第29話
今回は休憩回です。
次回からまた戦いを書いていきたいですね。
僕が孤児院に向かっていると、フライが話しかけてきた。
「小僧、あのフェンネルってヤツを見て何か感じたか?」
フレイの質問の意図がよくわからなかったが、僕はフェンネルさんについての印象を簡潔に述べた。
「あの時ギルドにいた冒険者の中で1番強いんじゃないか?フェンネルさんから感じる強さは正直次元が違った。Aランク最上位の実力って言われても驚かないな。」
盗賊の件で助けてもらったギルバートさんも強者だと感じたがフェンネルさんはそれ以上だった。実際に戦っていないので正確には分からないが恐らく大半のAランク冒険者よりも強い気がする。
「多分小僧の予想は正しいぜ、あの男は相当の実力者だ。それこそオレが見てきた人間のなかでも屈指の実力だろうな。ある意味では現代で一番初代勇者に近い存在だ。」
フレイから初代勇者の話が出てきたのが以外だった。確かにフレイが本当に魔界の大悪魔だったらそれくらい長い間存在していてもおかしくないのかもしれない。
「初代勇者に近いってどう言うことだ?確かに並大抵の実力じゃないとは思うけど……。」
御伽話で語り継がれている初代勇者の伝説は、どれもが彼の超人的な力を象徴している。そんな初代勇者に一番近いと言われてもあまりピンとこなかった。
「まぁ今はわからないだろうがな、オレ様の言っている意味もいずれ分かるだろ。」
フレイとフェンネルさんについて話していると、目的地である孤児院に到着した。ここら辺は王都でも郊外にあたる場所で中心部よりも少し寂しげな印象を覚える。孤児院は使われなくなった教会を改修して作ったらしく、年季が入っているが頑丈そうな作りだった。
「Fランク冒険者のアレクだ、依頼を受けてここに来た。」
入口の扉をノックして少し待つと、玄関から年配のシスターさんが出迎えてくれた。
「冒険者のアレクさまですね、どうぞこちらへ。」
シスターさんの案内で孤児院の一室に案内される。そこで今回の依頼の詳細を説明してもらうことになった。椅子に座るとシスターが紅茶と茶菓子を出してくれた。紅茶をすすり一息つくと、シスターが頭を下げる。
「あのような依頼を引き受けてくれて感謝いたします。」
「孤児院の世話の手伝いと書いてあったが具体的に何をすればいいんだ?フェンネルさんに紹介されてきたんだが……。」
僕がフェンネルさんの名前をだすとシスターは少し目を開いた様子で話す。
「そうですか、あの人が……。依頼は書いてある通りで子供たちの遊び相手になってほしいんです。私も随分と歳を取ってしまい元気な子どもと遊んであげることが難しくなってしまいました。あの子たちは優しいのでそんな私を気遣って室内で遊んだりすることが増えているんですが……。やっぱり私は元気に外で遊んでいる子たちを見たいんです。」
シスターの話では子供たちは10人ほどで年齢はバラバラだという。僕は案内されて子どもたちがいる部屋へと向かった。そこには子どもたちがおままごとをしたり絵をかいたりして遊んでいた。
「みんな、冒険者さまがいらしてくれましたよ。」
シスターの声に子どもたちは素早く反応し、僕の身なりをみて冒険者と分かったのか一斉に走り出して僕の方へやって来た。
「おぉ~本物の冒険者だ~!!」
「この剣カッコイイ~!!」
「遊んでくれるの~?」
子どもたちは冒険者が珍しいのか僕の装備や剣に興味深々な様子だった。僕が子どもたちに囲まれてどうしようかと考えていると、シスターが子どもたちを落ち着かせてくれた。
「こらっ冒険者さまが困ってるでしょう。今日はこのお方が皆と遊んでくれるから外でいっぱい遊んでいらっしゃい。」
「やったー!!」
「わーい!」
「早く早く~!」
子どもたちは待ちきれずに外に飛び出していった。僕も外へ向かおうとした時にシスターが声をかけてきた。
「子どもたちをよろしくお願いします。」
「任せてくれ!!」
僕は拳で胸を叩きニコッと笑顔で応じ、外へ向かっていく。
「よしっ皆、僕はアレク!!今日は僕と一緒に遊ぼうか!!」
子どもたちに自己紹介をすると皆元気そうに返事をした。
「「「はーいっ!!」」」
僕は最初、鬼ごっこを行った。僕が鬼になり、子供たちが全力でギリギリ逃げ切れるスピードで追いかけながら走る。それから何人かの子どもを捕まえた。年齢の低い子どもから捕まってしまい、残ったのは10歳を越えるこの孤児院でも年長の子どもたちだった。捕まった子どもたちは逃げている子たちを大きな声で応援していた。
「よしっ君で最後だっ!!」
ついに全員捕まり、鬼ごっこが終了した。子どもたちは皆全力で走った為いい汗を沢山かいていた。近くにある木陰で休むことにした。すると子どもたちから僕の話を聞きたいとせがまれてしまった。
「アレク兄ちゃんって冒険者なんでしょ!何か面白い話聞かせてよ!!」
面白いと言われてもまだ冒険者になったばかりの僕には話せるネタがないなと考えていると、ふとアステルと出会うきっかけになった盗賊たちとゴブリンの群れの話が丁度いいと思い子どもたちに少し物語風に話を脚色して話した。
「そうだなぁ……それじゃあ僕が盗賊たちから友達を助けた話をしよう。」
僕はアステルを助けるために大男との戦いを抑揚をつけて子どもたちが飽きないように話す。皆興味が出たらしく、思いのほか喰いついてくれた。
「アレク兄ちゃんスゲー!」
「他には何かないの?」
「あとはゴブリンの群れをやっつけた話かな。」
最初の依頼で薬草を採取しているとゴブリンが襲って来たことを話す。二つともつい最近の出来事だったため鮮明に頭の中に景色が浮かび、面白おかしく話すことが出来ていたと思う。
僕が話を終えた頃には小さい子たちは眠たそうな顔をしていた。目を擦りながら頭が船を漕いでいるように揺れていた。
「眠い子は少しお昼寝をしようか、皆運ぶのを手伝ってくれるか?」
年長組と協力して眠たい子たちを孤児院の寝室に運ぶ。そして年長組の子どもたちと外で話すことになった。
「俺たちも大きくなったら冒険者になりたいんだ。」
僕に向かって子ども達が先ほどとは違い真剣な顔になって話し始めた。
「この孤児院は今あまり余裕がないんだ……フェンネルさんが毎月寄付をしてくれてるから何とかなってるんだ。シスターはこの事を隠しているけど俺たちはそんなに馬鹿じゃない、普段のシスターの様子を見ればわかるんだ。俺たちには学はない……だから冒険者になってシスターや小さい子たちにもっといい暮らしをしてほしいんだ。」
「…………。」
子どもたちから出た話は中々に重い話だった。フェンネルさんが孤児院に寄付をしているというのもここを紹介した理由なのだろうと思う。
「僕はこの孤児院の事は全く知らない、しいて言えば君たちが良い子ってことくらいだ。部外者の僕が言えるのは一つだけ、自由に生きることだ。冒険者になりたいならなればいい、商売を始めたいなら始めればいい。ただ、何かを成すためにはそれ相応の危険が伴う。だから君たちはその危険に打ち勝つために努力をするんだ。僕は毎日特訓をして強くなれた。君たちも少しずつでいいから自分で出来ることを増やしていけばいい。」
それから子供たちの夢が何かを話してもらった。
一人目は孤児院で最年長14歳のレントだ、彼は上記の通り冒険者になりたいらしく、僕の話を積極的に聞いていた。まぁ僕もまだ冒険者になって日が浅いからそんな大層な事を言ってあげることはできないが……。毎月来るフェンネルさんに冒険者の心得を聞いていて、普段は走り込みをしているみたいだ。
二人目は13歳のクレアだ、彼女はお店に興味を持っているらしく孤児院にある本で読み書きの勉強をしているという。今は初歩的な算術を勉強中らしく、躓いているところを少しだけ教えてあげた。
三人目は同じく13歳のキースだ、彼は孤児院で小さい子たちの世話を積極的に行っていて、料理や掃除などの家事が得意だという。将来はどこかの召使として働きたいらしい。
三人ともしっかりしていて、夢に向かって努力しているようだ。しかしそれでも平民の孤児と言うだけで世間からの目は少し厳しいかもしれない。彼らが折れずに大きくなってくれることを祈るばかりだ。日も傾きはじめ、シスターに呼ばれて最初に来た時に案内された部屋に向かう。
「今日はありがとうございました、子ども達の元気そうな顔を見ることが出来て私も嬉しいです。これは依頼達成のサインです。お疲れさまでした。」
「こちらこそ、久しぶりに子どもたちと遊べて楽しかったよ。妹や村の皆と遊んでいた日々を思い出した。それじゃあまた。」
僕が孤児院から出てギルドに戻ろうとした時、子ども達が入り口から大きな声で見送りの言葉を発する。
「「「アレク兄ちゃん~今日はありがと~!!」」」
僕は彼らに手を振りながらその場を後にする。孤児院から離れても彼らは僕にずっと手を振っていた。彼らのような子たちがもっと幸せになれるような社会になってほしいものだ。
この王都でさえもすべての人が幸せに暮らせているわけでない、孤児院に行く途中で行き場を無くした人たちが路地裏にいるのを沢山見た。大人だけでなく小さな子どもまで、様々だった。あの孤児院にも受け入れる限界はあるだろうし、すべての子を救うことはできないだろう。僕にはそんな子どもたちに手を差し伸べられる力は今は無い。早くランクを上げて依頼をこなし名を上げお金をためて、彼らのような子の力になってあげたいと思った。
それからギルドに戻り、ケイシーさんに依頼達成の報告をして報酬の銀貨2枚をもらう。
「依頼達成ですね、こちら報酬の銀貨2枚になります。」
今思えば孤児院にとって銀貨2枚はそれなりの金のはずだ……子どもの世話の手伝いだけでそんな簡単に出すものだろか。そんなことを考えていると後ろからやって来たフェンネルさんに肩を叩かれる。
「孤児院の子どもの世話はどうだったか?」
「楽しかったよ、妹と遊んでいるのを思い出した。」
「そりゃよかった。孤児院に行くまでの道中で感じたと思うが、この国でも困窮しているヤツは沢山いる。孤児院の子たちはまだ寝床もあるし幾分かましだがそれでも困っているのには変わりない。俺はそんな困ってるやつらがもっと幸せになれるような、そんな世界になってほしいと思って活動してるんだ。そのためには金は山ほど必要だからな。」
フェンネルさんが活動の動機を話してくれた。聞くに恐らくあの依頼もフェンネルさん経由で孤児院が出したのだろう。それを王都にきて間もない僕に受けさせたわけだ。
「そうだな、そんな世界であってほしいと思うよ。だから僕は初代勇者みたいにどんな人でも見捨てない、そんな冒険者を目指してるんだ。」
「初代勇者か!大きく出たな、今のお前さんには遠いだろうが諦めなければきっと成れるさ。」
フェンネルさんはそう笑いながら話し、仲間のところへ戻っていった。ケイシーさんから聞いた話だと彼らは森の生態調査を行い、ゴブリンが移動した原因であるだろうワイバーンの番いを討伐したそうだ。ワイバーンはドラゴンの亜種でCランクの魔物の中で上位に位置する魔物だ。2匹であればBランクに相当する厄介さだと師匠に教えてもらった。そんな魔物と戦った後だというのに装備に傷が全く見当たらないのは彼らの実力がBランクを逸脱している証拠だろう。
僕はギルドを後にしてフェンネルさんからお勧めされた宿へと向かい一週間分の宿代である銀貨4枚を払い部屋へと向かう。朝食付きの料金なので少し高くなってしまったがそれでもまだ金銭には少し余裕がある。部屋に水を持ってきて体を拭き、ベットで横になる。アステルの屋敷にあるベットよりは固いが村では藁で出来たベットで寝ていたのでそれを考えたらむしろ過ごしやすい環境になったと言える。
明日はどんな依頼を受けようか考えているうちに瞼が重くなっていき、僕は眠りについた。
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