第41話 ナレカと船上戦
「くっ! 総員展開! 敵は??」
クラウドは体制を整えて銃を構えた。
女神銃。帝国軍が開発した女神術を発射する武器である。
アタシは真下を透視した。白いウツボにトビウオのヒレが付いたような巨大魚がいた。
「うげっ、何よアレ……氷結! それは女神の吐息!」
リマは嫌そうにしながらも女神術の詠唱を始める。アタシもそれに続いた。
女神術。
大魔賢者が女神との対話で開発したと言われる人間が扱える魔術のことである。
地水火風などの元素を攻撃に転じて放つ術を低中高に分けて体系的に整理されている。
リマが発した台詞は始動詠唱と言う術発動に必要な詠唱である。
始動詠唱の前または後ろに充填詠唱と言う術の準備に必要な詠唱があり、
初級、中級、上級の順に長くなっていく。これは皆ブツブツと小声で詠唱することが多い。
今回相手は水の中だ。火や風は向かない。
地も岩の固まりを水中に落としても当たらないだろう。
となると、氷の矢を飛ばす氷の女神術が現実的と思われた。
しかし……
ドゴォォォォォン!
船体に再び衝撃が走り大きく傾いたため何人かが転倒した。
敵は真下に陣取っており、水面に来ない。
「船長! 奴を船底から引き離さなくては。梶を切って移動して!」
クラウドの指示で船員が梶を切り、船が移動を始めた。一時的に魔物が船を追う形になった。
水面に見えた魔物の影に向かって女神銃を連射する。
クラウドの魔力は魔弾に変換され発射される。
数発はヒットしたもののあまり効果があるようには見えない。
「これならどうだ!? ローアイス!」
続けてリマが氷の女神術で追撃する。氷の矢が3本水の中を潜っていった。
当たったのは一発のみ。
「そこか! ローアイス!」
アタシも奴を透視で見ながらローアイスを放つが、これも魔物の体を掠った程度だった。
ドゴォォォォォン!
魔物は体をしならせて船体右舷をひっぱたいた。全員反対側の左舷に吹っ飛ばされた。
ジンギとキズミは船体に武器を突き刺して飛ばされないようにしてから、
アタシやリマの手を掴んで衝撃に耐えた。しかし、乗員が2人川に落ちてしまった。
「神風! それは女神の舞踏!」
「うわーーっ」
魔物から引き離すためアタシは落ちた2人を風の女神術を使って遠くに吹き飛ばした。
分が悪過ぎる。まともに戦えない。このままでは船が先に沈没してしまう。
「くっ、仕方ありません。船長! 一旦引きましょう!」
「だから言ったじゃないですかぁ!」
泣きそうな船長は、クラウドの指示で必死に舵を切って撤退した。
魔物は途中まで追跡していたが、ある程度離れてからは追ってこなくなった。
テリトリーを離れたということだろうか。
「ふぅ、何とか逃げ切れたか」
ジンギは疲れた顔をして呟いた。
「船長、ゆっくり近づいて。川に落ちた乗員を助けないと」
クラウドは魔物のいた辺りを睨みながら船長に指示した。
「幸いヌシから引き離してくれたので、アイツ等は大丈夫です。
今泳いでこっちに向かってます」
「それは、ひとまずよかったと言うべきですか。しかし、申し訳ありません。
危険な目に合わせてしまいましたね。どうやら奴の力を侮っていたようです
見た目からしてこの川のヌシでしょうか」
「そうかもしれません。聖獣の類だとしたら尚更相手にするべきではありませんよ。
これで分かったでしょう。君らも諦めて王都に帰ってくれ」
船長はもう関わりたくないと言わんばかりにアタシ達を拒絶した。
「ふむ、困りましたね。このままでは、ティアジピターに行けないですね。
船の修理が終わるまでの数日は停泊所の宿泊施設を使わせてもらうとして、
この後どうするかですが」
「参ったよ。剣が役に立たないじゃないか。何とか奴を引っ張り上げられないのかい?」
キズミもジンギも活躍の場がなくて、若干苛ついている。
このままでは攻略できそうにない。アタシは考え込んだ。
「ナレカ君。シミュレーションは使えませんか?」
クラウドの提案と同じことをアタシも考えていた。
どうする? カレナに協力してもらう?
でもなんかなぁ。前にじゃあねとか言っちゃったしなぁ。
とはいえ、そんなこと言ってる場合でもないか。
「使うのは構いませんが、準備に時間かかりますよ?
王都に戻らないと転移魔法陣ないですし、アイツの都合もありますし」
アイツ、そう、リバティアスダイヴにいる凛堂カレナである。
リバティアスダイヴとは、前に説明したこの世界をシミュレーションした仮想世界のこと。
このシミュレーションを使って魔物の進行を退けて来た。
カレナの世界とは転移魔法陣で繋がっているが、それは王都にある。
会うには戻らないといけないんだけど、決意を胸に旅立ったのに、なんだか格好悪いなぁ。
「また数日かけて王都に戻らねばなりませんか……うーむ。
ここでカレナさんに来てもらえるとありがたいですが、無理でしょうかね」
クラウドも考え込んでしまった。
王都を往復してくるは非常に効率が悪い。
ここにカレナが来る、か。異界交信をここで使って繋がればいいけど。
でも、アタシが向こうに行くのは簡単だけど、カレナがこっちに来るのは
結構リスクあるようだし、どうしたものか。
(クソナレカァァァッ)
考え事をしていると、なぜかカレナの声が聞こえた気がした。
ピピーン
みんなで頭を悩ませていると、アタシの万能鏡が何かに反応した。
何だろう?アタシは万能鏡を操作した。
ブゥゥゥン
その後すぐに転移魔法陣が目の前に現れた。
何が起こってるの?まさか、誰かが異界交信した?
「これは? 何事ですか?」
クラウド達は目の前の転移魔法陣を見て驚いていた。
「ちょっとナレカ! また面倒事持ち込んできたんじゃないの!」
リマが肩を震わせてアタシに詰め寄ってきた。
「知らないってば! 何でもかんでもアタシのせいにしないでよ!」
「おいコラ!」
アタシ達全員ビクッとしてナルカの方を向いた。ナルカがアタシを睨んできた。
「知らねーじゃねーだろぉ!」
パカーンッ!
ナルカが突然アタシの顔にパンチを食らわせてきた。
不意をつかれたアタシは尻餅を付いてしまった。はぁ? 何?
「痛ーっ! まさか、カレナ??」
アタシは何事が起きたのか分からず、ゆっくりと立ち上がった。
ナルカが動いている。カレナが憑依しているようだ。
「ナレカーっ、アレ何とかしろーっ」
パコーンッ!
アタシはまた殴られた。お願いだから顔はやめて。
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