第14話
アステルはしばらく出てこないんですよね
私アステルはアレクと別れた後、お父様のいる別荘へと変えることにした。道中で私の護衛をしていた人達が大慌てでこちらに向かって来た。
「お嬢様、心配いたしました。いったいどこにおられたんですか。」
ため息をつきながら話す護衛はギルバートと言って、私が生まれた時よりも前からお父様に仕えているベテランだった。
「ごめんなさ、みんなに迷惑をかけて……。」
しょんぼりとした顔をしながら謝る私に対してジルバは少し微笑みながら話す。
「確かに肝を冷やしましたが、私も旦那様も少し嬉しかったんですよ。」
「嬉しい?」
みんなに迷惑をかけてしまったのにどうして嬉しいなんて思うのだろうか。
「お嬢様は旦那様のことを考えて普段から利口に過ごしていました。私共も旦那様もそのことを心配していたのです、お嬢様が無理をしていないかと。お嬢様が抜け出したとき旦那様は心配と同時にやっと我儘を言ってくれたと嬉しそうにしていらっしゃいました。」
「そうだったの、心配かけないようにしていたことが逆にみんなを心配させてしまっていたのね。」
私はアレクが言っていたことを思い出す。
(むしろ今まで利口だった娘が我儘を言ってくれたと喜んでくれるよ)
アレクが言ったことは本当だった。私はアレクからもらったハンカチを握りながらつい先ほど起きた二人の会話を思い出す。アレクのおかげで自分が今何をしたいかが分かったする。
「それじゃあ帰りましょう。」
私はお父様のもとへ向かう。
「……また会えるかしら。」
私はアレクとの再会に思いを馳せて帰路に就いた。
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アステルとの出会いから更に5年たち、僕はすっかり大きくなった。修行も順調に進み、魔力量も限界まで鍛えたおかげでいっぱしの魔法使い程度には増えた。増えたといっても、無職の僕では魔法使いの職業を持つ人の魔力量には及ばなかった。戦闘に関しては師匠から教わった基礎を身に着け、今は師匠の攻撃を防御する修行をしている。ほとんど目で終えないので毎回毎回吹き飛ばされて全身痣だらけになる。
「ちゃんと受け身取らないと死ぬぞ。」
「う……うぇぇ……。」
師匠の蹴りを鳩尾に食らい、僕は胃に入っているものを吐き出してしまった。基礎を習得し終えてからは、師匠の修行はより苛烈になった気がする……ってゆうか絶対なっていると思う。
「お前が気絶するまで倒れることは許さん、立ち上がって見せろ!」
師匠の激励に僕は力を振り絞り立ち上がり、そして拳を構える。師匠の攻撃はただただ速い一撃を打ち込んでくるだけだが、目で追うことが出来ない僕にとっては不可視の一撃ともいえるものだった。
「もう一本行くぞ!」
そう言った瞬間、師匠の足元にある地面が抉れ、とてつもない速さに周りの木々が大きく揺れていた。
「ぐはっ……!」
僕は師匠の攻撃をいなすこともできずに鳩尾に拳を食らい、今度は耐え切れずに意識を失ってしまった。
目が覚めると見慣れた天井が広がっていた。師匠の一撃で気絶してしまった僕は師匠に運ばれてベットに横たわっていた。自分の体を見ると、全身に包帯が巻かれており修行の苛烈さを容易に想像させる。少しでも体に力を入れると全身に雷が走るような激痛に襲われてしまうため、動くにも動けなかった。扉の向こうでは師匠が料理を作っている音が聞こえる。その聞きなれた音はどんな音楽よりも僕に安らぎをもたらしてくれる安心感があった。料理の匂いが扉越しにこちらまで届いてくる。お腹の音が鳴り、空腹感を感じ始めた時に扉が開き、師匠が料理をお盆に乗せて運んできてくれた。
「また派手にやっちまった……私はこんなやり方しか知らなかったから、お前に毎回こんなケガをさせちまう……こんな師匠を恨むか?」
どうやら師匠は毎回容赦なく僕を叩きのめしていることに罪悪感を感じているみたいだ。確かに毎回こんなケガを負うのは御免だが、僕から師匠に強くしてほしいとお願いしたので師匠の方針にどうこう言うのも筋違いだ。それに師匠は本気で僕を強くしようとしているからこそ、こんなに厳しい修行を付けてくれているのだと思う……思いたい。
「僕は気にしてないよ、師匠の修行のおかげで僕は強くなれてるんだから。」
「そうか……。」
師匠は少し微笑みを浮かべる。師匠はいつも仏頂面で鋭い目つきをしているが、僕は時々師匠が浮かべる笑みが大好きだった。僕は師匠の過去について深く聞いたことがなかったため、師匠がどうしてこんなに強いのかすら知らなかった。師匠の過去を知ることができればもっと師匠を笑顔にさせれるのではないかと時々思う。
僕は師匠にシチューを食べさせてもらいながらそんなことを考えていた。
僕の体が動くようになりまた激しい修行が再開した。師匠の一撃を食らい続けた僕は、少しづつ受け身を取ったり攻撃をそらして威力を抑えたりできるようになってきた。
「はぁ……はぁ……やった……初めて……ちゃんと防げたぞ……。」
僕が攻撃に対して受け身を初めて取れて喜んでいると、師匠が近づいてきて僕に拳骨を入れた。
「いってぇ~~」
「調子に乗るんじゃないよ……でもよくやったね。」
そう言って師匠は僕の頭を撫でてくれた。僕はどこか気恥ずかしさを感じて俯いてしまった。師匠の手は温かくて優しい日差しに包まれているような安心感があった。
その日の夕食は豪華で普段は食べない牛の肉などを使ったボリュームたっぷりのカレーだった。東方で手に入れたと言うスパイスを使ったカレーはピリッと辛く、さらに食欲を掻き立てる味だった。牛肉もよく煮込まれていて、噛んだ瞬間にほろほろと崩れ中から旨味が広がる。僕は額に汗をかきながら一心不乱にカレーを口に運ぶ。
「おいしいか?」
「今まで食べた料理の中で一番だよ!!」
「そうか……。」
僕は直ぐにおかわりを師匠にお願いしてまた食べ始める。師匠は笑みを浮かべながら、僕がカレーを食べる様子ただじっとを見ていた。
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