第36話 ナレカ&カレナ
「ちっ、小賢しい奴等よ。やめだやめだ。力比べなど性に合わんわ」
「あれ? 逃げるんですか? 隠れるのも好きなんですね」
カレナは相変わらず煽る。
「貴様等の土俵で戦うのに飽きたのだよ。世の中どうにもならんことがあることを思い知れ」
サールテは地面を杖で数回叩いた。サールテの周りに防御障壁が展開された。
全員で障壁を攻撃するが中々突破できない。
「くそっ! 逃げられちまう!」
サールテは頭上に転移魔法陣を展開し、そこに向かって飛び去って行った。
サールテが通った後、転移魔法陣は閉じ、防御障壁も消失した。
(ヒヒヒ、後は魔域より貴様等が嬲り殺される様を見物させてもらおう。
この術式は魔域と王都を接続しているのだ。ワシを倒さねば術は解けぬ。
そのワシは魔域にいるが、貴様等はこちらに来れない。さぁ絶望しろ!)
虚空からサールテの声がする。
地面の魔法陣が鈍く光りはじめ、全体に瘴気があふれ出してきた。
「こ、これは!?」
体が痺れて動きが鈍くなっていた。人間には有毒だ。
さらに敵が湧いてくる。何とか魔物を退けているが、段々と動きが鈍くなっている。
デモンオーガに数人が殴り飛ばされていた。
このままでは本当に嬲り殺されてしまう。
サールテをどうにかして倒すしかない。でも、どうやる?
一方、リバティはゲームの方にも同じ状況を再現していたため、
こちらも次々とプレイヤーが殴り飛ばされていた。
「いきなりムリゲーじゃね?これ?ボスどこだよ?」
「イベントなんだろー、まだかよー」
プレイヤー達のやる気がなくなっていた。
(ヒヒヒ……いつまで耐えられるかね?こんなこともできるのだよ)
周囲10箇所ほどに転移魔法陣が現れた。ナルカの目の前にも現れた。
「くっ! させねぇ」
ヒュン! ドス!ドス!ドス!ドス!ドス!ドス!
転移魔法陣から次々と黒い槍が飛んできた。射線上にいた人が数人巻き込まれた。
ナルカを庇ったジンギにもヒットした。
「ジンギ!」
ジンギその場に倒れて動かなくなった。周りで槍を食らった者達も致命傷だった。
ナルカは青ざめた顔をしていた。カレナもこんなはずじゃって思ってそうね。
「貴様っ!」
クラウドがとっさに転移魔法陣に向かって魔弾を数発放った。
(おっとっとっと。これは乱発出来ぬな)
転移魔法陣はそのまま閉じた。
「ちっ! 仕留められませんでしたか」
クラウドは悔しそうに転移魔法陣があった場所を見つめている。
「うわぁ、こりゃ無理ゲーですね。悪いけど一抜けしますよ。
安全地帯から自由にトンネル掘れるなんてズルいですよ。
現実は必ずクリアできるようには出来てないってことですね」
ナルカの体にも瘴気の影響が出ているようで膝が震えていた。
「おい、カレナ!」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「さーせん。これ以上はプレイヤー離れそうだし、私も命は惜しいし。
私が協力できるのはゲームで再現できるところまでですよ」
ギンジは何も言わなかった。
カレナはナルカの体を引きずって転移魔法陣から帰ろうとする。
「アンタ命がけでここに来たんじゃなかったの?」
「こんな何の未練もない世界で死にたくないし、義理もないし。
ましてや貴方みたいなヒス女と心中なんて御免ですし。
私のこと上級女神術で攻撃した件、謝ってもらってないんで」
「……ごめんなさい」
アタシは謝罪した。こんな時になんなの。
「うわ、なんか軽いですね~。最後にサールテに命乞いでもしてみたらどうです?
許してもらえるかもしれないですよ? 皆さんのことは忘れません。ジンギさんナンマンダブ……」
プツン!
アタシは切れた。サールテはどうでもいいがコイツはもう一回分からせてやる!
もう一回上級女神術で消し飛ばしてやる。
アタシは詠唱を始めた。
「お、おい!ナレカ! バカな真似はやめろ!」
「落ち着きなさい! ナルカさんの体ですよ! 敵を見誤らないで!」
「ホント沸点低いですよね。ですが、二度同じ手は通じないですよ」
カレナも詠唱を始めた。
(ヒヒヒ、仲間割れか? 最後に楽しい余興を用意してくれたな。そうだナレカ!奴を、カレナを殺せ!そうすればお前の命だけは助けてやってもよいぞ!)
へぇ、そりゃいいね。じゃあ遠慮なく始めよう。
アタシとカレナの詠唱が完了する。
「カレナぶっ殺す! 暗闇!それは女神のだっっ……異界交信」
(そうだ!カレナを殺せ! ヒヒヒ……イ?……何だそれは?)
異界交信成功。アタシの背後に魔域への転移魔法陣が開いた。
「鋭利、それは女神の爪先
閃光、それは女神の昇天。神術付与」
続けてアタシは杖に刃の形成と光の女神術を付与し、光の槍の形状にした。
そして、透視投影を使いつつ転移魔法陣に向かってやり投げのポーズを取った。
皆の前に立体映像が投影され、モヤモヤの先にサールテのシルエットが見えた。
「そこね!女神技! 光投天槍!」
ヒュン! ブシュッ!
異界交信でできた転移魔法陣は真っ直ぐサールテのいるところに通じている。
投げた光の槍は転移魔法陣を抜けて、サールテの胸にヒットした。
(うぐぁぁぁ! ナ、ナレカァァァ!)
「カレナ!」
「はいはい、ちょうどチャージ完了です。閃光!それは女神の昇天!」
(ま、まずい!)
「ハイライト! カレナビィィィィィィィィィィィィム!」
さらに転移魔法陣に向かって極太ビームが発射される。
だから、そのクソダサネーミングやめてってば。
(ぎぇぇぇぇっ!)
サールテはビームを浴びているようだ。
今度はこちらが一方的に攻撃できる状況となった。
しばらくして王都に再び転移魔法陣が現れた。
ブン! ぐしゃっ!
ボロボロのサールテが再び王都に現れた。
「お、おのれ……魔族であるワシがこんなところでぇ、こんなところでぇ
ナレカァ!貴様が余計な事をしたのかぁ!」
「だってカレナぶっ殺したかったんでしょ?アタシも同じだって。
今回もきっちりキャッチしてくれたじゃない。アタシ達、結構気が合うのね」
「あの~本人の前でぶっ殺すとか言わないでください。
それと先にトンネル掘って攻撃したの貴方ですよ。敵にヒント出すのホント好きですね」
「ナレカァァァ、カレナァァァ」
「やっとイベント終ったな。しかし酷い演出」
「笑える。もうグロッキーじゃん」
「年貢の納め時だねぇ!」
キズミ達は武器を構える。
「残念でしたね。ここが終着点です。人類の反撃が今始まったのですよ」
クラウドはやや大きめのカートリッジを取り出しセットした。
「これは特注でね。とっておきですよ」
クラウドの銃からミドルライトが発射された。中級女神術用のカートリッジの様だ。
次々とカートリッジを入れ替えて3連続で発射した。全く隙のない動き。
さらにクラウドの号令で他の者も一斉にサールテを攻撃し始めた。
「ぐぉぉぉぉぉっ! 貴様等ーっ!」
サールテは絶叫と共に消滅した。それと同時に瘴気と召喚魔法陣が消えた。
ゲーム側もリバティがミッションクリアの表示を出している。
何とか勝てた様だ。戦士達はぐったりしている。
「まさかとは思いますが、ワザとナレカ君を煽ったのですか?」
クラウドがカレナに疑問を投げかけた。
「いやいや、本当に無理そうだから逃げだそうとしたんですよ。
それに皆さんだってやめろと言いつつ止めなかったじゃないですか?
私が生き残れば、たとえ滅んでも、こういく国があったんだよって
語り継ぐことも考えましたよ」
「心にもないこと言わないで。それより負傷者を手当てしないと。ジンギは……」
ジンギは動かない。ここまでか。
「それなんですが、一応試しておきたい女神術がありまして、ナルカさんはこれ使ったことあるんですかね?」
あれか。だけど……
「ナルカは、それの習得を目指していた。でも、習得できたのかは分からない」
「では、やってみましょう。うまく行けば儲けものです」
「ゲーム実装のため、ね。分かった」
やるだけやってみるということなので、アタシは同意した。
カレナは詠唱を始めた。
「蘇生、それは女神の生誕、バース!」
光の粒がジンギに集まっていく。
「ぐふっ!」
「ジンギ! 良かった」
「あー、動かさないでくださいね。傷が全然治らずに息だけ吹き返しましたね。
これで完成なんですかね? この女神術」
多分違うだろう。カレナはサールテの槍を食らった他の者の蘇生も試みた。
だが、蘇生した者もいるし、できなかった者もいた。やはり未完成なんだ。
ヒールをかけてジンギは何とか立ち上がれる程度には持ち直した。
「よう、ジンギの旦那! やったな!」
「あの世って奴を見た気がするぜ。お前等には世話になったな。機会があったらこっちに来いよ」
ギンジとジンギはすっかり仲良くなったようだ。
「アンタ等も世話になったね。名もなき戦士達。今度一杯やろうじゃないか」
「一杯っつーか一発お願いします姐さん!」
「馬鹿野郎!」
キズミは大人気だ。
「名残惜しいかもだけど、そろそろ中継切るよ」
アタシとカレナはリアルとゲームの中継を終了した。
「ところでアンタまだ帰んないの?」
カレナも相当疲れてるだろう。休んだ方がいい。
「もう少し妹さんの体で色々試してみようかと思いまして。この人魔力無尽蔵ですか?」
「そんな訳ないでしょ。やめてくれる? 妹の体は玩具じゃないんだけど。
それにこっちに来たの初めてなんでしょ? 一回戻って精密検査した方がいい」
「はいはい。じゃ、皆さんお世話になりました。リバティ、帰ろう」
(はい、チーフ)
カレナはナルカの体から意識体を分離して転移魔法陣を通ったようだ。
ナルカは再びぼーっとしている。
さて、“こちら側”はもう大丈夫だろう――
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