秋の俳句(素人です、すみません)
『揺りかごや 乗り越し 稲穂の海の中』
電車で寝過ごして、降りるはずの駅を通り過ぎてしまった経験はお持ちですか?
あわてて降りたら“はじめまして”の小さな駅で、周囲には見渡す限り広がる田んぼ──と知った時のあの絶望感といったら……。
眠くなるのも乗り物酔いの一種だと言いますが、いや、本当に気持ちよく寝てしまっていました。
戻りの電車が1時間で来てくれて良かった。
よく晴れた秋の空、田んぼを渡る風、のどかな烏の鳴き声。ベンチでボウッと電車を待つ1時間──じつは、けっこう幸せでした。
『幼子が宇宙語るか 月笑う』
仲秋の名月。珍しく夜のお散歩などをしておりましたら、親子の会話が聞こえてきました。
舌足らずな声が「月の重力はね──」「アポロ宇宙船がね──」と、一生懸命説明しています。
「へー、そうなんだ」「すごいねぇ」と優しく相づちをうつお父さん。
空を見上げたら大きなお月様。私にはその時なぜか、お父さんの声がお月様から聞こえてきたような気がしたのです。
お月様がお父さん。フフッ。
子どもを見守る優しい笑顔の名月が浮かんでいました。
『またあした お歌がはじける 秋の夕』
初めて訪れた町の裏路地で迷っていたら、オルガンの音が聞こえてきました。
(懐かしいな)と思っていたら、次の瞬間元気いっぱいの子どもたちの歌声が始まってビックリ。
「みなさんさよなら またあした」
保育園でしょうか? お家の人のお迎えが嬉しくて仕方ないのかな?
『またあした』
変わらぬ明日がくることを疑いもしなかったけれど、世界が突然変わってしまうこともあるのだと教えられた今年1年でした。
『残る虫 嫌われジョーカー凛と笑む』
季語は『残る虫』。秋が深まる中、最後まで生き残って鳴く虫のことだそうです。
トランプのババ抜きをしていて、そういえばババ抜きのジョーカーも対になる相手は1枚も無くて最後まで残ってしまうことに改めて気づきました。
しかも、みんなに嫌がられて……。
ババ抜きのババと幼い記憶の中の、とある意地悪婆ちゃんが重なりました。
いつもビシッと和服を着こなし、髪もキチンと結い上げて颯爽と歩く。
毒舌なのにご近所には人気があって。でも息子や娘には騒動や喧嘩の種をわざと蒔いてまわるので煙たがられていました。
髪の毛が真っ白になり、心配する子どもたちに同居しようと言われてもフフンと笑って独り暮らしを続け、最後も自分で救急車を呼んだそうです。
子どもたちに知らせがきたのが明けて元旦。元気だった婆ちゃんの急死の報せにパニック。いきなり大騒ぎのお正月です。
意地悪と悪戯が大好きな婆ちゃんはあの世で小躍りしていたかもしれません。
救急隊の皆さんその節はありがとうございました。
とぎれとぎれにか細く鳴く虫の声。
婆ちゃんがこれを読んだら、「鳴く虫はオスだわよ。一緒にしないでちょうだい」と、叱られてしまうかもしれませんね。