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26.今度こそはと意気込んで①

 エレベーターのランプは目の前で点滅し、扉が開いた。

 中に人影は無い。

 グリップを握りしめていたアルフレッドは安堵の息をつく。


「ぼさっとしない!」

「うおわっ?!」


 マリアからど突かれたアルフレッドは壁へ背中をぶつけた。その横を銃声が横切る。

 ローザが放った弾丸は廊下の反対側の非常階段から現れた男の肩を掠める。男のフードは目深に被られ、顔は見えない。それでもその人物を判別するには十分だった。

 髪を撫でる生温い潮風。まっすぐにこちらを見据える双眸、拳。炎の中、遠退く背中。

 マリアの口角が持ち上がる。

 

「よりにもよって、この間の鬼種(ゴリラ)とはね」


 ローザは悪態をつきながらも呆気に取られるカイルの腕を引きよせ、後退する。


「どうしてアイツがここに?!」

「腰抜かしてる暇があったらルイスたち連れてとっとと逃げなさいっての!」


 メガネを直すアルフレッドを叱咤し、マリアはルイスのパーカーについていたフードを頭を深く被せる。

 彼は戸惑いに声を震わせ、上目づかいに彼女を見上げた。


「ま、マリアは……?」

「そりゃあ、すぐに追い付くわよ」

 

 マリアは不適に笑い、ルイスの背を叩く。

 

「アタシは強いンだから」

 

 マリアは両手をそれぞれのホルスターへと伸ばす。

 

「さーて。今日もお仕事よ。ギュンターに新人さん」

 

 ふたつの銃身は鈍く、黒く男の影を映した。銃口を男へ向け、マリアは声を張る。

 

「ローザ、ダメガネとその子たちお願いね」

「私も残る」

「アルフレッドだけじゃ面倒みきれないデショ?」

「…………」


 ローザは口を開きかけたが、アルフレッドを促し、兄弟を連れてエレベーターへと走る。

 閉ざされる扉の前に立ちふさがったマリアは息を吐いた。

 指を強く絡めると、銃身は黒鉄(くろがね)から白銀(しろがね)へと変わる。

 フードの男はマリアと対峙したまま動かない。奇妙な沈黙の中、マリアは横目に窓の外へと視線をやる。

 窓の外は夏のリゾート地にふさわしい、容赦ない日光が降り注いでいた。


「アンタ、どうやってここまで来たの?」

「…………」


 男は応えない。代わりに拳を構え、体を前後へ開いた。


「アンタってば相変わらずねー……」

 

 まあ、いいわ。と、マリアは銃口を男の胸へと向ける。


「リベンジといきましょ、ギュンター」


 腰を落とし、力強く地面を蹴った。

 銃声が鳴り響く。連続して自身に迫る銃弾を、男は最小限の動きでかわす。

 慎重にこちらの出方をうかがう瞳と視線が交わったマリアは笑みを深める。

 男の拳がマリアの動きを正確に捕え、銃弾の合間を縫う。銃身で男の拳を受けた彼女の体は反動で後ろへ吹き飛ばされた。


「アタシに手加減してる余裕なんてないんじゃない?」

「……!」


 そこでマリアは壁を蹴る。空中で体を捻り、再度照準を定めた。

 銀の弾丸が四肢を掠めていき、男は慌てた様子で身を返す。

 彼の体は重力を物ともせずに後方へと飛び退いた。砕けた大理石のタイルが足元へ散らばる。


「今度は逃がさないっての!」

「!」


 非常階段の扉へ飛び込もうとした男にマリアが肉薄する。

 男はとっさに身を引いた。勢いをのせて放たれた彼女の蹴りを、両腕でしのぐ。

 すかさず、マリアはギュンターの銃口を男の頭部と重ねた。


「くっ……!」

「……?」


 男のうめき声にマリアは眉を潜める。

 両腕を前へつき出し、男は後方に向けてさらに強く床を蹴った。

 男の体は分厚い窓ガラスを突き抜ける。突然のガラスの雨に階下からは悲鳴が響いた。


「うっわ……。マジ……?」


 ここはマンションの7階。7階ともなれば人間が死ぬには十分な高さがある。

 足元の景色を見て、さすがのマリアもためらいはした。しかしマリアは男を追いかけ割れた窓から飛び降りる。

 階下に止まっていたトラックの荷台には運よくゴミ袋が山のように積まれていた。車体が大きく揺れ、マリアの全身にじん、と衝撃が響く。

 

「……いや、いくらなんでもさすがにコレは痛いわ」

 

 背中をさすりつつマリアは起き上がった。骨折どころか、これが「痛い」で済んでいること事態が驚きである。

 マリアは軽くホコリを払い、トラックの荷台から降りた。

 アスファルトには赤黒い水玉模様が転々とある。それをたどりながら、空になったふたつの弾倉を入れ変える。白銀の銃身は陽光を受けて輝いていた。

 通りの真ん中に、男の体が転がっている。

 規制線の向こうではクラクションが鳴らされ、喧騒が遠ざかった。


「二度も相手の実力を見誤るとは……。いつまで経っても未熟ですね……」


 顔を覆っていた覆面は掠めた銃弾に割かれ、上体を持ち上げた男の頭からフードが外れる。

 その目元から耳元にかけて深く刻まれた古傷はどうにも、忘れるはずがない。

 マリアは思わず眉を潜めた。


「アンタ……」


 足を止めたマリアに、向きなおったアダムは短い眉を下げた。

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