第36話
皆さん夏休みはどう過ごされましたか?私は旅行とバイトに精を出していて中々執筆が出来ませんでした。大学が始まり、少しづつ執筆スピードを元に戻せるようにしたいですね。
今回は結構強引に話を入れました、アレクはやることが山積みですね、まるで今の私みたいです。
エタらないように執筆は続けていきますのでこれからもご愛読してくださると嬉しいです。
今回は小ネタは無しでお願いします。
伯爵の説得へ向かった僕たちは今、伯爵の書斎で正座をさせられていた。
目の前には物凄い形相をした伯爵が椅子の上から僕たちを見下ろしている。
彼がかけている眼鏡が光の反射で白く輝き、彼の表情を窺うことは出来ない。
まぁこんな姿勢になっている時点で窺うもクソも無いと思うが……。
僕たちはかれこれ30分程正座をしている状態でもう足が痺れてきた。
一体どうしてこうなったんだ……。
僕はどうしてこんな状況になってしまったのかを思い出す。
時は少し遡る。
アルヴィリス家の別荘に着いた僕たちは執事さんに事情を話し、伯爵を説得する為に書斎へとむかった。
廊下には僕たち以外誰もおらず、僕、アステル、執事さん3人の足音だけが響き渡る。
他の人はそれぞれ仕事をしているだけなのだろうが、誰もいないとこの広い屋敷はとても静かで、どうしてか落ち着かない。
「私少し緊張してきたわ。お父様にこんなお願いするの初めてだから……。」
ふとアステルが声を漏らす。彼女の表情は固く、とても緊張している様だ。
確かに伯爵は重度の親バカだが、それでも立派な領主であり、それは娘であっても変わらない。そんな相手に冒険になりたい!と頼みに行くのは緊張して当たり前だろう。
「そんなに緊張する必要は無いよ。アステルはただ素直に自分の気持ちをぶつけるだけでいいんだ。後は僕がどうにかするから。」
僕の言葉にアステルは未だ不安な様子だった。
「アレクが言う考えって本当に大丈夫なの?私心配だわ。」
幾ら彼女でも立場上では伯爵という領主である以上、今回の様な無理を言いに行くのは憚られるみたいだ。
しかし僕はそんなにも信用がないのだろうか、アステルの表情が「こいつまた何かやらかすんじゃ…。」と言っている様に見える。
そしてアステルの不安にフレイも同意していた。
「お前の事だ、どうせ碌な事じゃないだろ。あんだけボロボロになってもまだ懲りないか……。」
二人して僕の事をボロクソに言いやがって……。
あの親バカ相手にまともな説得なんて出来るわけないだろ。多少は強引で危ない橋を渡らないとまともな話にすら持っていけないという確信がある。
それにアステルがあれだけの思いをぶつけてくれたんだ、それに応えたいと思うのは当たり前だろう。
そうこうしているうちに伯爵の書斎の前にたどり着いた。
まだ何も話していないし向こうにも何も伝わっていない筈なのに、扉の向こうから異様なプレッシャーが発せられているのを感じる。
僕は唾を飲み込み、意を決して扉を開けて中へと入る。ただの木材で出来た扉のはずだが、鋼鉄で出来ている様な重さを感じた。
「私に話があるとの事だが……いったいどうしたんだい?」
扉の先で待っていたのは書斎の机に肘を置き、両腕を顔の前で組んでいるアルヴィリス伯爵だった。
口調は穏やかであったが、表情や纏っているオーラが依然話した時とは全く違っていた。
恐らく今の状態が、領主としてのアルヴィリス伯爵の姿なのだろう。
「お父様、とても大切な話があるの……今お時間よろしいでしょうか……。」
緊張してか或いは普段とは雰囲気の違う伯爵に気圧されてか、言葉に詰まりながらも話す。
「もちろんだとも、アレク君も一緒と言うことは彼にも関係していることなのかな?」
まだ何も言っていないはずなのに、僕たちの考えが見透かされているような気がして心臓がドキッと跳ねるような感覚に陥る。
「まぁ二人とも、一先ずソファーにかけなさい。」
伯爵に促されて僕たちはソファーに座りテーブルを隔てた対面に伯爵がゆっくりと腰を下ろした。
「実はね……私、アレクと一緒に冒険者になりたいの!!」
早速アステルが本題に切り出した。アステルの言葉を聞いた伯爵は最初は呆気に取られているような表情をしていたが、すぐさま真剣な表情へと変わった。
しばらくの間、伯爵は何も話さず、考え事をしている様だった。
書斎は静まり、室内には時計の秒針が進む音しか鳴らず、僕たちは伯爵が言葉を発するのを待っていた。その時間は1分もしない短い時間であったはずなのに、1時間も待っているような気がした。
そんな中、伯爵が僕とアステルを見据えてゆっくり
と話し始める。
「もしかしたらと予感はあったんだ。アステルがアレク君と出会い、私たちの関係は良好なものになっていき、家族中も良好になった。しかしアステルの表情はどこか不満げだった。当時の私はどうしてそんな表情をするのか分からなかったが今ならわかる気がする。アレク君と再会し、共に依頼から帰って来た際のアステルの顔を見れば一目瞭然だった。娘の居るべき場所は堅苦しい貴族社会ではなく、自由に世界をめぐる風のような冒険者なのだとな。」
伯爵はフッと小さく笑いアステルの方を向く。
「お父様……それじゃあ――」
しかし表情は一変し、険しい表情でアステルを見つめる。
「だが貴族である以上、そう簡単に自由になることはできない、貴族としての責任がある以上市井の人と同じように過ごすことは難しい、それはわかっているね。」
「分かっているつもりよ、でも家にはお兄ちゃんがいるでしょ、私が家督を継ぐことも無いし誰にも迷惑はかけないわ!」
アステルの口から、彼女に兄が存在するということを初めて知った。後に聞いたことだが彼女の兄は領地で領主代行として伯爵がいない間、アルヴィリス伯爵領の運営をしているらしい。
「家督や身分の問題だけではない、私も父親である以上、娘が冒険者と言う命を落とす危険が伴う職業になろうとしているのを手放しに応援はできないな。」
変わらず険しい表情を崩さない伯爵にアステルは言葉に詰まっているようだ。そろそろ僕も出しゃばろうと思った時、以外な助っ人が入り口から現れた。
「私はアステルの気持ちを優先したいわね。」
声がする方を見てみるとそこにはアステルの母親であるカエラさんが立っていた。
伯爵はカエラさんの言葉に戸惑い、おろおろしながら言葉を返す。
「しかしだな、もしアステルに何かあったらどうするんだ。」
僕たちと話していた時とは打って変わって、伯爵の態度が弱腰だった。どうやら伯爵はカエラさんには敵わないらしい。
「そこは彼がいるから大丈夫だと思うわよ。きっとアステルを守ってくれるわ、ねっアレク君。」
急に僕の方へ話題が向き、少しオドオドとした態度になりながらもハッキリと返す。
「もっ…勿論です!!」
僕の返事を聞いた伯爵はキリッとした表情に戻り、少し怒りを含んだ口調で疑いの言葉を放つ。
「フンッ!口だけなら何とでも言えるだろう。君がアステルを救ってくれたことには感謝しているが、冒険者として活動していくのならば更なる危険が訪れるのは必然だ。君はその危険からもアステルを守れるというのかね?」
伯爵もただ何の理由もなしにこのような態度を取っているわけではないだろう。きっと心からアステルを心配しているからこそ厳しい態度、言葉で話しているのだ。
しかし、アステルの気持ちも嘘偽りない本心であるのも確かだ。僕はそんなアステルの本心を尊重してあげたいと思った。
もし伯爵を納得させる方法があるのならきっとこの方法しか無いだろう。
「なら僕をテストしてください!アステルを任せるに値するかを伯爵がその目で判断してください。」
伯爵は僕の言葉を聞き、少し考えた後に言葉を返す。
「ふむ……いいだろう、では明日の正午に模擬戦をして私の魔法に耐えきることが出来ればアステルが
冒険者になることを認めてやろう。今日はもう遅いから帰りなさい。」
「分かりました、では明日の正午に。」
こうしてアステルと冒険するために僕は伯爵との模擬戦を取り付け、アステルと別れの挨拶を交わして屋敷を後にした。
屋敷から出て、アステルたちの姿が見えなくなった所で僕は一息つくことにした。
想像していたよりも緊張していたらしく、今になってどっと疲れが押し寄せてきた。冒険者ランクの昇級試験もあったので、僕の疲労は大分溜まっていた。
「これが小僧の狙いだったのか?」
そんな疲れている僕に向かって、フレイが今回の結果に対しての疑問を投げかける。
「まぁね、カエラさんまで来るとは思ってなかったけど最終的には実力で認めさせるっていう大元の目的は達成できたかな。」
僕は最初から対話による説得ではなく、実力によってアステルを預けるに値すると認めてもらうことを本命に考えていた。
アステルの事を心から大切に思っている伯爵は言葉だけでは動かない、確固たる結果をもってしないと納得しないと思ったのだ。
伯爵は貴族として膨大な魔力と高等な魔法を使いこなすと伯爵の屋敷で過ごしていた時に聞いたので、きっと模擬戦は厳しいものになるだろう。しかし、アステルの為に僕も負けるわけにはいかない。
僕は、どのような結果になろうとも全力で伯爵に挑むことを改めて心に決めた。
それから宿泊している宿へ向かおうとしている途中、日も沈み辺りが暗くなり人通りも少なくなっている街道を歩いているとふと小さな声がした。
「なぁ、今何か声が聞こえなかったか?」
僕は隣で浮いているフレイに問いかける。フレイも声が聞こえたのか、少し神妙な雰囲気になる。
「多分だがあそこの路地裏からしたな、碌なことじゃないと思うぞ。」
「とりあえず声がする方へ向かおう。」
僕たちは少し警戒しながら路地裏へと向かう。路地裏は街道よりも光が通ってなく、よく目を凝らさないと奥まで見通すことが厳しそうった。
音を立てずに声の方へと向かうとそこには顔を隠した男と、男を振り払おうとしている女の子がいた。
女の子は10才前後で服装的に町の住人だろうか、泣きながら男から離れようとしている。
「おい!その子から離れろっ!!」
僕が大きな声を上げると、男は予想外だったのか驚き、少女を置いて一目散に逃げていった。
男が逃げていく際に背中に蛇のマークが見えたのが印象的だった。
男が姿を消したのを確認して、僕は少女へと向き直る。
「大丈夫かい?ケガはない?」
まだ恐怖心を引きずっているのか、上手く言葉が出せないようで、ゆっくりと首を横に振ってコンタクトを取ってくれた。
「よかった……また危ない目に合ったら大変だから家まで送るよ。」
少女は小さく頷き僕と一緒に帰路に着く。道中でようやく喋れるようになったのか、少女は自己紹介をしてくれた。
「わたしネル、助けてくれてありがとうお兄さん!」
彼女は笑いかけてお礼を述べる。その表情がどこか小さい頃のアリエに似ていてどこか懐かしい気持ちになった。小さい子の笑顔は元気が出るし、守ってあげたいと思うものだろう。決してロリコンではない。
ネルの家にたどり着き、彼女の両親に事情を説明する。両親は感謝の礼としてお金を払おうとしていたが、もちろん断った。
ネルは遅くまで遊んでいた為家に帰るのが遅れ、今回のような人攫いにあったようだ。
「これからは早く家に帰るんだよ。」
最後にネルに注意をして彼女たちの家を後にした。
そしてようやく宿にたどり着き、体を拭いて着替える。一息ついて僕はフレイにある質問をした。
「さっきの人攫いだけどさ、この国って人身売買とか禁止されていなかったか?」
僕の質問にフレイは答える。
「別にそう珍しいもんじゃねぇよ、いわゆる社会の闇ってやつだ。外国に高く売るのさ。」
「でもそれならわざわざ普通の人達じゃなくて、足の着かない貧民街の人たちが標的になりそうだけど。」
「確かにそういう場合が多いいが、貧民街にいる連中は体が弱いからな、きっと高く売れないんだろう。貧民街の住人比べれば王都の連中は健康だからな、金に目がくらんだ奴らが攫おうとしたんだろう。」
なんだか胸糞悪い話だ。人間を商品にするだなんて同じ人間のやることではない。
今回は大したことなく済んだが、場合によっては命の危険もあるだろう。
奴隷や人身売買について師匠から聞いた話だと敗戦国の人間や貧民は各国に格安で買いたたかれているという。
フレイが言っていた闇と言うのはこういうことなのだろう。これだけ繁栄した王都であっても暗い部分はあるのだ。
きっとアステルたちのような良識のある貴族だけでなく、非道な事を平気でやってのける貴族も沢山いるのだろう。むしろアルヴィリス家のような貴族の方が小数だろう。
「何とかならないのか?」
僕の質問にフレイはため息交じりで返す。
「人身売買とかをやってる組織のバックには貴族がついている可能性が高いからな、今の小僧じゃ1人2人を解放してやるのが関の山だ。それより今は明日に向けて早く寝ろ。あの伯爵と戦うんだろ。」
確かにフレイの言う通りだ。人身売買のような大規模で行われている犯罪行為を今の僕がどうにかできるわけではない。今は自分にできることを一生懸命にやるべきだ。
僕は明日の伯爵との模擬戦を思いながら眠りへとついた。
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私のやる気が猛烈に上がります。
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アドバイスや誤字は優しく教えてください。
次回でまたお会いしましょう!!