第26話
アレクは身内には砕けた柔らかい口調で、それ以外の人には基本的にである調で喋るようにしています。
冒険者として軽く見られないようにするためです。
違和感を感じていた人がいたら説明が遅くなり申し訳ないです。一応次の話で言及する予定なので、多めに見てくれると助かります。
フレイの作戦は意外にもシンプルなものだった。
「いいか小僧、お前はゴブリンを恐れ過ぎだ。警戒するのはいいが冷静に分析できなきゃそれはただの怯えでしかない。ちゃんと実力を発揮すれば工夫次第ではどうにかなる相手だ、仮にピンチになっても小僧にはユニークスキルがあるし大丈夫だろう。まずはあの大量のゴブリンを倒すには戦力を分散させることが重要だ。」
フレイの言葉は思いのほか今の自分を的確に表現していた。確かに僕はゴブリンを警戒するが余り怯えてしまっていた、絶対に勝てないと。フレイがどうにかなるとは言うものの実際に戦力を分散させるにはどうすればいいのか僕の頭ではいい案は浮かばなかった。
「どうすれば分散できるんだ?」
「まず小僧には一度奴らの追跡を振り切ってもらう。そして木の上から四方に向かって音を立てて奴らを分断しろ。恐らく奴らは三、四匹づつに分かれるはずだ。そこを各個撃破していけ。」
「そんなにうまく行くのか?」
フレイの作戦は理解できた。うまくいけば確かに殲滅することが出来るだろう。しかしそんなにも計画通りに事が運ぶのだろうか。
「あのババアから魔物の習性を教わっただろ?」
フレイに言われて師匠の座学でゴブリンの習性について言及していたことを思い出す。
「いいかアレク、ゴブリンの特徴は五歳児並みの知能と言われているが群れを倒すときにはもっと重要な特徴がある。ゴブリンはプライドの高い生き物だ、群れで動きはするが個々が手柄を立てようと必死になる。そこをうまく突けば群れを分断して討伐しやすくできるんだ。よく覚えておけよ。」
そうか、ゴブリンのプライドの高さを利用するのか。
「それじゃあ作戦開始だ!」
僕はフレイの作戦の意図を把握した後、すぐさま全力で奴らの追跡を振り切る。そして木に登り上から群れを観察をする。ゴブリンの群れは僕がいなくなって辺りをキョロキョロと見回している。奴らは僕が木の上にいるとは微塵も思っていないだろう。作戦通りに僕は黒剣を弓矢に変形させて四方に矢を放つ。すると四方の茂みからガサッと音が鳴りゴブリンたちは困惑したのち、四匹づつに分かれて各方向へ向かっていった。それぞれが僕の首を取ろうと叫びながら走っていくのを見て、作戦が成功したことに安堵する。
「あとはそれぞれ倒していくだけだな。」
僕は木から降りた後、弓矢から黒剣に形を戻し、なるべく音を立てないように忍び寄り、素早くゴブリンを仕留めていく。切り付けたゴブリンの血が剣に付着するが切れ味が悪くなる気配が一向にない。やはりこの武器はとても貴重なものだと改めて実感した。途中少し危ない場面もあったがなんとか乗り切り、ついに最後の集団にたどり着いた。
「よしっ、これで最後だ!!」
流石にずっと走り続けた上の連戦で体力も消耗していたが、何とか討伐することが出来た。服にはゴブリンの返り血がべっとりとついており、傍から見たら一発通報ものの恰好になっていた。最後の一匹を始末して、僕は木に切りつけた跡を頼りに森の入り口まで急いで戻る。アステルが無事でいることを願いながら森を走り抜ける。視界が開けた矢先、目の前に映ったのは不安げな表情で座り込んでいるアステルの姿だった。どうやら森を抜けたあと、腰が抜けてしまったようだ。
「戻ったよアステル。」
僕が戻ったことを確認するや否や立ち上がりこちらに走り出してきた。
「アレクっ、心配したのよ!!」
「…………。」
泣いている彼女を見て、謝罪の言葉を飲み込む。全身血だらけの恰好にすごくい驚いた様子だったが、返り血だとわかると幾分か安心したようだ。それでも血を見て卒倒しないとはいい意味で逞しい人だ。
「こんなにケガして、今治してあげる。」
アステルが僕の傷の前に手をかざすと温かな光が発生して傷を癒していく。
「ありがとう、手当してくれて。」
全身にあった打撲痕や切り傷が殆ど塞がり、痛みもだいぶ引いていた。これがアステルの聖属性魔法の力なんだろうか。
「私はまだ下級の『キュアー』しか使えないから完全には治せないけど応急処置にはなるはずよ。」
下級でこれだけの効果があるとは……確かにこの力が貴重と言われるのも納得だ。聖属性の魔法を極めると部位の欠損すら治せるという噂も案外嘘じゃなさそうだ。
「肌についている返り血は流さないと病気に感染してしまうかもしれないわ。」
「そうだね、手元にある水で出来る限り拭こうかな。」
素肌に着いた返り血をとりあえず拭き取り、これからどうするかを話し合う。
「ゴブリンの素材をどうしようか……。」
二人で森にあるゴブリンの後始末をどうするか悩んでいるとフレイがある提案をしてきた。
「魔石だけ採っちまえばいいじゃないか。」
「魔石って何?」
フレイの提案についてアステルが質問する。
「魔石は魔物にとって力の源みたいなもので、魔力を宿している石の事だよ。心臓の横にあって、強い魔物の魔石ほど高く売れるんだ。」
「魔石ってどんな用途で使われるのかしら。」
アステルが魔石がどのような使われ方をするのか質問する。
「冒険者が使う簡易ランプとかは魔物の魔石を使って明かりを付けたりしてるんだよ。あとは武器に魔石を使うことで切れ味が上がったり強度が増したりするみたいだよ。特に最上位の魔石には魔物特有の能力を付与したりできるって師匠が言ってたな。」
僕の答えにフレイが更に付け加える。
「魔石は魔鉄鋼と言われる鉱石と同じ魔力を宿す特徴があるから魔鉄鋼の代替品として日常生活品にも使われてるんだぞ。」
「じゃあ私たちが思っている以上に魔石は身近なものなのね。」
アステルが感心して頷く。僕たちは森へ再度赴きゴブリンの魔石を取ることにした。親父から貰った形見のナイフを使ってゴブリンの胸を開き魔石を取り出す。その光景にアステルは鳥肌を立てていた。
「実際に魔物の解体を見るとちょっと……うぷっ。」
魔物と言っても臓器はあるし血も出るので魔物の解体は控えめに言ってグロテスクだ。冒険者でも忌避する人が多いので、解体専門の人を雇う冒険者もいるらしい。僕は師匠に動物の解体方法を教えてもらった為ある程度慣れているが、初めて目にする人には刺激が強すぎるだろう。アステルは茂みに向かって胃の中の物を出していた。僕はそれを見て見ぬふりをしてせっせと魔石の回収を済ませる。
「ふぅ、これで全部採れたかな。」
「すごい数ね、こんなにたくさんのゴブリンがいたなんて……。」
小袋いっぱいの魔石をみてアステルはゴブリンの数の多さを改めて感じたようだ。
「この森は本来ゴブリンなんて生息していないはずなんだけど……依頼達成の報告と一緒にギルドに話してみよう。」
「それがよさそうね。」
クラル草とゴブリンの魔石を持って僕たちは王都の冒険者ギルドまで戻る。道中で王都行きの馬車が通りかかって、御者さんの好意で乗せてもらえることになった。王都についた頃には日が沈みかけていて、御者さんにお礼を言った後、僕たちはギルドに足を運んだ。
「依頼の報告に来た、クラル草2袋分だ。」
最初と同じ受付嬢に依頼のクラル草を渡す。
「かなり状態のいいものですね!これなら報酬は追加で2割ほど増額させて貰います!合計で銀貨6枚になります!」
報酬の銀貨を受け取った後に僕たちは森でゴブリンの群れに遭遇したことを話す。
「王都近郊の森でゴブリンの群れに遭遇したんだが、聞いてた話と違ったので報告させて貰う。」
「ゴブリンですか?確かに王都周辺では生息していない筈ですが……。少々お待ち下さい、ギルドマスターに報告しますので。」
そう言い残して受付嬢は奥の部屋へ入って行った。しばらくロビーの椅子で待っていると受付嬢とギルドマスターがやって来た。
「ゴブリンの群れがいたって話は本当か?」
ギルドマスターの質問にゴブリンの魔石が入った小袋を見せて答える。
「これがゴブリンから採った魔石だ、合計で20匹はいたんじゃないか?」
「そうか……今日はもう遅い、明日また改めてギルドに来てくれ、詳細を聞きたい。」
「わかった、魔石の換金だけお願いしてもいいか?」
受付嬢に魔石を換金して貰い、今回の依頼と合わせて銀貨12枚を手にして僕たちはギルドを後にした。
帰り道で報酬の分配について話し合うと、互いに意見が合わずにちょとした言い合いになってしまった。
「今回はアステルも手伝ってくれたし報酬は半々でいいよね?」
「私はお金に困ってないし、無理やりついて来たんだから要らないわ。」
「でもそれだと俺が納得できないよ!」
僕たちが言い合いしていると痺れを切らしたフレイが折衷案を出してくる。
「じゃあ小僧が9枚、嬢ちゃんが3枚でいいだろ、見てるこっちはもう腹一杯だ。」
「わかった。」
「私もそれでいいわ。」
報酬の話し合いも終わりアルヴィリス家の別荘に着く。そして汗だらけで服も汚れているアステルの姿を見た伯爵が信じられないものを見たような顔をして大声で叫ぶ。
「アステル、何だその格好は!?アレク、貴様か〜〜!!!」
その日の夜は永遠と感じれるほど長い間、伯爵にこっ酷く叱られるのだった。
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次回でまたお会いしましょう!!