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名も無き英雄の冒険譚  作者: オレオル
クエスト開始
33/41

第30話

大学が忙しくて更新が遅れてしまいました、申し訳ないです……。

次回はバトル描写に力を入れていきますので楽しみにしていてください!

 朝日が窓から差し込み、光を感じた僕はゆっくりと目を開けてベットから起き上がる。上下の服を着替えて靴を履き、黒剣を携え、親父から貰った短剣も丁寧に手入れをして小さな鞘に納めてリュックにしまい身支度を整える。

 部屋から出て一階に降りると宿の女将さんが僕に気づいて元気に挨拶をする。


 「おぉアレクか、昨日は眠れたかい。」


 そういいながら朝食を僕が座るテーブルに運んできてくれる。黒パンと野菜に肉が入ったシチューだ。平民の朝食にしては些か豪華な気がする。


 「いただきます!」

 

 黒パンをスープに付けて柔らかくして口に運ぶ。少しパサついているがおいしく食べられる。野菜にはソースがかかっており、酸味が絶妙でパクパクと食べる。野菜は噛むたびにシャキシャキと音が鳴り、新鮮であることがすぐにわかる。僕以外の宿泊客も女将さんの料理をおいしそうに食べている。フェンネルさんにオススメの宿を聞いてよかった。

 それから朝食を腹に入れて、コップにある水を一気に飲み干し食器を下げて、女将さんに挨拶をする。


 「ご馳走様でした。」


 「行ってらっしゃい!!」


 女将さんは僕にニコッと笑い見送ってくれる。宿の扉を開けとは快晴で太陽がこれでもかと言うほど僕たちを照り付ける。王都の町並みを歩いてると市場の店が開店準備を着々と進めており、数時間後にはたくさんの人が行き交うだろうと予感させてくれる。

 僕はギルドに行く前にポーションを売っているお店に行くことにした。ゴブリンの一件を得て、準備をもっと徹底しておくべきだと思ったのだ。市場からすこし離れたところにひっそりと薬屋の看板が立っていることに気づき店の中に入ってみることにした。

 店の扉を開けると、薬草特有の匂いが部屋に充満しており、独特の雰囲気を演出している。営業中の看板は外にかかっていたが、まだ朝が早いからか部屋は少し薄暗く、魔石を使ったランプがカウンターにあり一層物々しい雰囲気が出ている。


 「誰かいるか~?」


 僕がカウンターの奥へ向かって声をかけると歳を感じさせる女の声が返ってくる。


 「ちょいと待ちな。」


 そういって店の奥から出てきたのは黒色のローブを身に纏い、灰色の髪を後ろでまとめた老婆だった。彼女は僕を見て物珍しそうな顔をしていた。それから部屋の明かりをつけてカウンターに座り、値踏みするかの如く目を細めて見つめてきた。


 「あんた新人だろ、何が欲しいんだい?」


 「回復ポーションを二つと痛み止めを三つ、あと解毒剤があれば一つくれ。」


 「新人にしてはいい品選びだね…だが私の薬は少し値が張るよ。」


 そういって老婆が店の棚にあるポーションと薬剤を慣れた手つきで手に取り、僕の注文通りの品が並べられた。


 「全部で銀貨30枚ってところかね。」


 提示された金額が思ったより高く少し驚くがそれよりも気になったのは商品だった。カウンターに置かれたポーションをよく見ると緑色になっていることに気づく。ポーションは緑から青色であることが多く濃い緑色から濃い青色になればなるほど効果が高くなっている。中には赤色のポーションもあり、効果は絶大らしいがダンジョンの宝などでしか入手できないと言われている。

 目の前に置かれているポーションは濃い緑であり、師匠に作り方を教わった僕でも簡単に作れるほどの粗悪品だった。これなら自分で作った方が幾分かマシだろう。


 「このポーション、粗悪品だろ。せめて値段相応の品をくれ。」


 僕がポーションが粗悪品であると老婆に主張すると、老婆はケラケラと掠れた笑い声を漏らす。


 「よくそのポーションが粗悪品だと見抜いたねぇ、普段なら馬鹿正直に買うか値段にビビって買わないかのどっちかなんだが……。」


 確かにポーションの質について普通の人間が知ることはほとんどないだろう。だが僕は師匠から様々な知識を教えてもらった。最初はどす黒いダークマターを大量に作っていたが、一般的な物であれば材料と環境が整っていれば作れる。


 「師匠から教わった事があるからな、これくらいのポーションなら自作した方がマシだ。」


 「いいだろう、ちょいと待ってな。」


 そう言って老婆はカウンターの奥に行き、別のポーションを手に取り戻ってきた。そのポーションは僕に買わせようとした物とは違い、薄い水色のポーションだった。

「このポーションなら満足かい?」


 老婆が見せてきたポーションは中位のポーションだった。下位のポーションと違い、ある程度の出血ならしっかりと直してくれる代物だ。これならむしろ値段以上かもしれない。


 「ちょいと試したお詫びにあんたが頼んだ品に追加で栄養剤を付けよう、値段は銀貨30枚で構わないかい?」


 「あぁ、むしろ値段以上だ、ありがとう。」


 銀貨30枚はかなりの出費だがこれだけの薬品が買えるなら安い物だろう。クエスト報酬の銀貨と師匠からの餞別で貰った金貨があるから問題はないが、それでもやはり痛い出費だ。僕はギルドカードを取り出して魔水晶にかざし支払いを済ませる。


 「また来るからその時は変な物を掴ますのはやめてくれよ。」


 「御贔屓にね、またの来店お待ちしてるよ。」


 老婆は楽しそうに笑いながら僕に商品が入った袋を渡す。袋を受け取り、僕は薬屋を後にした。冒険の為の準備が整ったのでその足で冒険者ギルドへと向かう。

 今日は空に少し雲がかかっており、風が少し湿り気を帯びていた。大雨にはならないと思うが冒険者にとって雨は良いものではない。依頼が遠出の場合は普段よりも時間がかかってしまうし、雨の中での戦闘は危険度がグッと上がるのだ。

 

 「今日は魔物の討伐系の依頼はやめた方がいいな。」


 フレイが横からフワフワと漂っている。

 

 「確かに雨の中の戦闘は不確定要素が大きからな、小僧の意見に賛成だぜ。」


 二人で今日は何の依頼を受けようか話し合いながらギルドへ歩みを進める。今日も相変わらず市場には人が沢山いて、屋台から香ばしい匂いが漂ってくる。口の中から涎が出てくるが、まだ昼には早い時間なので我慢をする。

 ギルドに到着して扉を開けて、ケイシーさんの元へ向かう。書類の処理をしていたのか、ケイシーさんは僕の存在に気づいていないようだ。集中していているようで、しっぽが左右に等間隔のリズムで揺れている。このままずっと見ていたい好奇心が出てくるが、僕は咳ばらいをしてケイシーさんに声をかける。


 「んんっ!ケイシーさん、依頼を受けに来たんだけど……。」


 すると彼女の体がビクッと一瞬硬直して、尻尾がピンと立ち驚いた様子で僕を見る。


 「ア…アレクさん、ビックリさせないでください!」


 顔が赤面している彼女が僕に訴える。尻尾がぶんぶんと揺れていて、かなり動揺しているのが分かる。


 「そ……そんなつもりは無かったんだ……驚かせてごめん。」


 僕が頭を下げると、ケイシーさんは焦りながら首を振る。


 「いえいえ、こちらこそ書類に夢中になり過ぎていたので……。」


 「今日も何かいい依頼は無いか?天気が悪そうだから討伐系じゃないやつが良いんだけど…。」


 今日もケイシーさんに依頼を見繕ってもらおうと頼む。するとケイシーさんからある提案をされる。


 「それなら丁度良かった!アレクさん、昇級試験を受けてみませんか?」


 「昇級試験?」


 僕が聞き返すと、ケイシーさんは丁寧に教えてくれた。


 「はい!冒険者は一定の数の依頼をこなすとギルドから次のランクへの昇級をかけた試験を受けることが出来るんです。試験内容は各ランク毎に変わるんですが、FランクからEランクへの昇級試験は決まって冒険者と模擬戦をしてもらうことになっているんです。」


 「なるほど……その模擬戦って言うのは具体的に何をすればいいんだ?」


 僕の質問を予め知っているかのようにケイシーさんはスラスラと答えてくれる。


 「ギルドから推薦されたCランクあるいはBランクの冒険者の方と戦ってもらい、勝敗は関係なく戦いの内容を鑑みて、試験官である冒険者と立会人のギルド職員による話し合いを経て合否を決めるんです。」


 「なるほど……でも僕は冒険者として活動を始めたばかりだぞ、そんなに早く受けられるものなのか?」


 僕はまだ冒険者としての依頼は薬草採取と孤児院の手伝いの二つしかこなしていない。いくらゴブリンの件を報告したからと言ってそんなに評価されるとは思えないが……。


 「それはですね、アルヴィリス伯爵令嬢の救出に大きな貢献をしたこととゴブリンの群れに関する報告を迅速に行ってくれたからですね。ギルドはあなたの行動を高く評価しているんですよ?」


 ニコッと笑いながらケイシーさんは話してくれる。村では無職と蔑まれてきた僕が誰かから評価される日が来るなんて思ってもみなかった。ケイシーさんの言葉に心からグッと熱い感情が溢れてくる。


 「僕はただ目の前の事に全力で取り組んだだけだよ。」

 

 照れ隠しの僕の言葉にケイシーさんは微笑みながら更に言葉を続ける。


 「冒険者は出自が不明でもなれる関係上、あなたのように配慮をもって依頼に取り組んでくれる人は案外少ないんです。どうかこれからもその姿勢を忘れないでください!」


 ケイシーさんの言葉は心からの本心を言っているようだった。確かに冒険者の中には荒くれ者が多い、Aランクともなれば良い家系の出身だったりするのでその限りではないのだろうが大半は力を持て余した平民だ。トラブルも尽きないのかもしれない。


 「そこまで言われたら益々頑張らないといけないな!昇級試験、受けさせてもらう。」


 「かしこまりました!それでは今回の試験官を務めてくださる冒険者が決まり次第、報告を……」


 ケイシーさんが僕に改めて日程を決めて行う旨を話そうとした時、後ろから待ったをかける声が聞こえた。


 「その試験官、俺がしても構わないかな?」


 振り返ってみると、そこには特Bランク冒険者であるフェンネルさんが手を振りながらこちらに歩いてきていた。彼は陽気な声でケイシーさんに話しかける。


 「試験官をしてくれる冒険者を決めるのは結構な時間がかかるからな。アレク君も今日試験をした方が面倒臭くないだろ?」


 フェンネルさんの話を聞いてケイシーさんは少し考え込む。


 「なるほど……確かにあなたであれば信用も実力も申し分ないですね!アレクさんはそれで大丈夫ですか?」


 急な展開に少しボーっとしてしまったが、まさかこんなに早くフェンネルさんと戦える日が来るなんて思ってもみなかった。フェンネルさんがどれほどの強さなのか興味を持っていた僕はぜひにと快諾する。


 「問題ない、むしろフェンネルさんと戦えるなんてこっちが感謝しないとな。」


 「それでは一時間後にギルドにある訓練場に集合してください。」

 

 僕は一足先に訓練場へ向かい、装備や黒剣の手入れをしていた。すると後ろからフェンネルさんとパーティーを組んでいる人たちがやって来た。


 「君がアレク君か、フェンネルから話は聞いているよ、面白い新人がいたってね。」


 格闘家の服装をした薄緑をした短髪の男性が話しかけてくる。全身が鍛え抜かれていて、その姿は鋼を纏っているのではと思わされるほどの鍛え具合だった。一目見ただけで実力者であることがわかる、恐らくフェンネルさんと同等の実力があるだろう。


 「俺は『格闘家』のブレットというものだ、よろしく。」


 ブレットさんの挨拶の後、後ろにいる他の二人も挨拶をしてくれた。


 「私は魔法使いのネリッサよ、よろしくね!」


 「私は神官のエリナです、よろしくお願いします。」


 他のメンバーが自己紹介をしてくれる。彼女たちもきっと只者ではないのだろう。膨大な魔力を肌で感じる。


 「フェンネルは強いわよ~頑張んなさい!」


 ネリッサさんが話しかける。彼女は魔法使いのローブを身に纏い、赤茶色の長い髪をなびかせており、その姿はミステリアスな雰囲気を醸し出す。ヒスイ色の瞳は見つめたものを見通しているような不思議な感じがする。


 「なんてったってあいつはBランクで唯一の()()()持ちだからね。」


 「二つ名?」


 聞いたことがない単語に僕は首をかしげる。


 「まぁ新人だったら知らないのも無理ないわね、それじゃあお姉さんが教えてあげるわ。冒険者はAランク以上になるとギルドから二つ名って呼ばれるものが与えられるの。これは周囲から呼ばれて定着したものやその人の戦い方を象徴するものなの。フェンネルはBランクだけどその強さから二つ名があるのよ。『最高の剣士』と周囲の人間は呼ぶわ。」


 「最高の剣士……。」


 その言葉を聞いた時、フレイがネリッサさんに同意する。


 「確かにあの実力ならそう呼ばれても納得だな。」


 フレイはフェンネルさんの強さをどれくらい正確に把握しているのだろうか。僕は自分より圧倒的に強い実力者としかわからなかった。

 それからしばらくフェンネルさんのパーティーである「黎明の扉(ヘオス・デール)」の人たちと楽しく会話していると、訓練場の入り口からフェンネルさんがやって来た。


 「やぁ、待たせちゃったかな?」

 

 フェンネルさんはいつも通りの剣士として標準的なプレートアーマーを身に纏い、腰の丈ほどある剣を携えていた。僕とフェンネルさんが訓練場の中央へと移動するとケイシーさんが立会人として来てくれた。


 「それではこれより、冒険者アレクの昇級試験を開始します!!」


 「いい勝負をしよう、アレク君。胸を借りるつもりで全力で来い!」


 「もちろん全力で行かせてもらう!!」


 僕とフェンネルさんによる昇級試験が幕を開けた。僕はこの試験でフェンネルさんが『最高の剣士』と言われえる所以を身をもって味わうことになるのだった。

 


 


 

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次回でまたお会いしましょう!!


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