第2話
「お前が自分のことをどう思っていても俺にとっては自慢の息子だからな。」
「小さい頃からエリアスの代わりにアリエの世話と家事を全て任せてたからな。お前には苦労をかけてるとずっと思っていたよ。でもお前は家族のために文句一つ言わずに手伝ってくれたろ?」
「それだけでお前は『自慢の息子』なんだよ。お前を産んだことが俺とエリアスの誇りなんだ。だから、そんなこと言うな。」
いつも何も考えてなさそうな親父が、こんなことを思っていたなんて…。
親父に迷惑をかけていると思っていた自分が馬鹿らしくなった。
「なぁ親父」
「親父は俺が冒険者になりたいって言ったらどうする?」
言うかどうか少し躊躇ったが、僕は勇気を出して親父に聞いてみた。
「別にいいんじゃねえか?」
案外アッサリと親父は返した。
「俺はお前が何になろうと止めるつもりはねぇ、まぁ止めたところでお前が諦めるとも思えねぇし。」
「ただ、冒険者になるからには生半可な覚悟じゃいけねぇ、全力でやれ、いいな。」
思いもよらない親父の言葉に僕は泡を食った。
てっきり反対されるかと思ったがその心配はどうやら杞憂だったようだ。
親父は僕以上に僕のことを理解していた。
「出来ると思うか?俺に。」
「出来るかを決めるのは他人じゃねぇ、アレク、お前自身だろ?」
親父が放った言葉はとても重みを帯びていた。
もしかしたら親父も昔自分に納得出来なかったときがあったのかもしれない。
家に帰ると僕の天使、アリエが出迎えてくれた。
「お帰りなさいお兄ちゃん!」
あぁ、今日の心労が嘘のように吹き飛ぶ。
僕は出迎えにきたアリエの頭を優しくなでる。
「あ~癒される~」
「どうしたの?お兄ちゃん。」
おっと、ついつい心の声が漏れていたようだ、恐るべし我が天使。
きっといつか、町行く人を虜にする別嬪さんになるに違いない。
そんな事を思いつつ、台所で手洗いとうがいを済ませて料理を作る。
今日はお祝いの日でもあるのでいつもよりちょっと贅沢をしてお肉を使ったスープを作ることにした。
一時間ちょっとして、料理をテーブルに運ぶ。
今日のメニューはお肉と野菜のスープ、パン、牛乳だ。
よそられた器から煮込んだ肉と野菜の香りが漂ってきて、僕の食欲を掻き立てる。
「「「いただきます!」」」
三人で大きな声でいただきますをして食事を始める。
自分で言うのもなんだがとても上手く作れたと思う。
暫く料理に舌鼓を打っているとアリエが緊張した様子で質問してきた。
「お兄ちゃん、今日の儀式どうだった?」
素朴な質問だが、今の僕には正直されたくなかった質問だった。
目を輝かせながら期待しているアリエには少し後ろめたさがあった。
少し顔をしかめてから重い口を開いて僕はアリエに告げた。
「残念だったけど僕には職業がなかったよ…。ガッカリした?」
自嘲気味に僕はアリエに言った。
アリエは最初はポカンとしていたけど言っている意味を理解したのか自分事のように悲しそうな顔をした。
「そっか、残念だったねお兄ちゃん。」
それ以外の言葉をアリエは言わなかった、きっと気遣いしてくれているのだろう。
その心意気に僕は深く感謝したのと同人に、少しアリエに意地悪な言い方をしてしまったなと後悔した。
少し暗くなってしまった雰囲気を明るくするために、僕はアリエに自分の決意を語った。
「でも俺は冒険者の夢を諦めるつもりはないぞ。世界初の『無職冒険者』、カッコいいと思わないか?」
「‥‥そ、そうだね、カッコいいと思うよ!!」
アリエは苦笑いしながら僕にそう言った。
『無職冒険者』ってカッコよくないのか?
僕はアリエの苦笑いで多大なダメージを負った。
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