第23話
翌朝、僕は早く起きて屋敷にある開けた庭に向かう。伯爵が用意してくれたベットで寝たおかげで疲れがすっかり取れて、何だかいつもより調子が良いみたいだ。庭に到着し、軽い準備運動をした後に黒剣を鞘から抜き、素振りをする。師匠の元で鍛えていた習慣のようなもので身体を動かさないとどうしてか落ち着かないのだ。体に魔力を纏い身体強化を施し、師匠から習った基本の型を忠実に行う。暫く素振りに没頭していると屋敷からやって来たアステルが話しかけてきた。
「こんな朝早くから素振りなんて偉いわね。」
アステルが感心したように言う。僕は体に纏った魔力を解除してアステルの方へ向く。
「はは、ただの習慣みたいなものだよ。それに今日は……。」
「緊張してるの?」
「そうだね……してないと言ったら噓になるかな。」
今日はアステルの案内でアリエに会う日なのだ、緊張を紛らわすためにも素振りは丁度いい運動だ。
「あまり無理してはダメよ。朝食の時間になったら食堂に遅れずに来てね。」
そう言い残してアステルは屋敷に戻っていった。クールダウンをして、メイドさんに体を洗えるように用意してもらった大きなに桶にある水を体に流す。冷たい水が意識をはっきりさせる。自室に戻り、服を着替えて身だしなみを簡単に整える。時計を見ると丁度いい時間になっており、扉をノックする音と共にメイドさんが朝食の準備が出来たことを伝えに来た。
「朝食の準備が出来ましたので食堂までいらしてください。」
僕はメイドさんと共に食堂へ向かう。屋敷にきてまだ2日ほどしか経っていない為、未だに何処に何があるかを把握できていないので移動する際はいつもメイドさんに案内してもらっている。
食堂に着くと、アステルの家族が座っており僕は少し慌てて席に座る。
「遅くなっちゃいましたか?」
「ははは、そんなに気にしなくていいさ。」
伯爵が笑いながらフォローしてくれた。みんなで食事をとり、テーブルの上に置かれた料理を味わう。普段は絶対に食べられないような料理ばかりでこんなにいい食事が続いてしまったら舌が贅沢を覚えてしまうかもしれない。早くギルドに行って依頼をこなして自分で宿を取れるくらいには稼がなければいけないなと改めて思った。
食事を終えて、伯爵にアステルと出かける旨を話して、僕たちはアリエが通っているという魔法学校の周辺まで行くことにした。アステルでも部外者の僕を魔法学校内に入れることは難しいみたいで、入り口の門まで案内してくれるそうだ。
「ここが私の母校、王立プロリア魔法学校よ!」
「……こんなところにアリエは通っているのか。」
デカい、あまりにもデカいのだ。アステルの屋敷も見たこともない大きさだったが、この魔法学校はその比じゃない。沢山の学生が魔法学校の門を通り登校している。
「卒業したばかりなのになんだか懐かしいわね。」
アステルが校舎を感慨深そうに見る。
登校している生徒を遠目から眺めているとある一人の女子生徒に目が行く。その女子生徒は落とし物をしたようで道端で何かを探しているみたいだった。見つけてしまった以上、無視をするのも憚られる気がしたので女子生徒の元まで歩く。すると、女子生徒の友達らしき子が来て探し物を手伝っていた。
その子の髪には特徴的な髪飾りがついており、明るく周りを照らしてくれるような笑みを絶やさない綺麗な金髪を靡かせた女の子だった。
「アレク、あの子が昨日話した元平民の生徒よ。」
「ア……アリエ……なのか?」
あの髪飾りは僕たちが村を出るときに親父がアリエに渡した母が使っていた髪飾りだ。今でも大切に使っているのだろう、よく見るとところどころ丁寧に補修された後が見える。
アリエに向かって歩いていく過程で女子生徒が落としたであろうハンカチを見つけた。僕はハンカチを届けるのを口実に二人のところへ向かうことにした。
「探し物はこれ?」
僕は必死に探している女子生徒にハンカチを見せる。彼女はハンカチを見た途端に大きな声でお礼を言って来た。
「ありがとうございます!これは妹から貰った大切なものなので……。」
女子生徒は僕に一礼して魔法学校に向かった。アリエは女子生徒を一瞥した後こちらを見てきた。
「お兄さん優しいんだね!」
アリエが僕に向かって話しかけてくる。兄としてではなくただ親切な人として話しかけていると頭の中ではわかっていてもやはり嬉しいものだ。アリエが僕を覚えているような素振りは無く、そこは悲しいと感じたがそれ以上に笑顔で過ごしている姿に安堵を覚える。
「はは、そんなことないよ。たまたま見つけただけさ。」
僕はあくまで他人としてアリエに接することにした。記憶の無いアリエに兄だと迫ったところで困らせてしまうだけだろう。
「君は確か最近話題になっていた魔法学校の生徒だよね、名前は確か……。」
「話題かはわからないですけど……私はアリエ・デルフィニウムと言います!今はプロリア魔法学校の中等部に所属しています!一応は貴族ですけど、もとは平民なのであまり気にしないでくれると嬉しいです。」
「それじゃあ学校は中々大変なんじゃないか?貴族は血統とかに煩いってよく聞くけど……。」
「私のほかにも平民の人は少なからずいるのでそこは平気です、それに貴族の人でも親切な人はたくさんいますから!」
魔法学校の友達がたくさんいるみたいだ。アリエは人懐っこい所があるから友達も作りやすいのかもしれない。
「そうか……君は今、幸せかい?」
僕はアリエに一番聞きたかった質問をする。
「はい!!毎日がすごく新鮮で幸せです!!」
「ならよかった、魔法の勉強頑張ってね。それじゃあ。」
僕はアリエに聞きたいことが聞けて満足したので挨拶をした後すぐにその場を去ることにした。
「ま、待って下さい!名前を教えてくれませんか?」
アリエのまさかの引き留めに少し驚いたが、僕は平静を装い顔だけをアリエの方へ向けて言う。
「僕はアレク、今は駆け出しの冒険者だ。」
今度こそ振り返らずに魔法学校を去る。アステルとも合流して僕は彼女にお礼を言う。
「ありがとう、アステルのおかげで妹に会えたよ。」
「やっぱりアレクの事は覚えてなかったのね……。」
「確かにそうだけど、アリエは昔と何も変わっていなかったしすごく幸せそうだった。それが分かっただけでも僕は満足さ。」
アステルはどこか納得のいかないような顔をしていた。きっと僕が無理をして取り繕っていることをよく思っていないのだろう。
「それじゃあ次は王都の冒険者ギルドに行こう!」
僕は無理やり話しを逸らして、王都の冒険者ギルドに向かうよう提案する。ずっとアステルたちの好意に甘えているのも申し訳ないので、早くお金を稼げるようになりたいのだ。
僕たちは冒険者ギルドが近くにある中央広場まで行く。本当は案内だけでしてもらい僕一人で行くつもりだったが、アステルは冒険者に興味があるらしく、ついて行くみたいだ。
「私冒険者ギルドなんて初めてだから少し緊張するわ!!」
「僕もこんなに大きな規模のギルドは初めてだから少し緊張するよ。」
僕たちはギルドの扉を開けて、中に入る。そこには駆け出しからベテランまでたくさんの冒険者たちがいた。中にはAランクの有名な冒険者など優秀な人たちもいた。
僕たちはギルドの受付に向かい、初心者が受けやすい依頼を斡旋してもらいに行くのだった。
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