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花鳥風齧!  作者: 白瀬青
弘徽殿の悪役令嬢
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解決編・12

 殭屍キョンシー、それは中国ではいにしえから伝わる妖怪である。



「は? 殭屍??」

 梨壺は手を前に伸ばす手振りをした。

「殭屍って、志怪小説(怪談話)にある、あの殭屍か?」

 はい、と犬君はうなずく。



 隣国では、屋内に置いておいた死体が動き出すという怪異が語り継がれている。魂魄の陰の部分である魄が身体の中に残ってしまうと、その魂魄のかけらが遺体を動かしてしまうというのだ。

 ずっと後の世では手を前に出し、道教の札を貼った道士に使役される姿で芝居にされることになる殭屍だが、今の時代ではとりあえず「動く遺体」というだけの怪異である。



「馬鹿馬鹿しい! 死んだ女童の遺体が動き出して、自ら鳥辺野に埋葬されたというのか。そんなバカげた妄想が通るなら、あらゆる死の犯人は陰謀に結び付け放題だろうよ。そんなもの、不審事があれば二言目には呪詛だ祟りだとのたまうジジイどもと何ら変わらん!」

 梨壺は馬鹿にしたように前に出した腕をひらひらと振っている。犬君は梨壺の腕を見つめ、「まさにそれです」と言った。


「今、殭屍と聞いて手を前に出しましたね――それは比較的新しい形態の殭屍で、道教の道士が戦場などの遠方から埋葬すべき遺体を運搬する独特な方法から来ているのだといいます。なんでも彼らに術をかけられると、遺体は手を前に出して硬直した状態で歩き出すのだと」


 犬君も腕を出して言った。

「遺体ですので硬直しているのは解ります。人は死ねば身体が硬くなりまする。……が、ところでなぜ腕を前に出した状態で硬直しているのか?」

 馬鹿馬鹿しい話だと思っているのに、神妙な顔で問いかけられると、梨壺はつい好奇心で問い返してしまう。


「なぜなんだ?」

 犬君はうなずいて、さらに話に乗せるように短く答えた。

「そもそも不思議な術などではないのだそうです」

 そこで言葉を切り、犬君は梨壺と目を合わせた。


「唐では遺体は死後も丁重に扱われるべきものでございます。したがって客死した場合は道教の道士がその遺体を家に送り届けねばならないのですが」

 言いながら犬君は持っていた檜扇を閉じる。


「旅先の死者をひとりふたり送る程度ならばいざ知らず、戦場などで大量の遺体が出た場合、道士数人で運びきれるわけがありません。そこで彼らは工夫をしたのです」


 やおら犬君は、梨壺を真似て腕を伸ばした。そしてその腕に閉じた扇を添えるようにして持つ。

「竿を、添えるのです」


 そうして「これでは短いですね」と首を傾げると、桐壺付きの女房たちに頼んで几帳をふたつ解体させ、上に渡してある棒を持ってこさせる。


「長い棒にこうやって腕を添え、腕を伸ばしたままの状態で死後硬直を迎えさせます。硬直が進んだら、数人の遺体の腕をこの竿にひっかけて、前後二人で持ち上げる」


 犬君はそれを受け取ると、伸ばしたままの腕を棒の上に置いてぐったりと運ばれているかのような身振りをした。


「そうして二本の竿に両腕を引っかけて操り人形のように運ばれていく遺体が、人には怪しき術で死体を使役しているように見えたというのです」


 そうしてバッと顔を上げる。死体の演技をしていた犬君が突如動いて、思わずビクリと驚いている桐壺に、犬君はにっこり微笑んだ。



「この方法でなら、やんごとなき姫様方にでも複数人の遺体を運べると思いませんか?」



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