第30話 ナレカと帝国軍
◇リアルリバティアス◇
帝国軍観察部隊はクラウドを含め10人来訪してきていた。
王室に隊長クラウドと数人の兵士が招かれていた。
「改めまして、僕達は女王陛下の命により帝国より参りました帝国軍観察部隊です。
僕は隊長のクラウドと申します。以後お見知りおきを」
「ひっ! 何卒、何卒寛大な処置を!」
ずっと部屋に閉じこもっていたサールテ大臣は完全にビビっていた。
サールテはなんだかやつれていた。
「何か勘違いをしているようですが、僕達は誰かを捕えに来たわけではありませんよ」
王は静かに口を開いた。
「クラウド殿、遠路はるばるご足労痛み入る。女王陛下も息災で何より。
それで、戦況はどうなのだ?」
帝国は魔域と隣接している。そことの戦況を確認しているようだ。
「一進一退というところです。僕達がここに来た理由の“一つ”は認識していることでしょう」
「無論だ。戦力増強のための人員集め、つまり、出徴兵の招集だね?」
出徴兵とは帝国に向けて兵士を集める制度。徴兵と言うからにはある程度の強制力がある。
「ええ。まずはを力ある者を集めていただきたい。演習場がよいでしょう。
ああ、一名既にこちらで確保させていただきました。魔術師のリマという方です」
賢者長のキーユが話に入って来た。
「しかし、あの者は罪人ですよ?よろしいのですか?」
「えぇ。存じております。なので、彼女の自由は帝国が預かります。彼女は上級女神術を使える。
それだけで戦力としては十分ですよ。それに彼女も他所へ行きたがってるそうじゃないですか。
思うところがある方もいるでしょうが、その場合は代わりの者を用意していただくことになります」
「それについては構わない。彼女も新天地であれば蟠りもないだろうしな。
ところで、先ほど理由の“一つ”と言ったが、他にも要件があるのかね?」
王は他の用件についてクラウドに問う。
「後は武器や素材類ですね。最近冒険者が外出したと聞いていますが、どうですか?」
「それでしたら、上質な鉄鉱石を採掘出来るようになりましたので、多めに献上いたします。
それから、冒険者ギルドからもいくつか武具を献上したいと申し出がありました」
「助かります。では、庭園の遺跡の10階層目を攻略したという噂は本当でしたか」
「その様です。クラウド殿は、よいタイミングでお越しくださいました」
キーユは得意気に話をしていた。アンタの功績じゃないけどね。
「他にも何かございますか?何でもおっしゃってください」
キーユが何でもござれという感じで質問する。
クラウドはしばらく目を閉じて、再び開いた。これは割と重い話をする時の仕草だ。
「ええ、どちらかと言えばこちらの方が重要です。僕達は魔物の発生状況を調査しにきました。
最近この王都近辺の魔獣の発生状況は異常です。まるで魔域に隣接しているかのようだ。
特にティアジピターで暴れていたはずのデモンリザード1000体が突然王都に向かって進軍を始めたのは不自然だ。これには何者かの意思が介在していると考えています」
カレナと同じ事をクラウドは気にしているようだ。
「何者かの意思ですと!? そんなことが!?」
キーユは予想していなかった内容に驚いている。
「幸い、1000体のデモンリザードは全滅させてくれて大事には至らなった様ですが、それはそれで驚きです。
賢者長キーユ殿、あなたの上級女神術が活躍したと聞いてます。その力をいずれ帝国にも貸していただきたい」
キーユは歓喜に満ちていた。
「おお! それは願ってもないことでございます。ですが、この一件の話をされるのでしたら、
何よりナレカの功績によるものが大きいでしょう。彼女も出徴兵の候補なのですか?」
「そうですが、ナレカ君については僕個人としては、彼女の意思を尊重するつもりですよ。
ナルカ君の不幸は我々が急かしたせいでもありますからね」
キーユは黙ってしまった。
「ふむ。そういうことなら、しばらく滞在するということだね?部屋を用意させよう。
それと、戦士達が演習場に集まったようだ」
王は窓の外をチラッと見た。
「助かります。では、我々も演習場に向かいます」
◇
バンバンバンバン!
演習場で銃声が鳴り響く
「くそっ!うわーっ!」
冒険者の一人が爆風と共に吹き飛ばされていた。
「これで3人目か。ふん! 弱すぎる。
やはり属国の戦士ごときでは、帝国の役には立たんな」
帝国兵は銃剣を構えて冒険者を狙撃していた。女神銃
魔力を銃弾として打ち出す魔道具であり、ある程度の連射性能がある。
また、詠唱すれば女神術を銃から発射することもできる。
さらに専用のカートリッジに初級女神術をストックしておくことで無詠唱で発射が可能である。
アタシは演習の様子を見物していた。そこにクラウドがやって来た。
「やってるようですね」
「お久しぶりです。隊長になられたのですね。リマ以外にお眼鏡に叶う人材はおりましたか?」
「まずアナタがそうですよ。上級女神術を使えるようになっているとは驚きました」
「そうですか。しかし帝国には行けません。ナルカがおりますから」
「分かっています。僕もアナタを帝国に今すぐ連れて行くつもりはありません。
帝国としても申し訳ないことをしたと思っています」
ナルカが異界交信を使った当時、クラウドは帝国観察部隊として王都に来ていた。
当時はまだ隊長じゃなかったから、昇進した様だ。
しばらくお互いに沈黙していた。
演習はほとんどの戦士が攻撃できず終わっており、全く相手になっていない。
「今度は俺が相手をするぜ」
ジンギが帝国軍の前に立った。
「また傭兵か。どれほどの者か見せてもらおう!」
バンバンバン!
キンキンキン!
帝国軍の男は小さい魔弾を連射するが、ジンギは全て剣で捌いた。
「そんな豆鉄砲じゃあ俺は倒せないぜ!」
「ほぅ、身の程知らずが。ではこれはどうだ?」
帝国軍の男は腰からカートリッジを取り出し女神銃に差し込んだ。
バシュッ!
銃からローフレアが発射される
「うわっ! そんなのアリかよ!」
「はっはっはっ、そうらどうしたどうした」
ジンギは防戦一方になってしまった。
次々とカートリッジを取り換えてローフレアを発射する。
「野郎!」
女神術発射後、これをやり過ごしたと同時に剣の刃に左手を当てて構えを取る。
帝国軍の男がカートリッジを交換するのと同時に詠唱を始めた。
「轟雷!それは女神の制裁!」
「剣士が詠唱とはな!笑止! 属国の戦士は何もかも中途半端だな」
バシュッ! ローフレアがまた発射された。
「神術付与! 迅雷瞬突!」
ブワッ! ヒュンッ!
ジンギの迅雷瞬突はローフレアを破裂させ、一瞬の内に帝国軍の男の喉元まで剣先を突きつけた。
「な……に?」
「俺の勝ちだな」
「調子に乗るな貴様!そのような邪道な剣術で!」
「そこまですよ。負けは負けです。なるほど、それが女神技ですか。
たしかに邪道とされてきた剣術ですが、今は重要な戦力になってくれそうです。
この力もまた1000体のデモンリザード討伐に一役買ってくれたようですね」
「これを見に来たのですか?」
アタシはクラウドに聞いた。
「これ“も”です。王都の騎士団が神術師団を立ち上げた話は聞いていましたので。
他にも確かめに来たことがありますが、まぁ、それは追々ですね」
何だか様々な目的があってここに来たらしい。
「クラウド隊長さんよ、リマを本当に連れて行く気なのか?」
演習を終えたジンギが真っすぐこちらに歩いてきた。
「貴様!無礼だぞ!立場をわきまえろ!」
先ほど負けた帝国軍が突っかかってきたが、クラウドが制止した。
「構いませんよ。ジンギ君、これは司法取引です。それに他所へ行くことは彼女の望みでもあるはず。罪を償ってもらいたい気持ちは分かりますが、彼女はもう帝国軍人ですよ」
「そうか、アイツが望んでんなら、とやかく言うつもりはねぇ」
先ほどの帝国軍の男は、このままで済むと思うなよ、と小声で言いながらジンギを睨んでいた。
「勿論、僕達も彼女を捨て駒の様に扱いはしないことは女神に誓いましょう」
クラウドがそう言うと、ジンギはそれ以上何も言わなかった。
「さて、残りの選別は部下に任せるとして、僕達は別のことをやりましょう。
先ほどのリマ君の一件に関わった者達と話をしたいと思ってます」
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