第10話 ナレカの決意
カレナに言った通りアタシは異界交信を続けることにした。
今のアタシにできるのはこれぐらいだし。
いつも通り庭園に向かい異界交信を試す。
ジンギは黙って付いてきた。
「どうだ?」
周囲に反応はない。
「……不発ね」
「そうか。ま、魔物が召喚されるよりはいくらかマシだろうよ。
あんまり乱発すんなよ?」
前回魔域と交信して魔物が出て来た時は大変だった。
デモンリザードが5体出て来たのだが、魔獣との初戦闘ということもあり、
討伐にはかなり苦労した。コイツもリマと同じく根に持ってるな
「分かってるよ」
アタシはぶっきらぼうに答える。
それに異界交信はそもそも乱発はできない。1週間に1回というところだろう。
足音が聞こえた。誰かがこっちに向かってきている。
「ナレカ、異界交信は失敗したようだね」
青い長髪の優男が話しながら近づいてきた。
アタシの嫌いな人物だ。
「賢者長キーユか、どうも、珍しいね」
「あぁ、君に聞きたいことがあってね。
今回の廃村のデモンオーガ討伐だけど、君の策だったらしいね。
あの少人数であれを討伐できたことは正直驚いている。いったいどんな手を使ったんだ?
というより、前回の異界交信で、一体どこと交信に成功したんだ?」
「言わなかったっけ?魔域と交信して魔物が出ちゃったって」
「その後だよ。一度交信に成功しているはずだ。ごまかさないでくれ」
賢者長の目はごまかせないか。
「何の変哲もない、こちらとほぼ同じ文明の人間達だったよ。
だから一々報告の必要はないと思ったの」
別に間違ったことは言っていない。カレナ達は普通の人間だ。
違いがあるとすれば、自由に世界を創造できて、人も死なない夢の世界というところだろうか。
あとは向こうには“帝国”がないところ、か。
「その話が本当だとするなら学会に発表できるレベルだと思うけどね」
新しい世界を見つけて、コンタクトを取った。
こんなご時世でなければ、たしかに学会が飛びついてきそうな話だ。
「彼女たちは彼女たちの世界で生きている。本当はあまり干渉してはいけないのかもしれないね」
建前上は取り合えずそう言うべきだろうと思っての発言だ。
いやまぁゲームの世界だし、アイツそんなこと深く考えてなさそうだったけどね。
「確かに。だが、そんなことを言っている状況でもないのは君も分かっているはずだ。
情けない話だが我々には以前の様な力はない。少しでも可能性があるなら共有してくれ」
賢者会の長がこれではね。進歩がない。
衰退するべくしてしたというかなんと言うか。
「そうやって妹に負荷をかけて廃人にしておいて、よくアタシに頼みごとができるね?」
アタシは賢者長に八つ当たりする。
「気持ちは分かるが、あれは我々のせいではない。ナルカの意識体は“向こう側”で行方不明になっているんだ。
すまないとは思っているし、賢者会でナルカ本体の面倒は見ている。これ以上どうすることもできないよ」
「ナルカに異界交信を何度も使わせたのはアナタ達でしょ」
「仕方がないじゃないか。帝国が成果を出せと迫ってきていたから」
ティアムーン帝国は魔域と隣接しているため、最前線で戦う代わりに周辺国に支援を強要している。
ティアマーズ王国には賢者会があるため、魔術的な支援を強要されており、
上級女神術を使える者たちは次々と帝国に引き抜かれていった。
残ったのは中途半端な戦闘能力と会議室でグタグダ言うだけの頭の固い賢者達だけである。
それでもなお成果が必要だったため、異界交信を使って外部の力を引き出そうとした。
当時優秀な賢者だったアタシの妹ナルカは成果のため異界交信を使い、これに成功した。
そして、意識体分離を使って向こう側に行ったが、それっきり帰ってこなくなってしまった。
本体と意識体のつながりが切れてしまったナルカは廃人の状態になっている。
当時の賢者会は行方不明となったナルカを探そうとはせず、成果を出すことを優先した。
そこでアタシは愛想が尽きた。
「そうやって、いつまでも帝国にへこへこして、賢者長が聞いて呆れるね。
さっさとどっかに消えてほしいんだけど」
「分かってくれ。昔の話より今の話をさせてほしい。どうなんだ向こう側は?」
償おうともせず次の成果を求めるのはどーなのかね?
コイツには何を言っても無駄なのかもしれない。
しかし何か言わないと帰ってくれなそうだ。
「一応次のことを考えてもらってはいるけど、結果が出ているかは分からない。
アタシに愛想を尽かせて別のことをやっている可能性もある」
「その者たちは我が国の未来を憂いてくれてはいないのか?」
コイツのこういう性善説みたいなのを信じ切っている考えがアタシと合わない。
「当たり前でしょ。何言ってんの? 他所の国どころか他所の世界の事情なんだよ?
今までは向こうにも利益があるから協力してもらえてたってだけ」
ゲームのネタ集めだったらしいけどね。
1か月後にまた来いと言ってるんだ。幸いアイツはアタシとまた会いたがってはいるんだけどね。
順当に行けば、今ごろ残りのデモンオーガの討伐任務を進めているところだろう。
「そうなのか。だがそれでも構わない。もう一度接触してみてくれないか?」
異界交信は失敗しているし、どの道接触するしかないんだけど、
そのまま言われた通りにするのは癪ね。
「新しいデモンオーガも出ちまったことだしな。使えるもんは使っとけよ」
ジンギは賢者長に同意する様にカレナ達をまた使ってみろよと提案してきた。
新しいデモンオーガが魔域からこちらに来たという情報が入っている。
なりふり構っていられないのは、そうなんだけど、イライラするなぁ。
「うるさいね。言われるまでもなく接触はするつもり。ただし期待はしないでね」
捨て台詞を吐いて意識体分離で分離したアタシは魔法陣を通過していく。
「じゃ、アタシ帰るから。アナタが消えないなら、アタシが消えればいいんでしょ。
あ、廃村のデモンオーガ討伐の報酬はちゃんと用意してね。じゃないと次は協力しないよ」
本体のアタシは手を振って家に帰る。
「彼女は私達を許するつもりはないんだね……」
賢者長は力なくぼやいた。
ジンギはあしらう様に答える
「知らねーよ。賢者会でも色々あるらしいが、どーでもいいと思ってるだろアイツは。
妹の行方探してすらいないんだろ?そりゃ怒るだろうぜ」
「しかし、我々にはそんな余裕はないんだ」
「いやいや、お前ら別に何も成果出せてねぇんだし、何が余裕ねぇんだよ?
王室に集まって難しい顔して座ってるだけだろうが。お前と話していると気分悪いから俺も消えるぜ」
賢者長キーユを一人残してジンギも去っていった様だ。
賢者長はしばらく俯いたまま突っ立ていたらしい。
王都内に賢者会の拠点があり、そこにアタシとナルカの部屋がある。
廃人となったナルカはこの部屋でいつもぼーっと虚空を見つめている。
「ただいまナルカ。ご飯食べたみたいね」
空の容器が机に並んでいた。
廃人だが生命活動は継続しているため、食事と睡眠は定期的に行っている。
だが、それだけである。
「もう少しの辛抱だから。魔獣を討伐して自由に動けるようになったらアナタを探しに行く」
アタシは決意を胸に抱いて眠りについた。
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