解決編・14
「すべてお話いたします。その代わりひとつだけ、お約束していただきたいことがあるのです。これから酷い話をいたしますが、関わった女房たちは皆、わたしと……とある共犯の御方に逆らえず、やむなくそうするしかなかったのです。すべてわたしが責任を取ります。取りますから、わたし以外の罪は一切不問にしていただきたく」
そう言い置いて桐壺が話し始めた事の顛末はこうだったーー。
◇◇◇
――七月五日、桐壺
「桐壺の更衣様、女童たちの熱が止まりません!」
「いかがいたしましょう!? 早く宿下がりさせねばここで死なれては穢れが生じてしまいます!」
報告を受けたわたしは蒼褪めました。
何しろそれは乞巧奠の二日前だったのです。
病の者を殿舎から多勢出したとなれば物忌みをせねばなりません。ましてやそのうち誰かが亡くなったりでもしたら――。
「乞巧奠の準備は続けて。女童たちのことはどうにかいたします」
とはいえ、こんなこと、孤立無援の養女のわたしには誰に相談したらいいのか解りませんでした。そのうちひとりの女童が儚くなってしまいました。
あわてふためく桐壺に、主上の訪れを告げる声が響き渡りました。突然の御渡りでした。
(見られた、見られた――!)
泣いて立ち尽くすわたしを優しく抱きしめて、主上はおっしゃったのです。
「……明日の夜、君を清涼殿に呼ぶ」
いいえ、いいえ。この状況をご覧になりましたか? それどころでは――。それより早く、穢れに触れてしまったことが皆に知れる前にお帰りくださいませ。
泣きながら、そのようなことを申し上げたと思います。
そんなわたしをいっそう強く抱きしめると、主上はこう言って微笑ったのです。
「そのときに、なんとかしてあげよう。大丈夫、すべて任せて。……知ってるだろ? 朕にできないことは何もないんだ」
帝の御発案に対してどう謗られても致し方のない発言ではありますが、彼の指示を聞いたとき、わたしは正直、「何を馬鹿なことを」と思いました。
主上はわたしの部屋の几帳を取り外し、上に掛けた棒で女童の腕を伸ばしました。そうして「明日、朕の部屋を訪れるときに、女房ふたりにこの棒をかつがせて連れて参れ」とおっしゃるのです。大丈夫、夜の暗さの中で他の殿舎を通過するだけなら、これでも意外とバレはしないよと。
主上はそうおっしゃいましたが、翌日前後を女房に挟まれた女童の遺体の腕に着替えの衣を載せた盆を載せながら、わたしはずっと馬鹿げたことをしていると思っていました。女童の腕に盆を載せたのは、替えの服を捧げ持っているように偽装すれば、腕が伸びていることは見咎められないと、主上がおっしゃったからです。
でもそんなにうまくはいかないわ。わたしはきっと早晩、義父上に見捨てられて気が触れた哀れな更衣として追放されるのでしょう。わたしが悪いことをしたのだからそれでも仕方ないけれど、贅沢を言えるならば、そっと宮中から消えてしまいたかった。
――そう、思っていました。
ところが、まさか……それは本当にうまくいってしまったのです。
弘徽殿からじっと見つめる視線を感じたときはヒヤッとしました。背筋を汗が伝い落ちていくのを感じました。
しかしその目はまったくの真剣で、おかしなものを見たとか更衣の奇矯な振る舞いに嗤っているとか、そのような気配は感じられないのです。わたしは胸を撫でおろしながら清涼殿に駆け込みました。
清涼殿にさえ着いてしまえば、あとは主上がすべて良きように計らってくださいました。
監視の者たちには口止めが徹底されておりましたし、義兄様を呼んで女童を引き渡す手筈も整っておりました。後は彼らがきびきびと動いて義兄様の用意した牛車に乗せ込むのをお任せするだけでよかったのです。
「ありがとうございます。これで、無事に乞巧奠が迎えられるのですね……」
放心してつぶやくわたしの肩を、主上はあやすようにずっと抱きしめていらっしゃいました。
それで初めて、わたしは自分が震えていることを知ったのです




