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名も無き英雄の冒険譚  作者: オレオル
クエスト開始
30/41

第27話

 僕たちは屋敷に戻り、カンカンに怒っている伯爵から御叱りを受けた。


 「こんな格好をして……アステル、お前は貴族の娘なんだぞ!何かあったらどうするんだ!!」


 「ごめんなさい、お父様……。」


 伯爵の書斎で、東洋に伝わる正座と言う恰好で座り伯爵の言葉を聞いていた。


 「はぁ…いいかい、これはアステル個人の問題ではないんだ。今回の事でもし何かあったらアレク君に迷惑をかけてしまう可能性もあるんだ。」


 伯爵はアステルを諭すような口調で話す。アステルは僕に迷惑をかけてしまうと伯爵から聞いたときに初めて自分の行動が及ぼす影響の大きさを思い知った様な、そんな表情をしていた。


 「アステルをあまり叱らないで上げてください、僕が一緒に来て欲しいと頼んだんです。」


 「アレク君、庇ってくれる気持ちは嬉しいがそれではアステルの為にならない。それに君もアステルを止めるべきだ、もし貴族の娘が大怪我をしたとなったら例え君が恩人だとしても重い処罰が下ってしまうだろう。君たちはもう18歳で大人なんだ、もっと自分の持つ責任の重さについて考えて行動しなさい。」


 伯爵の言葉に改めて自分の行動の軽率さを思い知る。一歩間違えればアステルはゴブリンに襲われて命を落としていたかもしれない。もしそんな事態になったら後悔してもしきれないだろう。


 「ごめんなさいアレク、無理に私がついて行きたいって言ったのに……。」


 「こっちこそ、そこまで考えが及んでなかったよ、危険な目に合わせてごめん……。」


 伯爵からのお説教が終わり、僕たちは汚れた体を洗いに入浴場へ向かう。メイドさんに案内された入浴場は人が数十人入っても余裕ができるほどの広さだった。


 「で……デカいっ!」


 浴場で発した声が大きく反響する。民家の一室が収まって余りある大きさに、僕は貴族は何でも大きく作らなきゃ気が済まない生き物なのだろうかと改めて思った。

 メイドさんに汚れた服を渡して洗うようにお願いする。そして入口に置いてあった桶を手に取り温められたお湯を体にかける。ゴブリンを討伐した後に拭き取りきれなかった返り血を丁寧に落とす。

 平民は風呂に入れることが滅多にないのでとても新鮮な気持ちだった。普段は水浴びだったり濡らした布で体を拭き取るのが精々なので、温かいお湯がこんなに体の疲れを取るなんて思っていなかった。


 「はぁ~疲れた~~。」


 湯舟に浸かり、思わず声が漏れる。

 今回のゴブリン騒動は盗賊の一件とは違い、1人での解決を余儀なくされた。あの時アステルと共闘すると言う選択肢も無かったわけではないが、冷静に事態を分析出来ていなかった状況で無理に共闘なんてしていたらアステルがどんな目に遭っていたことか。


 「もっと冷静にならないとなぁ〜。」


 自分以外が誰も居ない浴場でボソっと呟く。するとフレイが出て来て僕の独り言に返事をする。


 「確かに焦っては居ただろうがあの場での行動は間違ってなかったと思うぜ。もし嬢ちゃんと一緒に迎え撃っていたら…なぁ?」


 敢えて口に出していなかったのにフレイのせいで最悪の状況が頭の中に浮かぶ。僕は話を逸らす為にユニークスキルについて聞いてみることにした。


 「そういえばフレイは俺のユニークスキルについて何か知っているのか?」


 ゴブリン討伐の作戦を話している時に僕のユニークスキルについて軽く言及していたのが気になっていたのだ。


 「あぁ、あれの事か。まぁ丁度いいし説明してやるよ。まず小僧がどれだけユニークスキルのことを知ってのか教えてくれ。」


 「確か…天職を授かるのと同時に貰う特別なスキルのことだろ?誰でも貰えるものじゃないみたいだけど……俺が知ってるのはそれくらいかな。」

 


 僕が知っている限りのユニークスキルについてを話す。すると大きなため息を吐いてフレイが説明を始めた。


 「あのババアユニークスキルに関してわざと黙ってやがったな………いいか、ユニークスキルってのは人によって様々だ、効果や系統がどれだけ似ていても全く同じモノは存在しない。そしてユニークスキルは大きく分けて3種類に別れている。」


 「3種類?」


 僕の相槌にフレイが頷く。


 「あぁ、まず1番数が多いのが任意発動型だ。これは攻撃や特殊効果を付与したり様々だが共通点は自分が発動したい時に発動できるのが特徴だな、即行性があり使い所によってはそれだけで戦況をひっくり返す事ができるし利便性がピカイチだ、鑑定や千里眼のようなスキルが有名だな。次点で多いのは常時発動型だな。これは常に何かしらの補正をスキルから受けられるものだ。1番有名なのは神や精霊から受けられる加護や祝福だな。高位な存在からの加護や祝福はそれだけで人間離れした力を手に出来る。」


 「なるほど…それじゃあ1番少ないのはどんなものなんだ?」


 「1番少ないのは特殊発動型だ。まぁこれは前2つ以外のことをひっくるめて言うんだが……ある特定の状況下において発動可能なユニークスキルだ。条件の程度はスキルによって異なるが厳しい条件であればある程その効果は比例して大きくなっていく。小僧のユニークスキルはこの特殊発動型だ。」


 「なんでそんなの分かるんだよ、俺だってどんなものなのか詳しく知らないのに。」


 僕自身もどのような条件で発動できどんな効果があるかは大して把握していない。どうしてフレイが知っているのだろうか。


 「オレと契約する際に小僧の基本情報を見させて貰ったからな。」


 「何だよそれ、プライバシーの侵害じゃないか。それで、条件と効果を教えてくれよ。」


 フレイにどんなものなのか説明を求めると、微妙な顔をしながら話し始めた。


 「まず小僧のユニークスキル『折れない心(アンブレイク・ハート)』は戦闘時に発動するスキルだ。そして、発動条件は小僧が絶体絶命のピンチに限り使用できて身体能力に補正を加えるものだ。更に相手との実力差が大きければ大きい程、補正が多きくなっていく。」


 フレイから詳細を聞いて、少し思い当たる節があった。


 「俺がヴァンテムと戦った時に力が湧き出る感覚があったけど、それはユニークスキルの効果だったのか……。」

 

 「そうだな、そこら辺にいるガキと魔王軍の最高幹部だ、実力差なんて言うまでも無いだろう。」


 確かに、普通に考えて幾ら手加減されていたとしてもヴァンテムの様な高位魔族の魔法を子供が耐え切れるとは思えない。


 「まぁ奥の手と思っとけばいいだろ、それに小僧のスキルが発動する状況なんざよっぽどのことがない限り無いだろうからな。」


 確かにフレイの言う通りだ、絶体絶命な状況なんてそれこそヴァンテムみたいなバケモノと戦わない限り訪れないだろう。


 「フレイのおかげで色々と納得したよ、ありがとう。」


 「ハッ、やけに素直じゃねぇか。」


 僕がフレイと契約することが出来たのはこのスキルのおかげだったのだ、それが分かっただけでもフレイに聞いた価値があるものだ。


 「話は変わるんだが小僧、お前最近話し方変わってないか?何か理由でもあるのか?」


 さっきまでの話とは180度違う話題が急に上がり少し呆ける。


 「確かに人前で話すときは少し気を付けてるなぁ。師匠に丁寧な口調は冒険者をするならやめとけって言われてさ。確かに師匠も口悪かったし実際そういう下手に出る人って舐められるっていってたから、フレイやアステルみたいな気の許せる仲間以外は少し粗暴な口調で話そうって思ったんだ。」


 フレイは詰まんなそうに僕の元から少し離れ小声でボソッと何かを呟いた。


 「悪魔のオレを()()……か。」


 「フレイなにか言ったか?」


 「なんでもねぇよ、それよりそろそろ上がらないとのぼせちまうぞ。」


 言われてみればだいぶ話し込んでいた。もうアステルたちは食堂にいるかもしれない。僕は急いで浴場を後にして、予備の服を着て食堂に向かう。途中迷子になりかけたが何とかギリギリ間に合ったようだ。


 「遅かったわねアレク!」


 アステルが明るい声で僕を迎え入れる。


 「ごめん待たせちゃったかな。」


 「そんなことないわよ、今アステルからアレク君の奮闘ぶりを聞いてたの、ゴブリンの群れを一人でやっつけたんですってね!」


 楽しそうに笑いながらカエラさんが話してくる。


 「大げさですよ、それにアステルを危険に晒してしまいました、本当に申し訳ないです。」


 カエラさんもアステルを依頼に同行させたことに対して怒っているだろうと思い頭を下げて謝罪をすると、カエラさんは怒ることなく寧ろ嬉しそうに話し始めた。


 「確かに最初その話を聞いたときはビックリしたわ、怒ろうとも考えたのだけどね。だけどアレク君が守ってくれたおかげでアステルは無事だったんだもの、何もなければそれでいいかなって。それに少しは危ない橋を渡る度胸が貴族令嬢には必要だもの、これはこれでいい経験なんじゃないかしら。」


 カエラさんがニコッと笑う。すると伯爵が鋭い眼差しでカエラさんに口をはさむ。


 「無事なのは大前提だ!全くカエラはアステルに甘すぎる。もしものことがあったらどうするんだ。」


 「そんなこと言わないの!私だって若い頃はいろんな経験をして知見を広げていったものよ、アステルにはこんな窮屈な貴族の世界だけじゃなくもっと自由な広い世界を知ってほしいの。」


 「そうは言うが……。」


 カエラさんと伯爵が言い合いをしてる横で僕とアステルは目が合い、少し気まずそうに苦笑いをする。この日の料理は味を感じることが全くできなかった。



 食事が終わり、僕はアステルたちにこの屋敷から出て王都の宿屋で過ごそうと考えていることを伝える。


 「急なんですが明日から王都の宿で過ごそうと思ってるのですが……。」

 

 僕の発言にアステルだけではなくカエラさんと伯爵も驚いていた。確かに唐突と思うかもしれないが、実は最初の依頼が達成できた時点でお世話になるのはやめようとここで過ごす話が出た時から決めていたのだ。王都の冒険者が使っている宿を猫獣人の受付嬢に聞いたところ一泊銅貨50枚から銀貨1枚だと言っていた。これなら今回の依頼の報酬だけでも一週間は過ごすことが出来る。恐らくお金が理由で王都を去ることはないだろう。


 「なんで?!ずっとここに居ればいいじゃない!!」


 アステルが悲しそうな顔で僕に向かって声を出す。


 「そんな顔しないでよ、もう会えないわけじゃないんだから。」


 「それにしても急じゃないかしら?何か屋敷で不便なことがあったのかしら。」

 

 申し訳なさそうにするカエラさんを見て僕は少し焦って訂正する。


 「そんなことないですよ!!むしろこんなに良くしていただいて感謝しています。ただこれ以上アルヴィリス家の皆さんのお世話になるのは俺の為にならないんじゃないかと思いまして。」


 「そうか……君がそう思うのなら私は君の意見を尊重しよう。ただ何か困ったことがあったら遠慮なくいってほしい。」


 こんなに人のいい家族に会えたことは僕の人生で大きな財産になるに違いない。

 それから僕は改めてアルヴィリス家の人たちにお礼をして客室に戻る。

 

 「明日からは自分一人の力で生活していくんだ!!」


 僕はアルヴィリス家に対する感謝と共に明日からの新生活に心を躍らせながら眠りについた。

 

少し話の導入が強引だったかも?

次回から本格的なアレクの冒険が始まります。


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私のやる気が猛烈に上がります。

感想や質問なども書いてくれると嬉しいです。

アドバイスや誤字は優しく教えてください。

次回でまたお会いしましょう!!


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