第37話 ナレカのやり残し
◇リバティアスダイヴ◇
何とか戻ってこれた。
「お? 無事に帰ってこれたな」
「チーフ、おかえりなさい。ログアウトして検査受けてください」
「おかえり」
ギンジとユウキと意識体のナレカが出迎えてくれた。
「もう二度と向こうに行くのは御免だよ。あれ? ナレカさん、まだいたんですか?」
「ちょっとやり残したことがあってね。ちゃんと検査受けてきなさいよ」
やり残したことって何の話だろうか?
「こちら側でやり残したこと、ですか?」
「何事もなければいいんだけど、一応ね」
はて? 特に思い当たることはないけどな。勿体ぶって話さないし。
でもそんなこと考えるのは後だ。私はいったんログアウトした。
◇東京◇
「凛堂チィィフ! ゲームのやぁりすぎで精密検査とは何事ですか!」
ログアウト早々聞きたくない声が聞こえた。
坂東チーフとご自慢のアンドロイドのナァカが絡んできた。
(カレナ、オツカレ)
「すみませーん」
「全くもう少し誇りを持って仕事をしぃなさい! こんなゲームが何だと……」
VRゴーグルに触れた坂東チーフは、ゴーグルを見ながら何かブツブツと言いながら。その場で動かなくなってしまった。
「あ、主任、すぐに検査を受けてきてください」
私を見つけたユウキが指定の病院に行くように促してきた。
「え~、コーヒー飲みたいんだけど」
「終わってから飲んでください。坂東チーフ? 何かご用ですか? 坂東チーフ?」
坂東チーフは相変わらず突っ立ってブツブツと何かを言っている。
何やってんだろう? もうほっとこう。
私はその後、脳神経外科だの心療内科だのをたらいまわしにされた。
どうやら特に異常はないらしいが、疲労は溜まってるから休めと言われた。
病院を出た私はオフィスに向かって夜の街を歩いていた。
「疲れたー、お腹すいたなぁ」
ザッ
「凛堂チィィフ!」
聞くたくない声がまた聞こえた。
坂東チーフとナァカがそこにはいた。
「なんですか? もー」
ブン! ボカッ!
私は顔に強い衝撃を受けて尻餅を付いた。
「ぶへっ!」
坂東チーフに顔を殴られた。鼻血が出ている。
「ちょっと、いくら私のことが嫌いだからって、殴らなくても、痛たたた」
その後、私は髪の毛を掴まれ無理矢理起こされた。
「カァレナァ! ワシをここまで追いつめたことは褒めてやる。
だが、人間ごときがワシは殺そうなど1000年早いわ」
あれ? なんか話し方が。どうなってんの?
「後悔しながら死ぬがいい! 黒炎!それは邪神の憤怒! デモンフレア!!!」
シーン……何も起きない。
起きるはずはないよね。ここ物理世界なんだから。
「な、なぜ何も起きない」
「ゲーム嫌いと言う割にはちゃっかりやってるんじゃないですか。あざまーす。
でも、ここは現実世界ですよ☆テルアサチーフ」
ボコッ! ドゴッ!
「ぶへっ!」
ボディと顔面をさらに殴られた私はずり落ちるように地面に倒れた。
坂東チーフがさらに頭を踏んづけてくる。口の中に血の味がする。
「この世界は術が使えぬのか。だが、腕力はこちらの方が上だ。
貴様が無力なのは変わらんよ。己の行いを悔いるのだな」
「あ、あなた、まさか、サールテ……?」
「ふん! 気づくのが遅いわ!」
そんなファンタジーなことあり得る? ここ物理世界だよ?
「このまま、頭を潰して……ん?」
アンドロイドのナァカが私の前に立った。
「こ奴の人形か。邪魔だ! どこかへ行け!」
スタスタ……
ナァカはサールテの背後に歩いて行った。何も言わんのかい。
そろそろ誰か助けに来てくれないかなぁ。ぐすん。
「貴様はそれなりに頭がキレるようだ。だが、最後の最後で詰めが甘かった。
これはゲームではない。現実なのだと。後悔しながら死……」
ズドン!
「ぐぇああああ」
何だか知らないけど頭が軽くなったので、私はサールテの方に振り向いた。
股間を抑えながら坂東チーフが悶えている。
どうやらナァカが金的を思いっきり蹴り上げたらしい。
「人形ぉ風情がぁぁ」
「ゴメンね。この体、動かしづらいから力の加減が出来ないの」
ナァカが普通に喋った。
ボコッ! ドゴッ!
今度はナァカがサールテを殴っている。何この状況。
「カレナ、立てる? 酷い顔ね」
ナァカの中身はナレカの様だ。というか殴られてる間ずっと見てたってこと?
「遅いですよーナレカさん。これ、どういうことか説明してもらえます?」
「言ったでしょ、やり残したことがあるって」
サールテを倒すことがやり残したことということか。
ナレカは説明を続けた。
「ずっと気になってたんだ。最初に魔域と交信して奴を呼んだ時のこと。
顕現したデモンリザード5体はその場ですぐ始末したし、周囲に他に敵がいないかも確認した。
なのに、なぜ奴だけ姿すら認識できず、取り逃がしたのか。意識体だけ出てきてたってことね
デモンリザードとの交戦中に姿を晦まして、アタシが透視投影を使った頃にはいなかったのよ」
ということは、リアルリバティアスで倒したサールテ大臣は実は死んでなくて、
大臣の体を捨てて転移魔法陣でリバティアスダイヴに来たということか。
「ついでに本体倒しても消えてないってことは意識体の方が本体なんでしょ。
大臣と同様、その人の意識も乗っ取ってるってところね」
どうやって坂東チーフに……いや、VRゴーグル触って突っ立ってた時か。
カレナも同じタイミングでナァカに憑依したのかな。もう何でもありだね。
「チーフ! 大丈夫ですか! 坂東チーフが急に走り出して」
ユウキ達が走って来た。ナレカが呼んだみたいだ。
「みんな遅いよー」
「ぐぐ……おのれ! またしても」
サールテは懐から手にしていたVRゴーグルを握ってブツブツと喋りだした。
「アイツ! リバティアスダイヴにまた戻る気だ。生きて帰れると思うなよ! リバティ!」
私も通信端末でリバティに指示を出した。
しばらくして坂東チーフはその場に倒れ込んだ。
◇リバティアスダイヴ◇
サールテは再びリバティアスダイヴに戻っていた。
「くそぉぉぉっ、忌々しい奴等よ!魔域にいったん戻って立て直さねば」
「あっ、テメッ待ちやがれ!」
ギンジがサールテの前に現れた。
「どけぃ!」
サールテはギンジは押しのけて転移魔法陣に入っていった。
リアルリバティアスに逃げるつもりのようだ。
ブン!
サールテは庭園に転移した。
「あっ、いた!とうとう追い詰めたぜ」
ギンジ達が再び立ちはだかる
「何! なぜだ! もう一度転移だ!」
再度転移魔法陣を通るも、また、ギンジ達がいる。
「テメッ、逃げても無駄だ!」
「どうなっているんだ!元の世界に帰れないっ!」
「あなたをゲームから出さぬよう仰せつかっております」
女性型のシルエットで何者かが下りて来た。
「お、お前は、め、女神バティ……」
「違いますよ。私はRe-バティ(リ・バティ)。この世界の管理者でありゲームマスターです」
「そんな馬鹿な、貴様は何なのだ?」
その後サールテは何度も何度も逃走をしようとするもリバティアスダイヴから出ることはできなかった。
「さぁ、運命を受け入れなさい」
意識体とは精神体そのもの。メンタルがすり減れば存在を保てなくなる。
徐々に徐々にサールテの体は崩壊を始めていた。
「お、いたいた」
私達はようやくサールテ達を見つけた。
「なぜだ? なぜこうも先回りされるのだ!」
「こちら側に攻め込むっていうのが、そもそも選択を間違えてるんですよ
やはり詰めが甘かったのはアナタの方でしたね」
「はぁ、本体の安全が確保されたから段々元気になってきたのね。
ボコられてるときは半泣きだったよアンタ」
うるさいなぁ
人がボコられてるのを見物してたくせに。
「これは現実なのか? あり得ん」
「知らなかったんですか?現実も人生って言うゲームなんですよ?
あ、コンティニューも強くてニューゲームもできないクソゲーなんで宜しく」
「こんなところで……こんなところでーっ!」
「ゲームオーバーです」
「こ奴等は……この世界は……」
最後に何を言おうとしたが分からないが、サールテは粒子となって粉々に散っていった。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
面白いと思った方は、いいね、評価、ブクマ、感想、誤字ご指摘、何でも結構ですので、いただけますと幸いです。




