第13話
今回は長くなってしまいました、文字数を一定にできるように頑張ります。
「はぁ……はぁ……し……死ぬぅ……。」
「おらぁ!死ぬ気で走れぇ!!」
僕は今鬼の形相をした師匠に追いかけられて森を走っていつ。師匠が僕の修行として最初に行ったのが体力づくりだった。僕の年齢を考慮して筋力トレーニングはまだやらないと言っていたので、しばらくは走り込みと座学をやる予定らしい。
「いいか、才能の無いお前が強くなるためには死ぬ気で取り組まないといけない。お前の体がある程度成長するまでは、体力づくりとあらゆる座学をやるから覚悟しておけよ。」
それから僕は10歳になるまでの2年間、体力づくりと座学に勤しんだ。村では文字の読み書きができる人がほとんどいなく、僕も小さいころ母の読んでくれた絵本くらいしか読めなかったので、師匠の座学はやり甲斐があって楽しかった。
「ぐぅぅ……むにゃむにゃ……。」
「……人が教えてんのに寝てんじゃねぇ!!」
「……ごべじっ!」
たまに修行続きで眠くなってしまい座学の時間にウトウトしていると師匠に吹っ飛ばされたりもした。
師匠が教えてくれたのは文字の読み書きだけではなく、様々な国の歴史の変遷、森に生息している動物や薬草の見分け方まであらゆる分野の知識を僕に教えてくれた。師匠曰はくサバイバルの知識や国同士の関係性の把握は冒険者には必須と言っていた。僕は寝る暇を惜しんで師匠の教えてくれた知識を頭に叩き込んだ。
師匠はいつも厳しい人だったが、僕が師匠から課された課題をこなすと毎回頭を撫でて褒めてくれた。母親を早くに亡くした僕にとって師匠は母替わりのような存在だった。一度だけ寝ぼけていた時に師匠をお母さんと呼んでしまったことがあるが、その時の師匠はどこか悲しそうな顔をして強く否定した。
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僕が10歳を迎えると、座学は引き続き行い体力づくりに変わって戦闘の基礎と魔力操作の修行が始まった。師匠から魔力操作を教わり、小さな火の玉が初めて出た時はすごくうれしかった。しかし、それからどれだけ練習してもうまくいかず、師匠から火属性の適正がないと言われがっかりした。
「調べたところ、お前の属性の適正は絶望的にないことが分かった、そこでこれからお前には特殊な魔力操作を教える」
「特殊な魔力操作ってどんなものなんだ?」
属性の適正がない僕に魔力の使い道が他にあるという師匠に聞いてみた。
「なら見せてやる、こっちに来い。」
師匠について行くと、師匠は大きな木の前に立って構え始めた。師匠の体から靄のような何かが漂い次の瞬間大きな音と共に木がへし折られていた。
「これは魔力を体に流すことで体を強化する魔力操作だ、これは適正関係ない技術だからお前でも習得できるはずだ。」
それから師匠に体に魔力を流すコツを教えてもらい、僕は地道な特訓を続けた。
そのほかにも剣や槍、弓矢などのありとあらゆる武器の扱い方を教えてもらった。どれも全部基礎レベルの内容で一見簡単そうに見えたが、実際やってみると奥が深くて難しかった。日によって武器を変えて、師匠から素振りや立ち回りの基本などを無意識に行えるようになるまで練習した。全身筋肉痛で最初はとても痛かったが、何度も繰り返していくうちに体も慣れたのか、痛みも治まってきた。僕は成長を実感できてとても嬉しかった。
「今日の修行は無しだ、その代わりお前には近くの町までおつかいを頼みたい。」
そんな毎日を送っていたある日、師匠が僕に近くの町に買い物に行ってほしいと頼んできた。社会勉強の一環として行ってこいとの事だ。僕は師匠から渡されたお財布と地図をもって町までおつかいに行った。
「うわぁぁ。」
町に着くとずっと師匠と一緒にいたからか、町の人混みに圧倒されてしまった。近くにいた衛兵さんにこの町の事と、おつかいの物が買える場所を聞いてみることにした。
「すみません、この町に初めて来たのですが……。」
「こんにちは、何か困りごとですか?」
話しかけた衛兵さんは20代くらいの若く好印象な男の人だった。
「この町の事全然知らなくて道を教えてもらえませんか?」
「そうなのか、じゃあ僕がこの町ジルバを案内するよ!」
衛兵さんは僕を様々なところに案内してくれた。
「ここは冒険者ギルド、腕利きの人たちが様々な依頼をこなしているんだ、君が登録できるのはもう少し先かな。」
「この市場では町で採れた野菜や果物、他の町からは装飾品や雑貨までたくさんの物を仕入れて売られているんだ。」
近くにある冒険者ギルドや市場など見たこともないところばかりでとても新鮮だった。道中にあるお店が気になり辺りを見ていると衛兵さんが説明してくれた。
「けっこう栄えているだろ、この町は林業がとても盛んに行われていてね、家具とか木製製品で有名なんだ、木材となる木だけじゃなく果物が生る木も育てていて家具屋さんとか果物屋さんみたいなお店が多いんだよ。王家の献上品にこの町の家具が選ばれたことだってあるんだよ!」
そう話す衛兵さんはとても誇らしげだった。衛兵さんが果物をお店から買って来て、僕に一つ分けてくれた。
「この町の果物はすごく美味しいんだ、良かったら食べてみて。」
そういって渡されたリンゴを食べる。蜜がたっぷり詰まっていてシャキシャキしていてこんなおいしいリンゴは初めてだった。
「すごい美味しいですね!」
「そうだろう、うちのリンゴはこの町一番だからな!坊主はこの町初めてか?うまいもんいっぱい食ってけよ!」
僕の感想を聞いた店主のおじさんは嬉しそうに豪快に笑い、おまけと言ってリンゴを二つ渡してくれた。僕はおじさんに挨拶をしたあと、衛兵さんにおつかいで必要なものが買えるお店を案内してもらった。
「今日は案内してくれてありがとうございました!」
「楽しんでくれたなら案内した甲斐があったよ、何か困ったことがあったら遠慮なくまた頼ってね!それじゃあ。」
おつかいが終わり、衛兵さんにお礼を言って別れたあと、僕は町の散策をしていた。すると、建物の間にある狭い通路に走っていくフードを被ったピンク髪の少女が見えた。少し気になってしまい後を追ってみることにした。奥に進むと女の子が小さく地面に座っていた。心配になった僕は女の子に話しかけてみる。
「大丈夫?どこか痛いの?」
少女は首を振る、どうやら違ったようだ。
「そうだ、リンゴ食べる?さっき果物屋さんから貰ったんだ。」
僕は少女にリンゴを渡すと、お腹が空いていたのかリンゴを食べ始めた。
少女がリンゴを食べた後、僕はいくつかの質問をした。
「君の名前を教えてくれない?」
「……アステル。」
フードを被った少女はアステルと名乗った。フードで遠目からは見えなかったが、服装をよく見ると装飾が施されており、商家や貴族の子どもだと思った。
「アステルはどうしてこんなところに来たの?何かから逃げているみたいに見えたけど。」
アステルは少しの沈黙の後、ぽつぽつと話し始めた。
「私、お父様から逃げてきたの。今日は私の誕生日のプレゼントにこの町の家具を買いに来たんだけど、お父様はとても忙しい人で今日も急用が入ったっからまた今度にしようって言われたの。最近は殆ど一緒に居られていないわ、きっと私なんかより仕事の方が大事なんだわ。」
どうやら寂しさが故に父親を困らせていたようだ。自分が突然消えてしまえば父親が仕事より自分のことを優先してくれると思って。
「本当はこんなことをしてもお父様を困らせるだけなのは分かってる、でもどうしても今日はお父様と一緒に居たいのよ。」
アステルの切実な心の叫びを聞く。高貴な生まれの彼女は、きっと僕が想像できないような苦労をしているのだろう。
「アステルは今までずっと我慢してたんだろう、今日くらい我儘を言ってもアステルのお父さんは許してくれるさ。むしろ今まで利口だった娘が我儘を言ってくれたと喜んでくれるよ。」
アステルの父親はきっと笑って受け入れてくれる、そうアステルに伝える。
「じゃあこれは僕からのプレゼント。」
そういって僕は生前の母が縫ってくれたハンカチを渡す。このハンカチはシルクで出来ており、花の刺繍が施されているもので彼女に渡しても失礼ではないと思った。母も僕のようなハンカチを普段使わない人間よりも彼女のような人に使われた方が喜んでくれると思った。
「これをくれるの?すごく嬉しいわ!」
アステルの顔は、先ほどまで涙を流していたが今はすっかり笑顔になっていた。少しでも彼女を慰めることが出来たのなら、ハンカチを渡した甲斐があるというものだ。
ふと空を見ると日が傾き始めていた、僕はアステルに父親のもとに戻るように言った。
「そろそろお父さんのもとに戻った方がいいと思うよ、きっと心配してる。それに早く戻らないとお父さんと一緒に居れる時間が減っちゃよ。」
「そうするわ、今日はありがとう。あなたの名前を聞いてもいいかしら?」
「僕はアレク、それじゃあまたね!」
アステルに別れを告げた僕は師匠のもとに戻る。家に着いた頃には夕暮れになっており、僕は師匠にどうして遅くなったのかとても叱られた。心配故だとわかっているがやっぱり師匠が怒ったときはとても怖いと改めて思った。
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