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名も無き英雄の冒険譚  作者: オレオル
修行
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第15話

やっと旅立ちです。

 僕が師匠に弟子入りしてからはや10年が過ぎようとしていた。最初の頃と比較すれば大分戦えるようになった気がする。師匠との会話も多くなり、僕は本当の家族のような関係だと思っている。

 

 「本当に強くなったな、ここまであたしの攻撃を防げるようになるとは…。」


 師匠が感慨深そうな顔をして言う。確かについ数年前までは師匠の一撃で毎回気絶していた。攻撃を防ぐことが出来るようになったときに師匠に聞いたが、本人曰はく実力の2,3割ほどしか出していないと言う。こを聞くともはや本当に人なのか疑いたくなった。それでも師匠は自分よりも強い奴はいると言っていたので、僕は世界は広いんだなとなんとなく思った。

 師匠のおかげで僕は強くなることが出来た、しかし修行を付けてくれただけでここまで頑張ろうと思えたわけではない。怪我した自分を毎回手当してくれて、毎日美味しい料理で労ってくれる師匠だからこそ、僕は頑張ろうと思えたのだ。

 

 「これも全部師匠のおかげだよ、本当に感謝してる。」


 「そろそろ頃合いか……アレク、お前に渡したいものがある。」


 そういって師匠が部屋の奥から何かを持ってきた。師匠はいつも僕は今まで師匠に誕生日プレゼントをもらったことがなかったので少し驚いた。


——————――――――


 「誕生日プレゼントだぁ!受け取れぇ!!」


 「そんなプレゼントあってたまるかぁ!!ぶほぉ!!」


——————――――――


いつも誕生日プレゼントと称して蹴りをかましてくる師匠が素直に何かをくれるなんて意外だった。


 「今日はお前の18歳の誕生日だったな……これをやろう。」


 そういって師匠が手渡してくれたのは、僕の体格にぴったりの大きさの片手剣だった。鞘から剣を抜くと、漆黒の刃が顔をだした。片手に持ってみると剣と思えないほど軽く、とても良い剣だということが強く伝わる。


 「これは…………。」


 「この剣は前からずっとお前のために拵えていたものだ、今のお前ならうまく扱えるはずだ。」


 こんなに高価そうなものを僕にくれるなんていったいどういうことなのだろう。嬉しさも感じる一方、疑問が大きくなってきた。それに僕は師匠から様々な武器の扱い方を教えてもらった。わざわざ剣である理由があるのだろうか。


 「お前はもう十分強くなった、これ以上私が教えることはない。あとはお前自身が自力で成長していく過程で自然と身につくはずだ。」


 師匠のセリフはまるでもうここにとどまる必要はないと言っているように感じた。


 「お前の目的はここにずっと留まることじゃない。アレク、お前はいろんな世界を見るべきだ。」


 「師匠…………。」


 「今日は荷造りをしな、明日には出発した方がいい。」


 師匠からここから旅立つように言い渡される。いつか言い渡されるとわかっていたが、それでもやはり寂しいものがある。師匠の顔も悲しみが隠しきれていなかった。

 僕は自室に戻り、ベットに座り込む。師匠は一度言ったことは曲げない人だった、だから今回も譲らないだろう。師匠からもらったものが多く入るマジックバックにこれから旅に必要な物を選別して入れていく。荷物の整理をしていると、これまでの師匠との思い出が鮮明に浮かび上がる。

 師匠に追いかけ回されていた事や、勉強中に居眠りをしてゲンコツを食らった事、様々な武器の扱い方を教えてくれた事、そしていつも修行終わりに美味しい料理を作ってくれる師匠の優しい顔。

 どの思い出も僕にとってかけがいのない思い出だった。村を失い、大切な人を亡くして、妹と離れ離れになった僕にとってそれは大きな支えだったのだ。昔に師匠を母さんと言ったのは言い間違いじゃない、本当に母さんのような存在だと小さいながらも思ったから自然と言葉に出たのだ。

 僕は荷造りわを終えると晩御飯を食べに自室をでる。そこには豪華な料理がたくさん並べられていた。


 「これはあたしからの心ばかりの労いだ。今までよく頑張ったな、今日は腹一杯食べな。」

 

 そう言って師匠は僕に料理を食べるように促す。

 牛肉は程よく焼かれており、噛むたびに肉汁が溢れてくる。師匠が特別に用意してくれたコメという東方で主食とされているものを牛肉と一緒に食べると、今まで味わったことのないコメの程よい甘さと肉のジューシーな味わいが口の中で踊る。すかさずスープを口に運び、魚の出汁がよく取れたコクが深い優しい味が広がる。サラダを口に運ぶと、ドレッシングの甘酸っぱい味が絶妙で普段あまり野菜を食べない僕でもパクパク食べれてしまう。

 料理を食べている僕を師匠が見つめている。その目は愛しい子供を見守っている母親のような、そんな目をしていた。

 そういえば師匠はどうしてあんなに強いのだろう。師匠を見ながらふと、そんな疑問が浮かんできた。


 「師匠は僕に修行を付けてくれる前は冒険者をしてたのか?」


 僕は料理に舌鼓を打ちながら、最後の機会だと思い師匠が昔に何をやっていたのか聞いてみることにした。


 「どうしてそう思う?」


 「だってヴァンテムから僕を助けてくれるような強い人が普通なわけないだろ。」


 「ん~~まぁ冒険者の知り合いはたくさんいるがあたしはギルドに所属はしてないぞ、いわゆる潜りってやつだな。」


 「そんなことしてたのか師匠……。」


 明日の別れをひと時でも忘れようと僕は師匠と他愛のない話を続けた。しばらく話し込んでいると、師匠が仕方ないという顔をしながら小さなため息をつき言う。


 「明日は早く出た方がいい、もう寝床に行きな。」


 師匠に早く寝るように言われて僕は眠りについた。






 次の日の朝、僕はマジックバックを背負い、玄関に立つ。


 「アレク、お前と契約している悪魔の事だが、あたしがいない以上これから干渉してくることが増えるだろう、気を付けろよ。」


 「言われなくても分かってるよ。」


 「それと王都に行ったらこの手紙をギルドマスターに渡すと言い、多少は融通が利くはずだ。」


 「ありがとう」


 「ケガをしないように気を付けろよ。」


 師匠は名残惜しそうな顔をしながら僕に言う。


 「それじゃあそろそろ行くわ」


 「いってらっしゃい、アレク。」

  

 「行ってきます!()()()!!」


 「…………!!」


 最後に僕は師匠に挨拶をして10年間過ごした家を後にした。空は雲一つない青空が広がっていて、旅立ちの日にはうってつけな気候だ。空も僕を祝福してくれているのかもしれない。

 僕はこれからの旅に思いを馳せながら、王都に向かって歩み始めた。






 「母さん……か……。」


 あたしはアレクの背を見ながら独りでつぶやく。これまでの10年間がまるで昨日の出来事のようだった。今まで一人で過ごしてきたあたしにとってアレクは毎日に彩りを与えてくれるようなそんな存在になっていた。

 これから先、お前には様々な困難が待ち受けているだろう。それでも沢山の人との出会い、大切な仲間がいれば乗り越えられるはずだ。


 「この家も寂しくなるな…………頑張れよ………()()()()。」


 あたしは姿が見えなくなるまでアレクの大きくなった背中をただただ眺め続けた。


 

 


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