った。
「じゃあ今日のメインイベント、魔物討伐クエストを組んだから、やってみてもらえる?」
ギンジたちに廃村のデモンオーガ討伐のクエストを発注する。
「お? 来たね」
「またHP高いだけの奴じゃないよね?」
「ま、やってみりゃ分かるだろ」
「レアアイテム持ってないかなぁ」
メンバーは適当に会話しながら装備を整えていく。
「まさかデモンオーガを数人で相手にするつもり?」
ナレカは無理だろうと思っていた。
討伐体20人の団体で返り討ちに合っているらしい。数人で敵うはずがない、と。
ナレカの話を聞かず、彼らは数人のパーティで廃村に出かけて行った。
廃村の奥にデモンオーガは住み着いていた。
デモンオーガは人間の匂いを感じて立ち上がる。
ナレカの表情がひきつる程度には再現できているようだ。
私とナレカは戦闘には参加せず離れたところから様子を伺う
「おわ!でけぇ」
「めっちゃリアル」
「よし陣形組め」
パーティはデモンオーガを取り囲むように広がる。
その時――
ズドォォォォン
メンバーの体が吹っ飛ぶ。
体力を半分以上削られた。
「ちっ、範囲攻撃か。広えな」
メンバーはバックステップで距離をとる。が、追撃を受けてまた吹っ飛ぶ。
デモンオーガは相当荒ぶってるようだった。
結局なすすべなくパーティは全滅し、30分後、教会に戻された。
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