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15.月明りを頼りに②

 短い悲鳴が響き、男が持っていたクーラーボックスは床を転がる。

 右目をおさえ悶絶する男。警備員が短い悲鳴を上げて奥に逃げていく。

 マリアは間髪いれずに銃を抜くも、辺りは白い煙幕に覆われた。とっさにマリアはもう片方の腕で口と鼻を覆う。


「『鬼才(きさい)』か……!」

 

 男はもつれた足でエントランスの扉を突き破った。

 マリアが威嚇として放った弾丸は男の肩を掠めていく。

 腕の隙間から僅かに呼吸するも、体にこれといった異常は見られない。マリアは男の後を追い、煙幕の中から飛び出す。

 

「何度言わせるんだ、マリア! 動く前に俺へ報告をしてくれ!」

「ヤツと鉢合わせた! 聞こえてる、ローザ?」

「ええ。住民の避難は逃げてきた警備員に任せたわ。今は目標の『落とし物』を確認中」


 弾を装填しながらマリアは悲鳴や怒号が聞こえる方へと駆ける。

 耳元ではアルフレッドの叱責が続いていた。


「待て待て! 君は万全の体調じゃないんだ。ローザの援護なしに鬼種(きしゅ)との交戦は許可しないぞ!」

「昼間っから狩りに出るとんでもヤローを逃すわけにはいかないでしょうが!」


 血痕を残して逃亡する男を追いかけ、マリアは悪態をつく。

 男は通行人を突き飛ばして大通りへと出た。真昼の交差点に煙幕が立ち込め、車のクラクションが至るところで鳴り響く。

 男が角を曲がるのを辛うじて視認したマリアはその手前の路地へと入った。早くも上がる息に思わず胸を押さえた。


「あンにゃろー! 病み上がり走らせんじゃないわよ……!」

「ヤツの『落とし物』を確認した。輸血パックと臓器。大きさからして成人女性。アルフレッド、処理班」

「分かった。そこは処理班に任せてマリアを追ってくれ。目標は建物沿いに北へ進んでいる。マズいぞ、マリア」

「ここから北……。おそらく自然公園ね」

「だあああっ! 煙幕だけでもめんどくさいってのに、山に逃げ込まれるのだけはゼッタイ阻止!」

「ああ。血痕と監視カメラで追跡できる内に捕まえるぞ。君を先回りさせる。ローザが追いつくまで時間を稼いでくれ」


 アルフレッドの誘導を受けたマリアは路地をいくつも曲がり、再び大通りへと跳び出た。銃口は曲がってきた男の姿を正確に捕える。慌ててブレーキをかける男の脚を銀の弾丸が撃ち抜く。

 男の呻き声が響き、右足から崩れる。しかし、男は周囲を逃げ惑う悲鳴の中から、より細く小さな腕を引きずり込んだ。

 マリアが次弾を打ち込むより先に、男はその首へナイフをつき立てる。


「銃を下ろせ! でないとこのガキが死ぬぞ!」

「へぇ? 試してみる?」


 怒声に対し冷ややかに返すも、舌打ちが無意識に口をついた。男の額へ銃口を向けるマリアの額に汗がにじむ。

 右目の出血はすでに止まっているものの、男は夏の日差しに油汗を浮かべる。建物のひさしが作るわずかな日陰に身を寄せ、唾を飛ばして怒鳴り散らした。


「いくら銀の弾だろうと、死ぬまでにこのガキの喉くらいは掻き切れるぜ! お前が銃を下ろさないならガキも道連れだ!」


 過呼吸を起こしながら涙ぐむ少女と目が合い、マリアは渇く唇を舐める。

 手中の銃は強く降り注ぐ日差しに反射していた。

 冷静な声音がマリアをなだめる。


「マリア。銃を下ろすんだ。日が出ている内はこちらが有利であることに変わりはない。第2部隊も10分あれば到着する。時間稼ぎと人質の保護を優先するぞ。ローザ、俺が鬼種の背後に誘導する。風下から狙撃の射程に入ってくれ」

「マリア、アルフレッドが賢明。私が仕留める」

「……わかった」


 喉まで出かかった悪態を呑み込む。マリアは小声で了承した。

 渋々と、マリアはギュンターを足元へ置いた。


「そうだ。そのまま下がれ……!」

「アタシから逃げ切ったとしてもどうせ干からびるわよ」

「うるせぇな! はやく下がれ! そうだ、車をよこせ……! 俺が無事に逃げられたらコイツを返してやる!」


 錆びたナイフが柔らかな肌に食い込み、赤が滲む。少女は固く目を閉ざし、震える声で助けを乞う。

 駆け出そうとする両足の衝動を抑え込み、マリアは両手を挙げてゆっくりと後退していった。

 その肩を、後ろから強く掴まれる。背後から伸びてきた男の手は静かにマリアを下がらせ、穏やかな笑みと共に前へと歩み出た。


「では、私がお嬢さんの代わりにお付き合い致しましょう」

「……お前、誰だ?」

「名乗る程の者ではありません。近くの仕立屋に用事があった通りすがりです」


 黒のスーツに身を包んだその人物に、マリアは目を瞬いた。


「アンタ……」

 

 声を漏らすマリアに、アダムは口元へ人差し指を立てて見せた。


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