第40話 ナレカと船出
「はぁ? ナレカァ、アンタがいるといつもこうじゃん」
「いや、たまたまでしょ」
魔術師リマが毒づいた。はぁ?って言いたいのはアタシだよ。
彼女は元々王都の魔術師だったが、帝国軍にスカウトされたため、同行している。
実際には王都で罪を犯して投獄されてたのを帝国軍が司法取引で引き取ったんだけど。
「どうするんだよ? その魔物とやら拝みに行くか?」
同行している傭兵のジンギが提案してきた。
彼は元々王都の傭兵だったんだけど、アタシに同行している。
「賛成だね。どの道ソイツぶっ倒さないと進めないんなら、どんな奴か見とかないとね」
冒険者で女戦士の格好をしたキズミも同意した。
彼女も王都で冒険者やってたんだけど、つまらないとかで旅に同行している。
「決まりですね。船を一隻用意してください。撃退を試みましょう」
クラウドは魔物の撃退を買って出た。さすが帝国軍。
「い、いや、今は刺激しない方がよろしいかと」
しかし、船長は行きたくないらしい。そりゃそうだよね。
「我々は帰国するため、ティアジピターに行く必要があります。
そのための協力は惜しみませんよ。荒事については我々にお任せを」
「し、しかし――」
「アンタいいかげんにしなさいよ。帝国軍の言うことが聞けないの?」
リマが無理矢理言うことを聞かせた。帝国軍なりたてなのに幅を利かせている。
船長は渋々準備に取り掛かった。
「隊長、早速我々も準備いたします」
クラウドに同行している隊員たちが動き出したが、クラウドが制止する。
「いえ、君達はまだ待機です。まずは少人数で偵察も兼ねて行きます。
どんな敵かも分かりませんからね。僕とリマ君とナレカ君一行で様子を見てきますよ」
「ぇええ!? 私も行くんですか? アイツ等と?」
「し、しかし、隊長自ら行かれなくても我々が……」
リマも隊員達も不服そうだ。
「これは命令ですよ。戦闘準備をして待機です」
命令と言われては反論できない。よく訓練されてるね。
隊員達は「了解」と言ってそのまま引き下がった。
「船長さん、行く前に事前情報がある程度ほしいんですけど」
情報が少ないため、アタシは船長に質問した。
「貴方は、王都の賢者会……ですか?」
明らかに怪しい者を見る目つきだ。外での賢者会の評判も地に落ちてるね。
「まぁ、一応そうなんですが、賢者会として今は活動している訳ではないので。
それより魔物の外見を教えてください。どんな見た目で、どんな攻撃をされたのですか?」
「いやぁぁ、そう言われても逃げるのに必死で、それどころではありませんでしたよ。
敵は水の中ですし」
ダルそうな反応だ。事前情報は期待できなそうだね。
「何か影か体の一部分だけでも見ていないのかい?」
キズミが食い下がってる。
「うーん。船体の抉れ具合から、おそらく触手のようなもので叩かれたんだと思いますが、分かるのはそれぐらいですね。正直思い出したくもないので、これで失礼しますよ」
船長は話を途中で切って船の準備に取りかかっていた。
思い出したくない相手にまた会いに行くのは少々気の毒ではあるけど。
「何だいアイツ? 感じ悪いね」
「王都の王族共が評判落としてくれたからな。いい迷惑だぜ全く」
ジンギとキズミが愚痴っている。
あそこの王族は城に閉じこもって身を守ることしかして来なかったからね。
仕方ない。そういえば王が退位する噂があるらしい。
トップが変わっても評判は回復しないと思うけどね。
しばらくして、先程の船長が戻って来た。
「お待たせしました。船の準備は整いましたが……そのう、本当に行くのですか?」
船長は本当に行きたくなさそうだ。
「無論です。船を出してください。リマ君もいいですね?」
嫌そうにしてるリマにクラウドは促す。
「分かりましたよ。行けばいいんでしょ、行けぱ!」
クラウド、リマ、アタシ、ジンギ、キズミの順に船に乗り込んだ。
◇
船は静かに川を進んだ。今のところは異常は見当たらない。
「静かですね。魔物はどの辺りに現れるのですか?」
クラウドは船長に状況を確認した。
「もっとティアジピターに近づいてからです」
「ソイツのテリトリーに入ったとか? 迂回は出来ないの?」
アタシは船長に疑問をぶつけた。
川は広いんだからテリトリーを避けて迂回出来ないのだろうか?
「はぁ、奴は向こう岸に渡ろうとする者を逃さず補足するんです。
突然現れるんですよ。無理ですよ」
船長は溜め息混じりに答えた。突然現れるというのが気になる。
「気をつけて下さいよ。もうすぐ奴のテリトリーです。
やっぱりこの辺で引き返しませんか?」
皆、船長の言葉を無視して付近を警戒している。
「透視投影」
アタシは川の周辺を透視した。
船の上に映像が映し出される。穏やかな水面が映し出されている。
船長は「ははぁ、便利ですね」などと言って覗き込んでいる。
「ふむ。付近に巨大生物は見当たりませんね」
クラウド達は映像をじっと見つめている。
アタシゆっくり自分の体を回転させて全方位を見渡した。
「先ほども言った通り奴は突然現れるんです。もう近くに来てるかもしれません」
船長は警戒しながら答えた。
アタシは万能鏡を取り出した。
帝国が開発した手鏡型の魔導具で、記録したり万能鏡同士で通信をしたりと、
色々出来る鏡である。カレナの世界のタブレットというのに近いかな。
「どうするのですか?」
その様子を見ていたクラウドはアタシに聞いてきた。
「念のため録画しておこうと思ってね。想像してるより厄介な敵かもしれないから」
船長は呆れた顔でアタシを見ていた。全く期待してないのが表情に出ている。
「おいおい、やる前から弱気になるなよ。
野郎さっさと出て来いや! ぶった斬ってやるぜ!」
ジンギが鼻息を荒くして周囲をキョロキョロしている。
「……」
クラウドは真剣な顔つきになって映像を見つめていた。
それにしても付近には魚が散見される程度だ。今日は現れないのだろうか。
アタシは頭を掻いてやや下を向いたその時――
「!? 真下だ!!」
ドゴォォォォォン!
巨大な影がフッと上昇してくるのが見えたと同時に船体に
もの凄い衝撃が走り、乗組員全員の体が一瞬宙に浮いた。
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