第49話 カレナの下調べ
程なくしてティアマーズ外れの停泊所に既に何人かのパーティが集まっていた。
「おお、海に出るんですねぇ」
「これ、広いけど川らしいよ」
目の前に広がる川を見ながらマリ達が他愛のない話しをしていた。
「では、早速クエストを始めましょう。既に何人か始めてるみたいだし」
私とナレカはギンジ達と合流して空いてる船に乗り込んだ。
「寄ってたかって魔物リンチするんじゃシミュレーションにならなくない?」
「何言ってるんですか。敵も複数用意してますよ。船一隻に対して敵一体です。
戦闘エリアを囲って複数の船で相手できない様にしてますよ」
戦闘が始まったらエリアを囲って進入できないようにする。
もしくはレイヤを分けるとか、電脳世界ではいくらでもやりようはある。
私がそう説明するとナレカは「なるほど」と頷いていた。
私達はギンジ達のパーティに混じって船に乗り込み出航した。
船は静かに進み出した。皆辺りをキョロキョロしている。
「もうすぐ魔物のテリトリーだ。気をつけてくれ」
船員はNPCで構成されている。各状況に応じて会話してくる。
「さぁて、皆びっくりするぞー」
私はニヤニヤしながら様子を見ていた。
とはいえ、実体験するのは私も初めてだ。どんな感じだろうか。
ドゴォォォォォン!
巨大な影がフッと上昇してくるのが見えたと同時に船体に
もの凄い衝撃が走り乗組員全員の体が一瞬宙に浮いた。
「うわっ! なんだこれ? すげぇ!」
ギンジ達は体制を立て直して敵を探した。
「ーーっ! 相変わらずよく再現されてるね。敵は真下にいるから離れて!」
ナレカの号令で船が移動を始めた。水面に巨大なヌシの影が見えた。
「アイツか! よし、セナ、マリ!」
セナが弓で、マリが女神術で攻撃を始めた。
しかし、水中の敵は動きが早くて何度も攻撃を外していた。
「水の中の奴攻撃するの結構骨折れるね」
船体が揺れてバランスを取るのが難しい。これはゲームでも酔いそうだ。
「閃光! それは女神の昇天! ローライト」
私も女神術で攻撃した。
敵の一点を狙うのではなく、薙ぎ払う形でビームを横一文字に放った。
掠ったヌシは嫌がって体をウネらせている。
「さっすがカレナ!」
セナが私を褒める。たしかに当てはしたけど……。
「うーん。水だから威力落ちるね。ギンジ、斬撃は?」
「ああ、任せろ、飛空斬!」
ギンジは敵が旋回する動きを読んで、剣を降って斬撃を飛ばした。
タイミングはバッチリ、頭にヒットした。
ヴェェェェッ!
敵はまた嫌がって体をウネらせている。
「皆やっぱり巧いね。当て勘がいいのかな」
ナレカが皆を褒める。しかし――
「あれ? どこ行った?」
ドゴォォォォォン!
ヌシはまた潜って船底を攻撃してきた。このままでは船が持ちそうにない。
「うひゃあ! ねぇ、船の耐久値あとどれくらい?」
「分からねぇけど、カレナ、船の体力ゲージはないのか?」
セナとギンジが私に聞いてきた。
残念ながらそんなものは用意していない。
「私も分かんないけど、あ、待った。広域分析」
私は広域分析で船のウィークポイントを探った。
弱点は赤くなるが、船体は彼方此方真っ赤になっていた。
「あ、ゴメン、もうダメかも……」
「えぇぇぇ。これ、沈むんですか~」
マリが悲鳴を上げると、クエスト失敗の表示が出た。
その後、船は自動で停泊所に戻ってきた。
既にクエストを終わらせているプレイヤーが何人か集まっていた。
皆失敗したようだ。酔ったのか皆フラフラだ。
「やっぱり初見突破は無理だねぇ。そういう難易度にしてるんだけど」
私は各プレイヤーのクエストの結果を見て呟いた。
「だけど、今の一戦だけでも大分学ぶことはあった。
飛び道具をどれくらい皆使えるか確認しておく」
「ちなみに船の補強は出来る状況ですか?
このクエストはプレイヤーの体力より船の強度に左右されるので」
船の……取り分け船底の強化が出来ればもう少し時間を稼げるだろう。
「そうだね、資材はありそう。それも依頼しておく」
「よーし、船の強度を上げて再チャレンジだ」
ギンジ達は戦術を確認して再度クエストに挑戦するのだった。
最初の戦術を繰り返していると、ヌシが船を見下ろす様に頭を上げた。
「え? 何これ?」
ナレカが想定外のヌシの動きに驚いている。
「あー、ヌシが人を直接攻撃するならこのスタイルかな、と。ちょっとしたアレンジです」
「ゲームでよくあるアングルだね! やろうよリーダー」
「ああ! 斬りまくってやるぜ!」
ギンジ達は立ち上がっているヌシの体に攻撃を集中させた。
やがて、ギンジ達と、その他いくつかのパーティがクリアし始めた。
何とかごり押しして勝てる見込みはありそうだ。
虫の件の調査もあるし、これにあまり時間かけたくないなぁ。
「おい、カレナ、どこ行くんだよ?」
ギンジが私の行き先を尋ねて来た。
「リアルの方。ごり押しでやれて、船の補強パーツがあるなら、リアルでも何度か挑戦した方がいいと思うので」
私はリアルリバティアスに向かった。
◇リアルリバティアス◇
川の魔物討伐クエストの様子が透視投影で映し出されている。
「ギンジの奴、中々やるな。俺も飛空斬を巧く当てること考えるか」
飛空斬は剣圧を飛ばす基本的なスキルだ。剣士であれば難なく使えるだろう。
「ああ、飛び道具ってあんま使わないから、慣らしとかないとかねぇ」
ジンギとキズミはギンジの戦いぶりを見て戦術を考えている。
飛空斬使ってるところ、言われてみれば見たことないかも。
「船底の補強は先ほど依頼しました。私ももう少し奴の動きを研究しましょうか」
クラウドは映像を見ながら答えた。突然ナルカがすくっと立ち上がった。
「あー、取りあえず船の強化が終わり次第、第二ラウンドと行きませんか?」
カレナが憑依していた。転移魔法陣を通じて、またこちらに来ているらしい。
「うわっ、だから、いきなり来んなよ! 気色悪い」
リマがびっくりして怒鳴っている。
「シミュレーションでもまだ何とかやれてるレベルです。時期尚早では?」
クラウドはカレナに問いかけた。
アタシも同意見で、まだ早いと思うけど、カレナは時間をかけたくないようだ。
「攻撃されるのは船なんですし、危なくなったら逃げればいいんですよね?
なら、実戦を重ねた方が効率がいいと思うんです」
あくまで身の危険を感じたら逃げる前提で何度も挑戦しようという考えの様だ。
「冗談じゃない! 船の資材だって潤沢にある訳じゃないんだ。
それに、あれは聖獣かもしれないと言ってたじゃないか。もう勘弁してくれ!」
船長もさすがに抗議してきた。そりゃそうだよね。
無駄に船を壊されたんじゃ溜まったもんじゃない。
「いや、だって早く向こう側に行きたいんですよね?
船の修理代だの資材だのなんて天下の帝国さんが立て替えてくれるでしょ?」
そうかもしれないけど、コイツ帝国軍に喧嘩売ってるの?
「帝国軍がいる前で、よくそんなこと言えるね……。
虫の件調べたいのは分かるけど、ちょっと落ち着きなさいよ」
アタシはカレナを諫めた。何だか今日のコイツは余裕がない。
「ちぇっ、分かりましたよ。ただし、数日しか待ちませんからね。
じゃあ船を一隻出してくれませんか?」
潔く引き下がったかと思ったが、カレナ妙な依頼をしてきた。
「なぜです?」
「この近辺の地形を、特に海底を調べたいです。奴のテリトリーにまでは行きません。
攻撃される手前ぐらいまでですね。それくらいなら協力してくれますよね?」
「ちっ、まぁ空いてる船ありますが。ただし小さい漁船になりますよ?」
船長は心底嫌そうな顔をしていたが、船を出してくれるようだ。
「十分です。皆さんは戦術確認しといてください。調査は私がやりますんで」
そう言ってカレナは船に乗り込んだ。一人で行くつもりだろうか?
アタシはリバティアスダイヴのプレイを投影してるから同行できない。
「万が一もあったら困るからね。アタイが同行させてもらうよ」
キズミが名乗り出てくれた。船長はホッとした表情をしている。
漁船は静かに出航していった。自由な奴ねホント。
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