52.巡り巡って②
最初の爆発からそれは次々と連鎖していった。あちらこちらから爆発音が響き、地面が揺れる。
アルフレッドは周囲を見渡し、表情を硬くした。
「証拠ごと、うやむやにする気か……」
「あの様子では研究棟は火の海なのです。こちらは風下です。悠長にしていると煙にまかれるのです」
メイはそう言いつつもアダムたちが吹き飛んだ庭の方角を見て鯉口で音を立てる。アルフレッドは渇いた唇を舐めて大きく息を吐いた。
「メイ……。君はスヴェン部隊長を探してくれ。スタースが連れていた勢力を追って行ったはずだ」
「ヤツなら自分の身くらい自分で守れるのです」
「敵の狙いはスヴェン部隊長でもある。あまり1人にはしておけない。君の足ならすぐに合流できるだろ?」
「アッチはどうするです? アレを逃がしては元も子もないのです。って言うか舐められたままではキリュウの名が廃るのです」
メイは渋い表情を浮かべている。彼女の言う通り。ここで日和見をしている訳にはいかない。
アルフレッドは先ほど落としたハンドガンを拾いあげた。
「俺がアダムたちを援護しつつ、どうにか時間を稼ぐ……。スヴェン部隊長の安全が確保できたら、助けにきてくれ」
「これだから駄メガネなのです……。あの様子では、時間稼ぎどころか火に油を注ぎに行くだけなのです」
やれやれと、メイは頭を振る。彼女の言葉にアルフレッドも言葉を濁す。
「分かってるよ……。でもあの爆発の規模じゃ、君の言う通りすぐに避難を始めないとあっという間に火に呑まれる。足の遅い俺がスヴェン部隊長の元に向かうのはさらに無謀だ。レイモンドたちも、今はシェルターの避難を優先しているだろう。なら、消去法で俺がアダムたちを追うしか……」
「そんなに死にたいなら好きにするのです。あとは任せたのです」
「おっけー。いってらっしゃーい」
「ま、マリア……?!」
軽い返事が聞こえるとメイは風を受けてスヴェンの後を追いかけていった。
すっとんきょうな声を上げるアルフレッドの肩を叩き、マリアは眉根を持ち上げる。
「何よ。せっかく助けに来てやったのにお邪魔なワケ?」
「いや……。だって、シェルターの防衛はどうしたんだ……?」
「ンなもん、終わったに決まってるでしょ。避難は第2の連中や外回りの連中も戻ってきてるし、ローザちゃんとジジイさえ残ってれば充分よ」
「まあ、そんな訳で私たちはスタースを捕えることに集中しようじゃないか、アルフレッド。……おや?」
マリアに続きやって来たライラは足を止める。その傍らには呻きながら床を這いずるオーギュストの姿があった。
気付いたマリアも目を凝らし、首を傾げる。
「なに? アイツどしたの?」
「状況からして、スタースに裏切られたようだ。オーダムさんの言う通り、スタースは何故か滅鬼武装を所持している上、鬼化までしている。並みの鬼種とは比べ物にならないぞ」
「適正値が高いにしても、スタースは鬼化までして随分なリスクをとったものだね。しかし、ふむ……。滅鬼武装をもつ鬼種、ね……。それにこちらの滅鬼武装は他のコピーに比べれば、出来もそこそこか……」
「感心しないでくださいよ、オーダム局長……」
しゃがみ込んだライラは顎を擦り、怨嗟を吐き続けるオーギュストを興味深そうに見下ろしている。
「私のEd-001をパクっただけはある。やはり早いトコ返してもらおう」
「そいつはどうする?」
「今回の騒ぎの証人だし、私が手当てして拘束しておくよ。このままじゃ失血死か焼け死なれてしまうからね。アルフレッド。鎮静剤に余りはあるかい」
「彼を昏倒させておくくらいだったら充分だと思います」
「助かるよ。じゃ、スタースは任せてもいいかな」
「他に誰が行くって言うのよ」
アルフレッドは背負っていたリュックサックから手のひらサイズのケースを取り出しライラへと放り投げる。受け取ったライラはひらひらと2人の背に向かい手を振った。
マリアは割れた窓ガラスを越え、足早に庭へと出て行く。少し遅れてアルフレッドは懐中電灯で彼女の行く先を照らす。
「ところでマリア、作戦は? アダムはかなり深手を負っているし、彼の援護にきた鬼種も苦戦してることだろう。実質、君とスタースとの一騎打ちだ。だが君も弾が潤沢とは言えないし、痛み止めも切れ始めるぞ」
アルフレッドがマリアの手首に視線を落とすと、ブレスレットは黄色の光を帯びてゆっくりと点滅していた。
マリアは首を傾げる。
「作戦? それを考えるのはアンタの仕事でしょ」
「…………」
駆けだしたマリアの背を眺め、アルフレッドは目元を手で覆った。




