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48.結んだ手を開いて①

 アダムは身構えるダレンを手で制した。風が吹きすさぶ中、銃声がエントランスに絶え間なく飛び交う。

 そんな中、アルフレッドはげんなりとした様子で体を起こした。彼は身を低くした状態で背中のリュックをおろす。


「なんだって……どうして俺がこんな最前線に……」

「何をしていたのですか、アルフレッド・ハートフィールド。レイモンドは何をしているんです……!」

「あのパワハラ上司でしたらアッチでパーティーしてますよ……。ちなみに研究棟に残ってた鬼種(きしゅ)はオーダム局長を救出するついでに殲滅してきたらしいです……」


 スヴェンの叱責に彼は沈んだ声音で応じた。アルフレッドはシェルターの方角を指さし、ため息をつく。


「どっかの誰かさんが自販機や植木で廊下を塞いで……。通路と言う通路を塞がれ、外から回ろうにも俺とマリアの権限じゃセキュリティを通れず、仕方なく点検口を這いまわって……。全力で走らされたかと思えば救護兵の真似事まで……」

「その……申し訳ありません……」


 心当たりしかないアダムは素直に頭を下げた。

 アルフレッドはリュックサックから取り出したポーチを広げる。そこには救急用の医療器具がずらりと並んでいた。彼はずり落ちた眼鏡を直し、一変して表情を引き締める。


「愚痴はこれくらいにして……。怪我人の処置は俺に任せて、動けるなら君たちは援護を頼む」

「テメーは教会の人間だろうが」

「ダレン殿……」

「その通り。俺は教会の人間だ。鬼種を殺すサポートをして生計をたててる」


 アダムはさらに食って掛かるダレンの肩を掴んで引き戻す。

 アルフレッドはヴェルデンとイヴを交互に見やり、すぐさまイヴの傍らへと移動した。


「ただ、今はこの2人に死んでしまっては困るんだ。このままだとオーダム局長の無実を証明するどころか裏切り者を逃してしまう。信用できないならそれでも構わないが、手当ての邪魔はしないでくれ。鬼種(君たち)ならこの程度、銀への拒絶反応さえ抑えれば自然治癒で一命はとりとめるはずだ」

「局長……? それは先の女性のことですか?」

「本物なのは白衣とセキュリティカードだけで、中身は別人さ。あの人は酒の席でもあんなにテンション高くないぞ」

「では彼女は……」


 アダムは眉を潜める。

 特定の人物の骨格だけでなく、声までも模倣する。()()()()難しいだろう。

 アダムはできる限り穏やかにルイスへと呼びかけた。少年は横たわるヴェルデンの傷を震える手で抑え続けている。

 ルイスは顔を上げ、息を呑む。


「なに……? オレはどうすればいいの……?」

「アルフレッド殿の手助けをお願いできますか。私は行かねばなりません」

「行くって、どこに……? このおじさんと、イヴを置いて……?」

「私はあの方を追わねばならないのです。何かあれば、ダレン殿に従って下さい」

「勝手にオレを子守りにするンじゃねーよ!」


 ダレンは悪態をつく。彼は背中を向けたまま銃へ弾を装填した。


「だが、ヴェルデンさんとイヴさんをそこのメガネに任せっきりにはできねーからな。そのついでだ……」

「ありがとうございます、ダレン殿。今回のご恩は必ず……」

「勘違いすンな! ヴェルデンさんが動けるようになったらオレは2人とボウズを連れて退くって言ってンだよ! テメーは自力で戻れ!」

「構いません。皆さまをよろしくお願いいたします」


 ダレンへ深々と頭を下げたアダムは、次いでイヴの手を握る。彼女の呼吸は浅く、薄い唇から血の泡が伝う。

 拭った指で触れた生ぬるい感触に胸が詰まる。


「アダム……」

「……必ず戻ります」


 イヴに代わり自身を呼ぶヴェルデンへ頷き、アダムは立ち上がる。

 武装した集団の標的はすでに刀と風を自在に奮う乱入者へと切り替わっている。風と共に縦横無尽に動き回る彼女には弾ひとつかすらない。


「私も行きます。ここは頼みましたよアルフレッド」

「え……? あの、スヴェン部隊長……? ここにいるの俺以外、全員鬼種なんですけど……?」

「テメーみてぇなマズそうな生白いメガネの血なんざ一滴だって飲みたかねーよ」


 スヴェンの姿はすでにない。ダレンの銃が暗がりの中でも正確な射撃を開始する。

 それに合わせてアダムもカウンターの陰から飛び出す。

 残されたのはアルフレッドの深いため息だけだった。

 

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