第18話 ナレカの防衛戦
◇リアルリバティアス◇
デモンリザード1000体を迎え撃つ準備は整った。
総勢70人の兵が集まっている防衛戦に参加することになっている。
例によって傭兵、冒険者、騎士団、賢者会から各々参加している。
デモンオーク討伐の甲斐もあって、参加人数が少し増えてくれた。
王室の者達も馬に乗って来ていた。兵達を激励するためだ。
大臣はさすがいないが。城の上層の部屋に引き籠ったまま出てこないらしい。
騎士団長ガウロが声を張り上げた。
「聞けぇ! マーズ王より激励のお言葉を賜る」
マーズ王は周囲を数回見渡したあと静かに口を開く
「皆の者、よくぞ戦の場に集まってくれた。ここが正念場だ。
帝国からの支援も期待できない以上、我等の力で道を切り開くしかない。
だが、私は必ずやこの困難を乗り切れると信じている。
今日まで我らは己の身を守ることで精一杯だった。
だからもう一度、民のためにその身を賭して戦おうではないか」
諸君らの奮闘に期待する。以上だ」
周囲からおーっ!という歓声が聞こえる。
ま、当たり障りのないことを言ってる感じだね。
最終防衛ラインの守りは強固にやや前のめりに陣形は広く取った。
「まもなくデモンリザードの部隊が視認できる位置まで来ます」
偵察部隊から報告が入る。
全員武器を構えて詠唱を始める。
女神技の初動、神術付与を早めに始める。
デモンリザードの集団が見えてきた。
「潰せ―っ!」
「うぉぉぉっ!」
戦いが始まった。各々一直線にデモンリザードの集団に挑んでいった。
「神術付与! おらーっ、迅雷瞬突!」
ジンギは父直伝の女神技を使ってデモンリザードを倒していく。
デモンリザードは盾を構える前に胴体を貫かれ、さらに感電している。
1000体のデモンリザードを70人で対応するのだから、1人大体14~15体のきついノルマだ。
通常の野獣であれば容易いだろうが、何しろ相手は魔獣だ。1体を倒すのにも時間がかかる。
それでも女神技は一定の効果を出していた。
他の者も女神術を付与した槍や弓を使って次々と攻撃していった。
刃先が凍った槍や火が付いてる矢が戦場を駆け巡る。
「す、すごい! イケるかもしれない」
イケるかもしれないんじゃなくてイクんだよ!
デモンリザードの進行は明らかに遅くなっていた。足止めには成功している。
その隙に賢者会が詠唱していた中級女神術が次々と発動しデモンリザードを巻き込んでいく。
しかし、徐々にだがデモンリザード達の進行は続いている。
多少攻撃を食らおうが歩く足は止めない。
「やはり奴らには恐れはないのか?」
賢者長キーユが後ろ向きなことを言い始める。
「そういうことを考えてると気圧されるよ!弱気になるな!」
「くっ」
賢者長は改めて女神術の詠唱を始める。
アタシは周囲の戦士達に動きを止められそうな雷系の神術付与をかける。
女神技も全員がマスターできたわけではない。できなかった者達はアタシがまとめて神術付与した。
カレナが言っていた。この戦いはかかっても半日ぐらいで終るだろうと。
パフォーマンスを落とさず作業を続けることが勝利につながると。
デモンリザードの3分の1が倒れたようだ。だが、こちらも消耗が激しい。
デモンリザードの1体が最終防衛ラインに近づいていた。
「しまった!」
「行かせるかーっ」
ブォォン
ジンギが雷を帯びた剣を投げつけ、それがデモンリザードにヒットする。
背中に剣がささったデモンリザードは感電し、転がり痙攣していた。
その隙に数人の戦士達にとどめを刺されて絶命した。
「ジンギ!」
キィィン!
剣を投げて丸腰のジンギに別のデモンリザードが攻撃をしてきたため、
戦士キズミが割って入ってガードする。
「手ぶらでぼーっとしてんじゃないよ! さっさと剣を拾ってきな!
雑音!それは女神の絶叫!神術付与! 全員耳を塞ぎな!」
気づいたものの何人かは距離を取って耳を塞ぐ。
「地音衝撃!」
強烈な高音を発した衝撃波が地面を走りデモンリザードにヒットする。
周囲に騒音をまき散らす衝撃波の影響でデモンリザード全体の動きが鈍る。
耳を塞いでいたものはすぐに攻撃に転じてデモンリザード達の隙を付く。
デモンリザードの半数が倒れたようだ。こちら側にも数名重傷を負った者が出ている。
「動けねぇ奴らは下がらせろ!」
後衛が負傷者を下がらせる。
徐々に包囲網を突破するデモンリザードが現れ始め、これを撃退するシーンが増え始めた。
まずいね。
(ナレカさん、上級女神術を使った方がいいです)
向こう側でカレナが提案してきた。
「詠唱に時間がかかるから突破されるよ!」
(奴等は術者を優先的に潰しにくるという思考までは持っていないようです。
後衛部隊にはまだ余裕があるんですよね?だからこそ今の内です)
やってみる価値はありそうだ。余裕がないと目の前の敵を倒すことに集中しちゃうねやっぱり。
「キーユ! 上級女神術」
「何? しかし!」
「早く! 敵が近づかないようにはするから!」
賢者長キーユは上級女神術の詠唱を始めた。
「轟雷!それは女神の制裁……」
デモンリザード2体がキーユに向かって右から左から切り込んでくる。
アタシはキーユの前に割り込んで杖と防御女神術でガードしようとしたが、
一瞬遅れたため、二の腕を切られ、頭を盾で殴られた。
「ナレカ!」
「ぐっ!いいから詠唱続けて!こんなのどうってことない! 爆炎、それは女神の憤怒」
デモンリザードの1体を腹部を蹴っ飛ばして距離を置いた後、もう1体にローフレアを当てる。
デモンリザードの目の前で爆発が起き、ギャアという叫び声が上がる。
その後蹴っ飛ばしたデモンリザードの胸から刃が突き出た。
「おい、ナレカ無茶すんなよ」
ジンギがデモンリザードにとどめを刺した。
「別に無茶じゃないし、それより前衛に離れるように伝えて。
ジンギ敵の列の後方、密集してるところね」
「何?だが、このままだと突破されちまうぞ?……っと、上級女神術か。離れろお前らーっ」
戦場の空に巨大な魔法陣が現れているのに気づいたジンギは前衛部隊に退避を指示する。
全員が一斉に退避した瞬間、詠唱を終えたキーユが上級女神術が放った。
「消滅せよ! ハイサンダ!」
バシィィン!ドドドドド!
空の魔法陣から大量の稲妻が次々降り注いでくる。
デモンリザード達は避ける素振りも見せず次々とハイサンダの稲妻に巻き込まれて行った。
ぎゃぁぁぁ
300体ぐらいの密集していたデモンリザードは焼け死んだ。
「へっ、ざまぁねぇな!」
この攻撃で皆の士気が一気に高まり、残りのデモンリザード達も次々倒されていき、
やがて全てのデモンリザードは討伐された。
「おぉ! やったぞ!」
「うむ! よくやった」
王は何度も頷いていた。
「これで多少は賢者会の名誉挽回できたんじゃない?」
今この国で上級女神術ハイサンダを使えるのは賢者長キーユだけだ。
彼がデモンリザードの約4分の1以上を倒したと言ってもいいだろう。
あの巨大な魔法陣は市民にも希望に見えたはずだ。
「そうだと良いんだが……。君もご苦労だった」
上から目線なのがムカつく。やっぱコイツとはうまくやっていけないね。
「別に。アタシは何もしてないし」
取り合えず一休みしよう。
◇リバティアスダイヴ◇
ナレカの意識体が例によって討伐の模様を中継していた。
「お疲れさまでした。怪我大丈夫ですか?」
ナレカの負傷した二の腕と頭を見ながら聞いた。痛そう。
「かすり傷ね、こんなの。むしろこの程度で済んでよかったよ。
奴等は一人残らず始末した。十分な成果じゃない?」
「ひとまずはそうですね。補充がどうなるかですが……」
「今祝勝ムードなんだけど。アンタってホント空気読めないよね」
「用心に越したことはありませんし」
空気読めないという点に関しては否定できない部分も確かにある。
バックのエンジニア達も頷いていた。
どー言う意味で頷いてるのかな?
さすがにもう一回あの量のデモンリザードが補充されるとは思いたくないけど、
どうなるか分からない。
2時間ほど経ったが特に追加の魔獣が出て来たという報告は入っていない。
「補充、ありませんね」
「当てが外れてよかったじゃない。それにこれはチャンスじゃない?」
「はい。次に備える時間があるということです。
今日は休まれてると思いますが、明日から少しずつ準備をした方がよいですね。
もっと良くないことが起こる可能性もゼロではありませんし」
倍のデモンリザードが出てきても対処できるようにしたいところ。
「まぁ、今日は賢者会を持ち上げて祝勝会をやってるところだろうから、
今週1週間ぐらいは、のほほんとしてるんじゃない?」
なんて悠長な……大丈夫かなこの国。
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