真解決編・3
「あ! そうそう! そうだったそのことなんだけどさ!」
トニはもらった猪子餅をちゃっかり、むぐ、と飲み込んで、手を打つ。
「このクソすっとぼけ坊主にツッコミたいことは山程あるが、まずなんで生きてるもんを殺したみたいに話してんだ? こいつは」
トニにまっすぐ指差されて、犬君はぐっと眉根をよせた。
「生きてる!?!?」
代わりに叫んだのは弘徽殿の女御だ。
「待って待って!? 裳瘡にかかった童たちは生きているの!?」
うん、とあっさりトニがうなずく。瞬間、弘徽殿の顔には耐えきれない喜色があふれだした。
「あたしはこいつに頼まれて、教えられた女童の家一軒一軒に訪ね歩いた。行商人のふりでは面会を断られることもあったが、そのときは家の下女にうまいこと賄賂渡してさ……下女だってたかだかお嬢さんの安否くれえならそんなに警戒もしねえし。……ーーその結果、」
と、トニは顎で犬君を指してにらみつけた。
「こいつの言う通り、一件を除いて女童は皆、無事に親元に帰っていた」
桐壺付きの女房たちが一斉に胸を撫で下ろし、弘徽殿がガタッと身を乗り出す。
「最初に死んだ女童以外は死んでないのね!?」
うん、とトニが大きくうなずく。
弘徽殿が脱力するようにほっと息をつく。最初の女童の死なら予測不可能な病による突然死だった。穢れを隠蔽した自体、宮中ではとんでもないことではあるが、少なくとも隠蔽のために桐壺が他の女童を見殺しにするようなことはなかったのだ。
「死んでないよ。異例の速さで親元に返されたのがかえって良かったのだろう。ま、中には一生あばたや身体の不自由が残る娘もいるだろうが、命には変えられん。あんたらの世界で顔が大事なのは解っちゃいるが、生きてりゃなんとかなるだろうさ」
トニの言葉に、弘徽殿はすごい速さでうなずきまくっている。
そんな弘徽殿からあきれたように目を離し、トニは桐壺をびしりと指さした。
「……んで、解せないのは犬君のアホの言い分と、それに一向に反論しない桐壺のねーさんの態度だよ。最初からあんたは女童が死んでいないことを見抜いてたのに、お姫さんたちの前に出たらわざわざ嘘をついたのはなんでだ?
桐壺のねーさんもねーさんだよ。あんた、人殺しにされるところだったんだぞ!?」
桐壺はぐっと言葉に詰まった様子でトニを見つめる。
「山吹」
犬君が少し声を低めて、咎めるようにトニの偽名を呼ぶ。
「桐壺の更衣様には、真に隠さなければならないことがひとつあるんだ。おそらく大事な親友と約束をした……その秘密に触れるから、真実をすべては打ち明けられなかった。その整合性を取るために、ちょうど降って湧いた私の偽の推理を受け入れた――そうですね?」
そして梨壺のほうに向かい、深く頭を下げる。
「梨壺様――あなたが、天子様なのですね」
梨壺はふっと息を漏らし、ゆっくりと口角を上げた。




