解決編・13
「馬鹿げた案だが、多数の遺体を運搬する方法はそれでいいとしようよ。遺体が重いとはいえ、こどもの身体ならば女手でも運べはするだろう」
あきれた顔の梨壺が言う。
「……で、女童たちの遺体をわらわらと吊り下げてどこへ行こうというのだ? 一度入内したら滅多には内裏から出られない更衣の身の上で」
梨壺は肩をすくめ、顔色を翳らせた。
「しかも君の言う通り、桐壺は内裏の最奥だ。何をするにもどこに行くにも、あまたの女房たちの目がこちらを向いている。個人としてはいかに優れた人柄や身分であろうとも、妃候補である限りは皆、政の駒には違いあるまいよ。誰かの駒であればすなわち誰かの敵になる。後宮は同じ身の上の鳥の相互監視の目によって構築された、絶対に出られない鳥籠だよ」
犬君は首を振った。
「いえ。殿舎から出る機会はあるのです。そのために皆様は後宮においでなのですから! ――そのときに、内裏の外に出られる人物に女童たちを引き渡したらいいのです」
そうして桐壺のほうに向き直り、尋ねた。
「桐壺の更衣様は事件の前夜、帝からお召しがございました。そうですね?」
「まさか」
梨壺が咎めるように声を上げる。
「君は帝との逢瀬を疑っているというのか」
ええ、と犬君は頭を下げる。
梨壺があんぐりと口を開いた。
「だとしたらなんだ。いいかい? 更衣が帝と逢うために更衣が殿舎を出るときは、帝と逢うために清涼殿に行くしかないときだよ。他の誰にも逢えないし他のどこにも行けるわけがない。
とんだ言いがかりだよ。帝を待たせて他のところに行けるわけもないし、嘘をついて他の人間に会うことなどもってのほかだ。寝所の中での言動はすべて警備の者に監視され、奇異な言動があればすべて注意と記録がされる。監視の目と言うならば、自分の殿舎にいるよりもよほど自由が利かない。その中でどうやって――」
犬君は頭を下げたまま、しかしあっけらかんと答えた。
「その帝の御命令とあらば?」
堂々と返事されるあまりにもあまりな共犯者の指摘に、皆が静まり返った。
「君はまたとんでもないことを言うね」
長い沈黙の後、梨壺が目を細めた。
「帝が共犯だと言うのか? こんなくだらないことの」
犬君は大きくうなずいた。
「はい、畏れながら。くだらないことかどうかは他人に測れることではございませぬ。それが恋ゆえであるならば、人は何をするか解らないのでございます」
顔を上げた先で、桐壺と目が合う。桐壺は無表情だった。……ように見えるが、実のところは顔がこわばっていた。だから先程から表情が動かない。
「恋ゆえなら……どんなくだらないことも、嗤わずにいてくださるの?」
無表情のままぽつりと、桐壺がつぶやいた。
「……内容にもよりますが……あなた様は帝の大切な寵妃様にございます。何も国を傾けようというのではない、朝廷の行事に出たいので穢れの発生を隠蔽してほしいという――いじらしい願いくらい、天子様に叶えられないことがありましょうか」
あまりに真剣な桐壺の目に、さすがにひるんだ犬君が言葉を選びながら説明を加える。
桐壺の表情がふっとほころんだ。
「解りました」
そうして弘徽殿からそっと手を離して一礼すると、今度は梨壺のほうに向かい、怒りに震えるその手を取った。
「宮様、もうやめましょう。宮様はもう充分に約束を果たしてくださいました。それ以上は、だめです。わたしなどをかばって、もうそんなに頑張ってくれなくてもいいの」
「でも桐壺……!」
強く咎める梨壺に首を振り、いっそ清々しい声で桐壺は顔を上げた。
「ええ。ええ。すべて白状いたします。すべてわたしがやらせました。女童を山に捨てさせたのはわたしの仕業。わたしの身勝手」




