解決編・6
「あなた様にご都合が悪いからと、あることを無き事となさるのはさすがに如何かと!」
強い反論に一番驚いたのは弘徽殿の女御だ。その知性と教養と事務能力でのし上がってきた実力派の女官としての誇り高い彼女は、いつも女御・更衣を見てうっすら馬鹿にしたような態度を取ってきた。その内侍が自分をかばう側に回るとは思ってもみなかったのだ。ましてや、主の意見を裏切って。
更衣を抱きしめたままきょとんとしている弘徽殿に強くうなずき、内侍は証言した。
「ええ、ええ。弘徽殿の女御様ならびに桐壺の更衣様のおっしゃる通りですわ。私は確かにそれを聞いているにもかかわらず、姫様の肩を持つあまり下々の女官たちの無礼なふるまいをなかったことにしようとしていました。弘徽殿の女御様への中傷・流言は確かにございます。その中には度を越えた噂話もございました。さすがに冤罪に繋がりかねない話はやめなさいと注意したこともあります。……弘徽殿だからと悪い噂をされて、傷つくことがありえないと断じるのはいかがかと!」
梨壺のほうも、まさか内侍に反論されるとは思わなかったのだろう。梨壺は一瞬ぽかんとした。後、その言葉を遮るようにぴしゃりと床を扇で叩きつける。
「とにかく! 弘徽殿だから悪口を叩かれるなんてことはこいつの被害妄想だ!」
そうして弘徽殿のほうに向き直り、真剣な顔で言う。
「弘徽殿、根も葉もない悪口や噂が無いとは言わない。けれどそれは君と右大臣を追い落としたい者の流言だ。藤原なら左大臣も右大臣もやっている。君だって加担していないとは言わせない」
「な……!」
あまりの言われように弘徽殿は絶句する。
嘘ではない。弘徽殿の言うところの「交流と根回し」も汚いことを言えばそういう類のはかりごとと言える。
「政敵に少しでも非があれば大袈裟に騒ぎ立て、少しでも筋が通ればつまらん物語仕立てで話をふくらませて強引に辻褄合わせて、そうして悪事はみんな敵対派閥のはかりごと。――阿呆のような手段だが、これがうっかり足を取られると、失脚させるには充分な武器になる。皆がそうやってのし上がり、あるいは政敵を追い落としてきた。……こどもじゃあるまいし、弘徽殿の女御様ともあろう者がそんな常套手段にうろたえるのか? そんな繊細で不用意な女だったか君は? そのような不覚悟でここにいるならさっさと里に下がったほうがいい」
だからこそ、弘徽殿は拳を握りしめて震えている。
どれほど荒れることかと思った。冷静に話ができないようであれば完全に梨壺の話術に持ってかれる。
しかし犬君の危惧に反し、弘徽殿の女御の言葉は、簡潔で冷静だった。梨壺の剣幕にかえってすっと熱が下がってしまったかのように。
「不見識はどちらのほうかしら」




