第32話
遅くなってしまい大変申し訳ありません。
大学の最終課題に追われている為、今月中の更新はこれで最後になると思います。
更新していないのにも関わらず、沢山の人が閲覧していることに驚きと感謝でいっぱいです!
これからもよろしくお願いします!!
「うっ…………ううぅ……。」
昇級試験でフェンネルさんと戦いを終えて、僕は敗れて気を失っていたようだ。膨大な魔力を用いた身体強化を長時間行った影響で体中に激痛が走り、まともに動けなかった。重い瞼を開き空を見上げると、そこには僕の顔を覗き込む黎明の扉の皆がいた。
「大丈夫か、アレク君。」
ブレットさんが僕の体を起こして、心配そうに見つめていた。
体があまり言うことを聞かないので、首を少し動かすことしかできなかったが、何とかブレットさんに顔を合わせてお礼を言う。
「ありがとう……ございます……っ!」
軽く言葉を発しただけでも体に針が刺さるような痛みが全身に駆け巡る。
「今回復魔法をかけますね。『治癒』」
エリナさんが僕に向かって両手をかざして回復魔法を使う。手の平から温かな光が生じて僕の体全体を包んでいく。体がポカポカして少しずつ体の痛みが引いていくのを感じる。
「エリナさんもありがとうございます。」
「いえいえ、気にしないで下さい。アレクさんの魔力消費が激しかったので余り負担を賭けれなかったので完治まではいきませんでしたが、ひどい骨折は治したので暫くは無理をしないようにして下さいね。」
僕の言葉に笑顔で返す姿はまさに聖職者にふさわしいものだった。金髪の背中までウェーブのかかった髪がフワッと揺れ、聖職者の正装に錫杖を持っている姿はとても絵になるなと感じた。
エリナさんの回復魔法のおかげでかなり体の痛みが引いた僕は現在どういった状況なのかをケイシーさんに聞くことにした。ケイシーさんは少し離れたところでフェンネルさんと会話していたが僕が目覚めたことに気づくと急いでこちらに駆け寄ってきた。
「よかった~!目が覚めたんですね!!」
「おかげさまで何とか……。」
僕の容態が思っていたよりも良かったことにケイシーさんは肩を撫でおろして安心していた。確かにあの衝撃を間近で見ていたのなら心配するのも納得だろう。一応できる限りの受け身を取っていたが、大して効果は無かったようだ。
先ほどの会話の内容が気になったので、ケイシーさんに質問をしてみる。もしかしたら試験結果について話していたのかもしれないと考えたのだ。
「それで……試験の結果は?」
僕の質問にケイシーさんは満面の笑みで答えた。
「文句なしの合格です!!むしろ十分過ぎるほどですよ!!」
その言葉を聞いて、僕は心の底から湧き上がる気持ちを抑えきれずに叫ぼおとしたが、全身がボロボロだったので喉から声を出すことが出来なかった。
興奮気味に答えるケイシーさんの後ろからフェンネルさんがこちらへ歩きながら同意する。
「ケイシーさんの言う通りだ、ここまで腕が立つとは思ってもみなかったよ。」
フェンネルさんが手放しに褒めてくれて、とても嬉しかった。冒険者として上位に位置する人に認められるというのはこれまでの努力が報われたような気がした。僕はこそばゆい気持ちになり頬を掻きながら感謝を述べる。
「そう言われるとなんか照れるな……。」
そして感謝を述べると同時に一つ疑問に残ることがあった。
「そういえばフェンネルさんが最後に放った技は一体何なんだ?」
僕はスキルと全力の身体強化を使った一撃を最後に放ったのに対して、フェンネルさんの一撃はスキルとは全く違うような気がしたのだ。
「あぁ『武技超越』の事かい?」
「その『武技超越』ってのはスキルとは違うのか?」
僕の質問にフェンネルさんが答えてくれる。
「ん~半分正解だな!『武技超越』は厳密にはスキルじゃないんだ。僕たちのような下級職だと習得できるスキルには限界があるからどれだけ頑張っても上級職のスキルは習得できないだろ?。そこで僕たちは独自のスキルを開発することにしたんだ。そしてその結果編み出したのが『武技超越』ってわけさ。」
フェンネルさんの話に、僕は一握りの希望を見出した。
「僕でも身に着けられるのか?」
僕の質問にフェンネルさんに代わりブレットさんが肯定する。
「この調子で鍛錬していけばきっと身に着くさ、焦らずに日々鍛錬あるのみだな。」
そして、ブレットさんの横からネリッサさんが呆れた様子で僕に注意を促す。
「まずは体を治すところからよ、外傷は無くなっているけどあんたの魔力回路はボロボロなんだから。暫くはあんな無茶したら駄目よ。」
そういわれると、フレイが同意した様子で話してくる。
「その通りだ。無理したせいで小僧の魔力器官や回路はボロボロになっている。暫くはオレの力を借りることはできないな。」
無理をして体を酷使した僕に、フレイが力を貸すことをしばらくはやめた方がいいと注意を促した。
そこでふと僕にフレイが話しかけているところをフェンネルが見つめていることに気づいた。フレイは姿を見せる相手は選んでいると言っていたので見えてはいないはずだ。僕が少し訝しげにフェンネルさんを見ていると小さな声で何かを発していた。
「アレク君のことよろしく頼むよ。」
「…………!!」
フレイが少し驚いたような声を出した。やっぱりフェンネルさんにはフレイが見えているのかもしれない。
「アレクさん、もしよかったらギルド職員の休憩室で少し休んでいきますか?」
僕が考え事をしていると、ケイシーさんが休憩していかないかと提案してくれた。
「ありがたいけど迷惑じゃないか?」
僕の質問にケイシーさんは優しく答えてくれる。
「ギルド長にも事前に何かあったら使ってもいいと言われているので遠慮はしなくて大丈夫ですよ。」
ギルド長はこうなることを予想していたのだろうか、彼は元冒険者と聞いているので冒険者譲りの勘ってやつなのかもしれない。
「ありがとう……体が動くようになるまで少し休ませてもらうよ。」
確かにこんな体だと宿まで帰るのも1人じゃままならないだろう。僕はケイシーさんの気遣いに感謝して、提案を受け入れることにした。ブレットさんに肩を貸してもらいながら、ケイシーさんの案内で休憩室まで向かう。ただ歩いているだけのはずなのに、一歩一歩が鉛のように重い。
「もう少し俺に体を預けていいんだぞ?」
僕が歩くことに難儀しているのを感じたのか、ブレットさんがもっと体重をかけていいと言ってくれた。
「そうするよ……ありがとう。」
「ははは、気にするな!むしろ面白いものを見せてもらったからな!これくらいはさせてくれ。」
ブレットさんは僕とフェンネルさんの模擬戦がかなり気に入ったようだ。後ろからついてくるネリッサさんとエリナさんも僕の戦いぶりに関心を示していた。
「私も驚いたよ!まさかフェンネルにあそこまで食い下がるなんて。」
「様々な武器を使いこなす姿に大変感服しました。」
二人からも褒められて頬が赤くなる。クールで美人なネリッサさんと美しい彫刻のようなエリナさんに褒められて嬉しくないはずがない、僕も男の子なのだ。
「そういえば1つ聞きたかったんだが、いいか?」
僕が美人の二人から褒められて顔が赤くなっているところにブレットさんが質問を投げかけてきた。
「今回の模擬戦は実力を示せばいいものだ。勝敗は特段関係は無い。もちろん勝つつもりで挑むのは間違ったことじゃないが君は本気で勝ちに行っているように見えた。何か理由はあるのか?」
ブレットさんは僕が全力で勝ちに行っていたことに対して疑問を持ったようだった。
「そうだな……1つは現時点でフェンネルさんと僕にどれだけの差があるのか確かめたかったから、もう1つはただ単純に自分よりも格上の相手に勝ちたかったんだ。」
僕の答えにブレットさんは愉快そうに笑う。
「そうかそうか、君も男だな!」
そして僕はギルドの休憩室に案内されて、打撲や切り傷の手当をエリナさんとケイシーさんに施してもらった。そして、ケイシーさんにカードを預けてランクの更新処理をしてもらうことになった。
「それじゃあ更新しておきますね!体が動くようになったら取りに来てください!」
付き添いで来てくれた黎明の扉の皆とケイシーさんにお礼を言い、皆が退出した後、僕は用意されたベットに横たわり深く息をついた。
ここまで体を酷使したのは師匠の元で修業していた時に走り回って逃げていた時以来かもしれない。模擬戦が終わり、緊張の糸が切れたのか、どっと疲れが押し寄せてきて瞼が重くなる。
「誰か来たら起こしてやるから今は少し寝とけ」
もう体力はこれっぽっちも残っていなかったので、フレイの気遣いに甘えることにした。
「そうするよ……お休み…。」
重い瞼を閉じて視界が真っ暗になり、意識が微睡の中に溶けていく。僕は昇級した達成感を抱きながら眠りについた。
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