第1話 ナレカの異界交信
初投稿です。
異世界をゲームの中に再現するというお話になります。
章分けしました。
◇リバティアス◇
とある荒野にて20人程のパーティと野獣の戦闘が行われていた。
このパーティは荒野の先にある王都まで迫っている野獣の群れの討伐を行っている。
数人の傭兵と、残りは魔術師の様な学者の様な風貌で、所謂賢者と呼ばれる者達だ。
「轟雷! それは女神の制裁!」
無数の雷が野獣を次々と倒していく。
「水流!それは女神の号泣!」
野獣達が津波に飲まれていく。
野獣達は一瞬の内に葬られた。
「ありがとうございます。さすがは賢者会ですね」
村人たちが賢者会と呼ばれる賢者の集団にお礼を言っている。
「あれくらいであれば問題ありません。我々は――」
「賢者長!」
一人の賢者が賢者長に走り寄ってくる。
「どうした?また野獣が来たのか?」
「いえ、それが、確認されたのはおそらくデモンオーガです!」
「まさか!? 魔獣が来たのか?」
賢者会に動揺が走る。滅多にこの辺りには現れない種が出て来たのだ。
「魔獣と戦ったことはない。しかし、なんとしても食い止めるぞ!」
賢者会と傭兵達は討伐に赴く――
◇
十数年後――
この世界は魔域より進行する魔物との交戦が長く続いており人類は劣勢だった。
この世界の一都市、王都ティアマーズの王室では作戦会議が開かれていた。
魔物たちの対応のためアタシ、ナレカ・ドーリンは賢者の一人として王室に呼ばれた。
参加者は皆憔悴しきっていた。
「隣国のティアジピターも国内を魔獣に蹂躙されたとか。我が国ももうおしまいです」
初老の大臣サールテが絶望した声を上げる。
「騎士団も傭兵もまだおるではないか!悲観することか!」
騎士団長のガウロは鋭い目で大臣を睨みつけた。
「ひっ!しかしガウロ殿! 徐々に進行されていると聞きますぞ」
大臣は怯えながらも反論する。
「ぬぅ」
騎士団長も現状は認識しており、それ以上何も言えずにいる。
国王のマーズは静かに口を開く
「賢者会の諸君からは何かないのかね」
賢者会とは作戦会議に呼ばれた軍師の集まりである。
賢者という職業は魔術師に近いが、知恵を絞って戦うものとされている。
それ故に敵を分析し戦術を練って戦う軍師の立場の者が多い。
賢者会の一人、青い長髪の優男、現在の賢者長のキーユ・ドーシンが口を開く。
「手は尽くしていますが、敵の数が多くて皆統率が取れておらず、己の身を守るので精一杯です」
この男は毎回言い訳がましいが、アタシにも妙案はない。
マーズ王はそうかと答える。
「まだ……まだ手はあるはずだ。だが何かが足りない」
それが何かは分からず、マーズ王はそれ以上口を開かなかった。
「勇者の一人でも見つかればよいのですが、もしくは女神術の様な力を手にすることができれば」
勇者一人でどうにかなるとは思えない。
「大魔賢者の様にか? しかし例の高魔術はここ数年成功しておらぬのだろう?」
「必ずや我等賢者会が成功させて御覧に入れます!」
キーユはこぶしを握って答える。この人がやるんじゃないんだけどね。
結局、何の解決策も出されぬまま会議は終了した。
◇
アタシは王都ティアマーズの宿屋の一室でベッドに横になりながら考え込んでいた。
この状況を打開するにはたしかに何かが足りない。
誰かがドアを開けて部屋に入ってくる。
「……おい、ナレカどうした?」
いつも行動を共にしている傭兵の男、ジンギ・ダハーラが部屋に入ってきてアタシの顔を覗き込んでいた。
毎度毎度ノックぐらいはしてもらいたい。
「いつもの考え事か?やめておけ。王室で何も案が出なかったんだろ?
打開策なんか思いつかねーって。おまえ賢者としてあまり役に立たないんだから体動かそうぜ」
「うるさいな」
賢者は高魔術を使って敵を分析し知恵を出し戦略を練って戦いを有利に進めるもの。
分析に使う“高魔術”は得意だが、戦闘で使う“女神術”は初級をいくつか扱える程度である。
人を束ねる力もない。でも、間接的にでも戦闘で有利になる策をずっと考えていた。
「ねぇ、大魔賢者はどうやって女神術を思いついたんだろう」
徐にジンギに聞いた
「女神術を編み出したっつう大魔賢者か? さぁな。お前まさか新しい魔術を編み出すとか考えてんじゃないだろうな
そういうのは選ばれた者にしかできないんだよ」
「……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
歯切れの悪い反論をする。選ばれたものか。
伝承ではとある賢者が女神バティとの交信に成功し女神術を授かったとされている。
女神バティとはこの世界を創造した神の内の一人らしい。
その者はその後も何度か女神と交信し数々の女神術を世に広めたことから大魔賢者と呼ばれている。
この現状を打開するには、それくらいの世界の根底を覆すような出来事が必要なんだと感じている。
アタシには何ができるだろうか。
大魔賢者を目指してこの道に進んだ。魔導書もボロボロになるまで読み込んでいる。
しかし使えるのは“高魔術”がほとんどで、広域分析、透視投影、意識体分離、異界交信、と戦闘で使えるものはほぼない。
戦闘であまり活躍の機会がないものばかりだ。
異界交信
アタシはベッドから立ち上がり外に出て、人気のいないところに行く。
ジンギは何をするのか想像できているようで、黙って付いてきていた。
着いた先は王都近くの古代遺跡にあるティアマーズ庭園
そこで異界交信を試みる
「おい、またやんのか。この前魔域のどっかと交信しちまって変なの出て来ただろ
リマ達はまだ根に持ってるぞ」
ジンギは呆れて言った。
「仕方ないでしょ。賢者長がやれって言うんだから」
異界交信とは、文字通り自分の世界以外の"何か"と交信するというものである。
当然受信できるものがいないと成り立たないので、成功率は低い。
大体の賢者は無応答で不発に終わるが、稀に別の国の賢者と交信が出来たりするが、
酷いときにはアタシのように魔域と交信してしまって、魔物が顕現してしまうことがあった。
一度交信に成功すると仮想的なゲートで向こう側とつながるため、そこを通ってくるのだ。
ただ、この高魔術はあまりにも成功率が低く、リターンも少ないため使うものはほとんどいない。
だが、大魔賢者はこれにより女神と交信して女神術を習得したとされている。
賢者長が期待しているのも分からないでもない。
現存するこの世界のやり方ではどうにもならないと悟っていたアタシも多少の期待はしている。
女神と交信できるかもしれないという期待ももちろんあったが、外の世界に人間がいるかもしれない。
そちらの期待の方が大きかった。
アタシはつぶやく
「この世界を変えたい」
(……この世界を変えたい)
応答があった。何者かとの交信が出来たようだ。向こう側とゲートがつながり転移魔法陣が現れる。
「意識体分離」
すかさず意識体分離を発動して受信者のもとへ赴く。
意識が一瞬遠のきフラつく
「おい!ナレカ!」
「大丈夫。意識体の一部を切り離しただけ」
「どこかと交信できたってことか?魔域じゃなさそうだな」
魔物が現れる気配はない。
「それをこれから確かめてくる」
意識体は異界交信がつないだ経路を進んでいった。
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