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うん、よく寝れた。さすが、公爵家のベットである。
王城までは転移魔法を使うので一瞬だ。しかし、ちょっと寄りたいところもあるので、早く行ったほうがいいだろう。
というわけで、マリには早めに行くことを伝え、転移魔法を起動させた。
一瞬にして景色が変わった。ここは魔法師団の私の執務室だ。
すると、タイミングよく誰かが入ってくる音がした。
「ふわぁ~、おはよーございまs・・・!?団長じゃないっすか!」
「久しぶりね、ラインハルト」
私はそう返した。ラインハルト、ラインハルト・アーリエはオレンジ色の髪と瞳をもつ魔法師団のイケメン副団長だ。
この男は見た目も中身もチャラい男である。
だが、見た目に反して、魔法に関しては相当な実力をもっており、この王国内ではトップクラスの実力者でもある。
「な~にが久しぶりですか!エルヴィア王国魔法師団団長様?また執務ほっぽり出して!」
ラインハルトの小言が始まった。ずっとなにか言っているようだが無視しよう。
「まあ、そんなことよ「そんなことじゃないっす!」うるさい・・・そんなことより今日は国王に呼び出されているの。」
「ああ、あの婚約破棄事件のことっすね」
「そうよ。だからラインハルトにもついてきてほしいの」
「部外者がいていいんっすか?」
「ああ、なんかイやな予感がする。それに中までは入れないだろうけど・・・」
「わかったっす」
こういうときの予感はだいたいあたることが過去に実証されている。
ラインハルトはそれを知っているため、了解の返事をくれた。こういうときに有能な男である。
私はラインハルトをともない、国王の執務室へ向かった。
ドアをノックし、返事を確認した後、ラインハルトを外に待たせ、中に入った。そこには、国王だけでなく宰相と騎士団長の姿もあった。どうしてここに宰相と騎士団長までいるのか。そう疑問に思っていると、国王が口を開いた。
「よく来た、ルティアーナ嬢。今回なぜ余が呼んだかはわかっておるな」
国王、オルト・エシュリアはそう切り出してきた。オルトは王家の色である金髪に空色の瞳をもつ威厳のある美形だ。なぜかこの国には昔から美形が多いそうだ。
「ええ、姉の婚約破棄の件ですね。ですが、なぜここにキシュール様とアイゼン様まで?」
私は入ってからの疑問をぶつけた。この疑問には宰相が答え始めた。
「この婚約破棄には王太子殿下だけでなく、私の息子とアイゼンの弟、そしてあなたの義弟も関わっているのです」
宰相、キシュール・ヴァレンはそう言い放った。キシュールは藍色の髪と瞳をもつこれまた塩顔の美形である。
アイゼンというのは隣にいる、騎士団長の名前である。アイゼン・イジャック、紅の髪と瞳をもつため、赤獅子の異名をもつ変わり者のイケメンである。
しかし、姉の婚約破棄に義弟が関わっているなんて初耳だ。頭の痛い問題になってきた。これでは、私も無関係です、なんて言えくなってきた。なんせ、クラヴィス公爵家の仲は最悪なのだから。
ここで宰相が今回の事件について語り始めた。
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もともと王太子、イザーク・エシュリアとミゼリアは幼い頃より婚約関係にあった。イザークはわがままなミゼリアを嫌いながらも婚約者としてきちんと振舞っていた。
この国には貴族たちのための学園がある。一年前その学園にリリアンヌ・マーレイというひとりの男爵令嬢が入ってから学園の様子が大きく変わった。
リリアンヌもともと市街に住んでいた平民であったが、マーレイ男爵の子であることがわかり、後妻として入った母親とともに貴族の仲間入りをした。
その性格は明るく天真爛漫であるが、たまに突拍子もない行動をとり、その物珍しさから周りの貴族令息たちの心を虜にした。
それは、イザーク、キシュールの息子ケルソン・ヴァレン、アイゼンの弟ルーク・イジャック、ルティアーナの義弟アザール・クラヴィスも例外ではなかった。
それを面白く思わないものもたくさんいた。それはミゼリアをはじめとする令息たちの婚約者の令嬢たちであった。アザールには婚約者がいないが、他の者にはそれぞれ婚約者がいた。
その婚約者の令嬢たちは憤慨し、ミゼリアを中心にリリアンヌをいじめ始めた。ケルソン、ルークの婚約者は手を出してはいないが、ミゼリアを止めもしなかったという。
このことを知ったイザークたちは手をまわし、先輩たちの卒業パーティーにてミゼリアに婚約破棄を一方的に言い渡し、国外追放にした。ケルソン、ルークも婚約者との関係は雲行きが怪しいらしい。
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「とまあ、こんな感じでしょうか」
と宰相がしゃべり終わった。
うん、最悪の婚約破棄の仕方である。まず、先輩の卒業パーティーですることではない。
一番の被害者は卒業する先輩方であろう。自分たちの卒業パーティーにこんな茶番を見せつけられて、主役を奪われた。やるなら他所でやってほしい。
そんなにひどい顔をしていたのだろうかアイゼンに笑われた。
するとその空気を断ち切るように国王が口を開いた。
「こんなかんじで馬鹿どもがやらかしてくれたわけである。しかも、マーレイ男爵令嬢と婚約すると言い出してな、もう手におえん」
国王は疲れた顔をして言った。
他の二人も同意するように激しく頷いた。
私も同感である。
「もう馬鹿どもはなんとかしようと思う。だが、一番の問題はクラヴィス家だ」
確かにそうだ。クラヴィス家は当主は使い物にならないし、長女は国外追放、長男は馬鹿だし、で誰もいないわけである。私しかいない。あれ・嫌な予感が的中しそうだぞ?
「というわけで、ルティアーナ嬢にはクラヴィス公爵家当主になってもらうぞ?」
「・・・はあ?」
国王の前であるまじき言葉遣いをしてしまい、宰相ににらまれる。
「おほん・・それは難しいかと。父を引きずり下ろすような材料がないですから」
「あるぞ」
え、あるの。
「何件か暴行事件の隠蔽がある。それを使えばいい。証拠は用意しよう」
何件も暴行事件があるのか。なにしてるんだ。
だが、次の当主はアザールだとされている。このまま引きずり下ろしても次の当主はアザールになる。
「そこは問題ないぞ」
心を読んだように国王は言った。
「次の当主はルティアーナ嬢であると言わせればいいのだ。余が圧力をかけて言わせて、証人を何人かようしよう。それにそなたは魔法師団団長、文句ない地位をもっているだろう」
そこまで言われるともう断れなかった。それに、何も持たない私が次期当主を排除するにはそれしかないというのもわかっている。
私は意を決して了承の返事をした。
「わかりました。やりましょう。国王様もご協力をお願いいたします」
国王はニヤリと笑った。
「よく決断してくれた。全面的に協力しよう」
そう言うと宰相が横からスッと契約書を出した。
はなから用意されていたようだ。なぜか国王にいいように丸め込まれた感があり、少し腹が立つ。
内容を確認し、署名すると魔法によって契約がなされた。これでこの契約を破れば罰則がつくことになる。
こうして私は芝居を打つべく、国王と契約を交わした。
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