第37話
お久しぶりです。
最近季節の変わり目で風邪を引いてしまいました。
皆さんも気を付けてください。
小ネタ
・サルビア伯爵はアステルが好きすぎる余り、婚約の申し込みに来た貴族のご子息を見定めとしてボコボコにしています。アステルはその事を知らないので自分はモテないのだと大きな勘違いしています。
・訓練場には観覧席のようなものがあり、アステルたちはそこから応援しています。また、観覧席には強固な保護魔法がかかっているので、今回のような大きな爆発も直撃することなく安全に観戦することが出来ます。
翌朝、昨日の疲れが取り切れていないものの、ある程度は動けるようになっていた。朝食まではまだ時間があったため、暫くは武器と防具の手入れをすることにした。
案の定防具は痛んできていて、所々にほつれが生じていた。しかしそれに比べて黒剣は新品と遜色ない状態を保っていた。フレイが言うにはとても高価な武器らしいので何等かの保護魔法がかけられているのだろう。僕には魔法の才能がないのでそこら辺の情報は今度フレイに聞いてみよう。
準備も整い、丁度いい時間になったので、下の階に降りて朝食を食べに行く。1階には僕以外のお客さんも沢山いて、朝からとても賑やかだった。
女将さんがいるカウンターへ向かい、朝食を受け取りに行く。カウンターの奥からパンの香りや野菜の出汁がしっかりと取れたスープの香りが僕の鼻腔をくすぐる。
「おはよう女将さん。」
僕の声に気づいた女将さんはニコッと笑いながら挨拶を返す。
「アレクじゃないか、おはようさん。朝食出来てるよ、座って食べな。」
女将さんに促されて空いている席に座り、朝食が運ばれてくるのを待つ。周りの客がおいしそうにパンとスープを口に運ぶ姿を見て僕もお腹が空いてくる。
少し待つと女将さんが料理を運んでこちらに配膳してくれる。今日のメニューは黒パンとスープ、そしてベーコンと目玉焼きだ。
早速黒パンとスープを口に運ぶ。野菜の出汁がしっかりしたスープが黒パンを柔らかくしていて食べやすくなる。目玉焼きとベーコンは焼き具合が完璧で、半熟の黄身とベーコンの旨味が絶妙にマッチしていて、口に運ぶ手が止まらない。
「ホント美味そうに食うよな。」
「そりゃ美味いんだから当たり前だろ?それにこの宿泊費でこの朝食って考えたらめちゃくちゃお得だからな。」
野菜を中心にしながらも食べ応えのある料理を作れるのは女将さんがそれだけ頑張っている証拠だろう。
そんなこんなで腹を満たした僕は、女将さんに挨拶をして宿を出てアルヴィリス伯爵の別邸へと向かう。
「なぁフレイ、伯爵との模擬戦で昇級試験の時みたいに力を貸してくれるか?もちろん最初から使うつもりじゃないけどさ。」
僕の言葉にフレイは少し怪訝そうな顔をしていた。
「小僧がチビの時もそうだったと思うが本人の許容量を超えた魔力の付与ってのは負担がデカいんだ。前回の無理からあまり時間が経ってないからな、今回はオレの力なしで頑張るんだな。」
フレイの話によると魔力をためる器官のようなものが体にありその魔力器官がとても疲弊しているらしい。自身の許容量を超える事があまりないことに加えて本人にはあまり自覚がないものらしくしばらくは休ませる必要があるのだという。
「まぁ僕自身の力で認めてもらわないと意味ないもんな、どうにか頑張ってみるよ。」
「そういうこった、ビックになるには自分の力で切り抜けることも大事だからな。それにあの嬢ちゃんにイイとこ見せたいだろ。」
「まぁな。」
フレイの茶化すような言葉に頬を掻きながら返す。確かにフレイの言う通りでアステルに見栄を張りたいという気持ちも少しある。
しかし現実的に伯爵との自力の差は圧倒的だ。フレイは大体の魔力量が分かるらしく、伯爵の魔力は一流の魔術師と同程度がそれ以上と言っていた。
そんな格上の相手に大立ち回りをしないといけないのは骨が折れそうだ。
「アステルがあんなに必死に訴えてくれたんだ、男らしい所を見せないとな。」
伯爵に勝てるかは分からないが、せめて食い下がって認めてもらうくらいは戦いたい。
意気込みをしたところで丁度屋敷にたどり着いた。
屋敷の前に立っている守衛さんに名前を出すと、敷地内にあるという訓練場へと案内された。
訓練場へと向かう途中、守衛さんが話をしてくれた。
「実は私、アレク様に少し期待しているんです。お嬢様が何かをしたい、なりたいと強く訴えていた事を聞いてとても驚きました。それと同時にお嬢様には自由に生きてほしいと思ったんです。私みたいな平民出身の守衛には貴族のお役目の事はよくわかりません。アルヴィリス伯爵がお嬢様を大切になさっていることも承知です。ですが、そのうえでどうにか勝って下さい。」
「保障はできないけど、何とか頑張ってみるさ。」
そうして案内された訓練場の大広間の中央にはアルヴィリス伯爵が立っていた。
アステルと接している時のような優しい雰囲気は一切なく、冷たく冷酷なオーラが漂っている。
辺りを見回してみると、訓練場の端にアステルとカエラさんがいた。アステルは緊張した面持ちでこちらを見つめているが、カエラさんはなんだか少し楽しそうな表情をしていた。
アステルが僕の視線に気づいたのか、大声で応援してくれている。
「アレク~!!頑張って~!!」
少し距離がある為ハッキリと聞こえたわけではないが、きっと僕を激励してくれているのだろう。
その光景を見ていた伯爵が青筋を浮かべて、面白くなさそうな顔をしていた。
「随分とアステルに好かれているみたいじゃないか……良き友になってくれとは言ったがそういった仲になれと言った覚えはないぞ……。」
「そんな仲になった覚えはないですよ……。」
僕が誤解を解こうと発言すると、伯爵は気に入らなかったのかひどく語気が強くなる。
「娘に魅力がないというのか?」
面倒臭いなこの人。そんなこと一言も言ってないだろう。
「まぁいい、そろそろ始めようか。ルールは単純、10分間で私の攻撃を躱して五体満足で立っていられたら認めてやろう。」
「僕が反撃をしたら?」
少し挑発をするように伯爵に尋ねる。すると伯爵は不敵に笑い返す。
「その時は君の勝ちでいいだろう。できるものならな。」
審判を務めてくれるのはアステルを救出した際に僕を助けてくれたギルバートさんのようで、僕と伯爵の間に立ち、試合開始の合図を送る。
「それでは始め!!」
ギルバートさんの掛け声と同時に伯爵は容赦のない魔法を放って来る。
「激流の書・第二章・『水流の重槍』!!」
伯爵が杖をかざすと何処からか本が現れ、ページが勝手にめくれ、そこから魔力が放出される。
放出された魔力は槍の形を成し、勢いよくこちらに向かってくる。
「うおおぉ!」
フレイの魔力が使えない僕は、魔力がそこそこの一般人と変わらないので、伯爵の魔法を迎撃する手段がなく、全力で逃げていた。
一応防御魔法の様に魔力を薄く延ばしてバリアの様にできなくはないが、僕の魔力量では強度はたかが知れている。
「逃げているだけではどうにもならないぞ!」
伯爵は愉快に笑いながらこちらに声をかける一方、魔法の攻撃は止まる様子がなく、一切の手加減が感じられなかった。
試合のはずなのに威力がおかしい気がするんだが……。
「このままじゃジリ貧だな……。」
僕がこれからどうしようかと逃げながら考えていると、フレイが僕の思考に割って入る。
「このまま逃げてたらその内バテち舞うぞ、勝ち筋があるとしたらアイツに一撃入れるしかねぇな。」
「そんなこと分かってる、だけどこの攻撃の中どうやって接近するんだよ!」
フレイなら何かいい案があるのかもしれないと期待も込めて聞いてみたが、返ってきた返事はそっけないものだった。
「こんな状況をどうにかできないようじゃオレの契約者として失格だな。今回はオレの力や知識一切無しで切り抜けて見せろ。」
そう言い残すと、フレイはフワフワと漂いながらアステルたちの元へ向かい、そこから僕を静観する。
肝心な時に居なくなるなんて、悪魔見たいな奴だ……いや悪魔だったか。
そんな事は置いておいて一刻も早くこの状況を何とかしないと……。
「つまらんな……更に威力を上げよう。業火の書・第一章・『火炎の壁』」
伯爵の側から更にもう一冊の本が現れ、別属性の魔法が放たれる。
普通の人は1つの属性しか持つことが出来ないが、極稀に複数の属性を持つものがいると言う。
アステルも聖属性と水属性の二つを持っているが、複数の属性を完璧に使いこなすことは至難の業だという。
その点で言えば、伯爵の魔法は二つの属性が完全に制御されており、完璧に使いこなせていた。
「まさか複数属性使い……!?」
僕がその事実に驚いていると、間髪入れずに更なる魔法が放たれる。
「激流の書・第一章・『大洪水』!!」
辺り一面が炎の壁に包まれている中、大量の水が流れ込んでくる。これがただの水であれば大した問題ではないが、この状況はマズイ!
大量の水が炎の壁にぶつかり、大きな爆発が引き起こされる。
「水蒸気爆発!?」
高温の物質と水が接触することにより引き起こされる爆発。
恐らく伯爵はこの現象を狙ったのだろう。
模擬戦のはずなのに、この威力は下手したら死ぬぞ……。
遠くから見える伯爵はとても楽しそうな表情をしていた。
「ぐおおおぉぉ……!!」
黒剣を広く延ばし、盾のような形状に変化させて、何とか直撃を避けるようにする。
しかし、爆発の衝撃を完全に逃すことが出来ず、壁へと吹き飛ばされてしまう。
「グッ……どうすれば伯爵に近づけるんだ?」
このままではフレイの言う通り、いずれ魔法が直撃してしまう……。
どうにかして伯爵に一撃を入れなければ……。
必死に脳をフル回転させていると、ふとある事に気が付いた。
「これならもしかしたらいけるかもしれない……。」
僕はある作戦を立てた。しかし通用するのはたった一度の博打に近い作戦だった。
僕は唯一の勝ち筋を手繰り寄せるように伯爵の元へと駆け出した。
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私のやる気が猛烈に上がります。
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次回でまたお会いしましょう!!