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リバティアスダイヴ ~カレナとナレカの仮想世界 カレナはナレカの世界を救うためゲームを作る~  作者: リバティ
第1章 ティアマーズ編 ~カレナの魔物討伐シミュレーション~
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第3話 ナレカの目的


ナレカは続けた。


「アナタに用があって来たの。正確にはここに来てるアタシは本体じゃないけど」


「はぁ……」


 本体ではないとはどういう意味だろう? 彼女の目は本気だ。何か宗教の人だろうか?

だとすると、あまり関わりたくないタイプの人だが、この非現実感には興味が湧いた。

何しろこのままここで考え込んでてもインスピレーションも湧かない現状だ。

ちょっとこの茶番に付き合ってみることにした。


「賢者様なのですか。賢者会というのはよくわかりませんが、

私もここでは賢者をやってますカレナという者です。名前似てますよね」


名前どころか背格好、顔も似ている。なんだか姉妹みたいだ。


「それでナレカさん。どういったご用件なのでしょうか?」


ナレカに転移の目的を問いかける。


「うん。アタシはこの世界とは別の世界、リバティアスというところから来たんだけど……」


えーと、そういう設定なのかな。

私は陰で管理者権限でバックのエンジニア達にチャットを送る。

このゲームは音声チャットの機能が実装されている。


「こんなイベントあったっけ?」


一応エンジニア達に聞いてみる。


「ありません。リバティが生成したものではなさそうです。しかし、ただのバグとも思えません。

彼女はあまりにもリアルです。本物の人間でしょうが、プレイヤーではないかもしれません」


「どういう意味?」


「正規の手続きを踏んでログインしていないということです。アクセスログがありません。

不正アクセスの可能性がありますが、しかし、こんな過疎地に来る動機が分かりません」


仮にもこのゲームの運営の癖に過疎地とか言うな。まぁ、それ以外は概ね同意見だ。

とりあえず実害はなさそうだし、もう少し付き合ってみるとエンジニア達には返す。


「……話は終わった?」


ナレカは怪訝そうに聞いてくきた。


「あ、失礼しました。別の世界からいらしたというのはいったん了解なのですが、この世界の言語をいつ習得されたのですか?」


野暮なこと聞いちゃったかな?

あぁそんなことか、と言わんばかりにナレカは答える。


「ある魔術でアナタとの交信に成功したから、それでこの世界の言語を理解したというところね」


よくできた設定だ。私のあずかり知らないところでネゴシエーションしたらしい。

この人AIかな?少なくとも私より賢者のレベルは高いようだ。

ただ、そんな魔術も実装した覚えはないけど。


「それより、魔術や転移の概念があるのなら、アタシ達の世界に近しい文明のようだから話は早そうね。

今、アタシの世界では魔物の進行により長年戦争が起こっており――」


ありきたりな設定だなと思ったが、ここでナレカはアイテムを取り出した。


「鏡? ですか?」


タブレットサイズの鏡である。


万能鏡スマートミラーという魔道具でね。記録した映像を見せることができるの。

これは万能鏡本体が作り出した虚像(子機)の方だけど」


要するに録画したデータを見れるタブレットということだろう。

鏡に映し出された虚像の方を子機として意識体が持ち出すことが可能らしい。超技術だね。


 記録されたナレカの世界の状況が映し出される。

魔物に襲われる人々と、それと戦う者達の姿が鮮明に映し出された。

それは何かドキュメンタリー映画かと勘違いするほどリアルな映像であり、

鬼気迫るその状況は現実のそれと区別がつかないほどだった。


ナレカの話を要約すると、


世界は魔域より進行する魔物との交戦が長く続いており人類は劣勢だった。


ということらしい。


「これは現実の世界での話なのですか?」


リアリティが増したため、思わず問いかける。


「勿論。現に今もアタシはリバティアスから意識体を通じてアナタと交信してる。

別の世界から来たとさっき説明したよね?」


ナレカは大真面目に話をしている。いったん現実の世界と仮定した方がよさそうだ。

バックのエンジニア達も同じ認識の様だ。


「話はおおよそ理解しましたが、ここにはどのようなご用でいらしたのでしょうか?

まさか、世界が危機に陥っているから秘術を使って勇者を探しに来た、とかですか?

だとすると、お気の毒です。この世界の勇者は、その、フィクションですし、魔術などの力は別の世界に持ち出すことはできません」


そりゃそうだよね。ゲームの世界なんだから。


「話が早いのは助かるけどミスリードが過ぎるね。アタシは別に勇者を探しに来た訳ではないの。

そういった個の力だけではこの劣勢を覆せてなくてね。それに強い者は帝国に連れてかれちゃうし。

もっと別のアプローチが必要だと考えてる」


戦略的なものが必要ということだろうか?

帝国に連れてかれるというのがよく分からないけど。


「なるほど、でも私は頭のいい軍師などではないですし、そういった方は……」


私はただのAI研究者兼ゲーム会社のエンジニアだ。


「取り合えず話を聞いてくれる?アタシが使った魔術は別世界と交信するというもので――」


またまた実装した覚えのない魔術の説明をしてくる。

別世界と交信?なんだか、えらく電波な魔術だなぁ。

そう思いながらナレカの話を聞いていた。

ナレカは続ける。


「ただ闇雲に発信するものではなくて、発信者は術に自分の思いを乗せるの。

それに答えたものがいて初めて交信が成立する。つまり波長が合わないと交信できない。

まぁ、魔域とも交信できちゃって、魔物が召喚されたりもするんだけどね」


術者の思いに答えたものと交信する魔術ね。魔域は魔物がいるエリアの様だけど、

そこと交信できちゃうというのはどういう理屈だろう?


「私は何かの条件にマッチしたようですね。どのような思いを乗せたのでしょうか?」


アンテナを立てていた覚えはないし、はいはい聞こえますよ~どうぞ、などと言った覚えもない。

深層心理的なところで反応したということだろう。


「うん。現状を打開する、世界を変える方法を、ズバリ、インスピレーションがほしい。

この世界を変えたいと願ったはず」


なんだか眩暈がしてきた。

“この世界を変えたい”のボヤキがシンクロしたってこと?


インスピレーションが湧かないのが今抱えてる悩みだってば。


「うーん、藁にもすがる思いでいらっしゃったのでしょうから何か力にはなりたいですが、インスピレーションと言われても……」


むしろこっちが単調なゲームを面白くするインスピレーションがほしいのだけど、危機的状況の現実世界からやってきた方にそんなことを言ったら怒られる。


「……そう。まぁ、気にする必要はないよ。成功率は低い魔術だし、そう都合よくいかないのもよく承知しているつもりだしね」


ナレカは諦めの表情だ。

既に失敗扱いか。それはそれで微妙な気分だなぁ。


「あの、すぐに元の世界に戻るのでしょうか?」


恐る恐る私は尋ねる。

彼女は志半ばかもしれないけど、もし本当に別の世界から来たのならもっと話を聞きたい。


「いや、今すぐどうにかしないと滅亡するというものでもないしね。

別世界があって人がいたことは収穫だし、少しこの世界を見てみようと思ってる。

ところで、この庭園はアタシの世界のものによく似ていて気分が落ち着くね」


庭園なんてどこも似たようなものでしょうに。

ここもヨーロッパのどこかをリバティで再現したものだ。

AIで再現か……。それなら――


最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

面白いと思った方は、いいね、評価、ブクマ、感想、誤字ご指摘、何でも結構ですので、いただけますと幸いです。

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