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4話

「ウィリアム様、私たちは全て知っていたのです。貴方たちが今日の祝賀パーティーの場で私を断罪し、私の家を断罪し、国王陛下へ責任を要求し、現王太子様から地位を奪い、自らがその座に着こうとすることを。そしてそれには側妃であるアネット様とその生家であるアザール侯爵家が関わっていることもです」

「ふん!何を言っているのだ。貴様がマリーをいじめていた証拠はすでに見せたであろう。それ以上のものだってあるのだ。罪人が我々を侮辱するな」


 シルビアの言葉を、ウィリアムは鼻で笑い突っぱねている。どれだけの自信があるのか、シルビアが罪人であることを確信しているようだ。周囲はウィリアムからの婚約破棄騒動から話の流れが変わり始めているの感じ、これからの行方を見極めようと皆黙っている。


 シルビアはわざと大袈裟にため息をついて注目を自分に集める。茶番劇はもう始まっているのだ、少しは悪役令嬢らしく振る舞おうと覚悟を決めた。


「先ほどのあれを本気で証拠だというのですか。あぁ、おそらく手引きしてくれたアザール侯爵に『これで大丈夫だから』とでも言われたのを信じ切っているのでしょう。貴方は傀儡の王になるためにアザール侯爵に教育されているのでしょうから」

「俺を馬鹿にしているのか!」

「そのような感情すら貴方には持っていませんわ。何度も言いますが、私たちは今日貴方たちが何をするのかを知っていました。だからそれに対する備えだって万全だということです。ただ、まさか貴方たちの用意したモノがそこまでお粗末なものだとまでは知りませんでしたけど」

「やはり馬鹿にしているのではないか!」


 今も壇上で騒いでいるウィリアムを放っておくことにして、シルビアは最初に貴賓席を見やる。すでに許可を出している国王陛下が軽く肯き、王妃殿下は今も扇で顔をほとんど隠されているがこちらも肯いたのが分かった。アネットは親子らしくウィリアムと同じ表情でシルビアを睨みつけているし、アザール侯爵もアネットの側で難しそうな顔をしているが何か企むにしても近衛騎士が近くを囲っており動けないでいるようにも見える。


 次にシルビアはここでも動きが大きく見えるようにドレスを翻して、自分を囲むように壇上を見守っていた参列者たちを見回すと、淑女らしい笑みを浮かべて優雅にカーテシーをし口上を述べた。


「さて、突然の出来事に驚かれている会場の皆様にもわかるようにご説明いたしましょうか。折角の茶番劇ですもの、どうか最後までお楽しみくださいませ」


 場の空気を握ったことを察したシルビアは体を戻し、ちらりと会場の端を見る。そこにはミリアムと数人の協力者が準備をして待っていた。ミリアムの顔は非常に楽しそうで貴族令嬢にはあるまじき表情だったが、悪役令嬢シルビアは見ないふりをして話を始める。


「最初に、私がウィリアム様と非常に仲がよろしいマリー子爵令嬢に対して嫌がらせをしていたというものですが、私は否定します。ただのこの一言では納得していただけないでしょうが、先も申しました通り私たちはこの日が来る事を知っていたので、常に対策を取っておりました。その証拠をお見せいたします」


 シルビアの言葉に応えるようにミリアムたちがシルビアのもとへ集まってくる。その手にはそれぞれ魔道具や箱を持っていた。息のあった様子で組み立てられた様々な魔道具によって会場の空間に映像が映し出されている。定点で映されていたのは学園の放課後の教室や廊下と階段であったが、そこにいる人物たちの行動を会場の参列者たちが理解するとざわつきが一気に大きくなった。が、それもシルビアが手に持っていた扇子で反対の掌を叩くとシンと収まるので、シルビアはにこりと微笑みを作り説明を始めた。


「ご覧になっているのは映像魔道具で撮影された動画です。順番に、放課後ウィリアム様たちがマリー嬢の教科書をボロボロにし、支給の運動着を切り裂き、階段から落ちる打ち合わせをしている場面、つまり彼らの自作自演の証拠です。ご存知かと思いますが、映像魔道具は実際に起こったもの以外を撮ることが出来ません。また撮った日時なども魔術証跡が残るため偽造できず、我が国の裁判でも証拠と認められている魔道具になります」


 シルビアたちの国は魔道具開発が目覚ましく、他国よりも抜きんでた開発技術を持っている。映像魔道具も国独自で開発した魔道具の一つで、国の主要な建物には勿論、個人でも商店や貴族の屋敷などに置かれており、様々な事件や事故に証拠として採用されている。


 今回シルビアたちは学園に映像魔道具をいくつも設置していた。特にウィリアムたちがよく使いそうな場所や、階段付近には死角がないように設置してある。それでも学園内でウィリアムたちが行動しないことも想定し、他にもシルビアが無実を証明できるように準備もしてあった。せっかくなので合わせてお披露目することにしていたシルビアは、ミリアムたちに魔道具達と一緒に持ってきてもらった箱から書類を取り出した。


「まぁ、この映像魔道具だけでも十分確かだと思いますが、こちらもご覧ください。これは映像魔道具で撮影された同じ日時に私がいた正確な位置の証明書です。私は王族の婚約者としての責務のため、自分の位置を特定するアクセサリー型の魔道具を常に持ち歩いており、この証明書はその魔術証跡を書き起こしたものです。そしてこの証明書と映像魔道具の魔術証跡を書き起こした証明書を合わせて表示させますと」


 シルビアが二枚の証明書を合わせて箱のような魔道具の中に入れる。これは専用の用紙に書かれている魔術証跡を読み取り空間に何枚も重ねて表示させることができる魔道具で、王国軍が使っている特殊なものだった。すでに先ほどのウィリアムたちの映像は消え、会場の空間には新しく王城周辺の地図が展開されると、その中には色分けされた点が2つずつ、何組かに光っているのがわかる。


「私の位置記録魔道具と映像魔道具の魔術証跡は地図上の点で表示され、同じ日時のものは同じ色で表示されています。例えば、ウィリアム様たちが教科書をボロボロにした日時、私は王城にいたことがわかりますよね。この日私は王子妃教育のため登城しておりました。仮にこれすら認めない場合でも複数の証言と城にある魔道具によって記録が残っています。また、他の点を見比べても同日時に同じ場所で表示されているものがないことがお分かり頂けるかと思います」


 シルビアの言うとおり、地図にある点はどの色も重なることなく光っていた。学園に光が多いのも、ウィリアムたちの行動を記録した映像魔導具の魔術証跡が本物だからだろう。シルビアの位置記録も王城が多いのはお妃教育で多忙なシルビアの証明になっているとも言える。


「こんなのでたらめに決まっている!俺たちを貶めようとしているシルビアの自作自演だ!!」

「私はきちんと、ウィリアム様たちがマリー嬢がいじめられたという証拠を捏造している証拠と、自分自身がそれに関与していない証拠を用意しました。ウィリアム様の用意なさったものでは私がやったという証拠にはなり得ませんし、ウィリアム様が何を喚こうが皆様がどう判断するかは一目瞭然かと思いますわよ」


 もはや王族らしさもなく大声で喚くウィリアムに、シルビアは貴族の淑女らしく対応する。その態度にすらも腹が立つのかウィリアムは今にも壇上から飛び降りてシルビアに掴みかかりそうである。そんなウィリアムの腕にずっとくっついていたマリーが、どうにかウィリアムに援護射撃をしようと割って入る。



「で、でもこのような証拠を用意したとしても、シルビア様は真の罪にはきちんと償うべきだと思います」

「マリー子爵令嬢、それは私が国家転覆を企んでいるなどという不可解な発言についてでしょうか」

「そうです!私に対して行った出来事は私が許せても、国や民に対する裏切りは許されるはずがありませんもの」


 自信満々に答えるマリーに、シルビアは頭を抱えたくなったが今は悪役令嬢シルビアとして茶番劇に参加しているのだ。心底嫌そうな顔して二人を煽るような台詞を考える。


「貴族である私が国や民を裏切ったというのですか?面白い事をおっしゃりますわね、流石ウィリアム様のお心を射止めた方は考えることも愚かですわ」

「ひどい!」

「貴様、マリーをいじめるな!なんて可哀想なマリー。泣かないでおくれ、きっと君を王妃にして笑顔にして見せるよ」

「ウィリアム様、大好き!私、アネット様みたいな素敵なドレスを着て貴方と踊りたいわ」

「勿論、何着でも用意して何晩でもパーティーを開こう」

「まあ、嬉しい!」


 目の前の二人は茶番劇だと思っていないはずなのに、勝手に盛り上がって抱きしめ合っているのを見て、シルビアはため息をつきたいのを我慢する。近くにいるミリアムなんかは肩を震わせているどころか、口からプスプス殺せていない笑い声が漏れており、他の協力者に小突かれているというのに。二人の甘ったるい雰囲気のせいで弛んでしまった空気を戻すため再度、悪役令嬢シルビアはウィリアムたちを煽ることにした。


「仲睦まじいのは結構ですが、果たしてウィリアム様は本当に玉座に着くことができるとお思いですか?我が家が国家転覆など本当に企んでいると考えているのですか」

「当たり前だ!貴様らロッシュ家の紛い物の忠義も、俺の正義を以てすれば見破ることも簡単なのだからな」


 ウィリアムが高笑いをしようとしたところ、会場の扉の一つが大きく音を出して開けられた。そこから入場してきたのは軍服を着て将官のみが許されたマントを翻し、黒髪のポニーテールを左右に揺らしながら颯爽と歩く一人の麗人であった。


「あら、代々この国の軍事を担い一番の忠義を持って仕えていると自負する我がロッシュ家に対して、偽りの王族がそのような態度でよろしいのかしら」


 好戦的な瞳をウィリアムたちに向けながら言い放つ軍服の彼女は、シルビアの横に立つとそっと肩に手を乗せ労うように微笑みを向けている。シルビアは彼女を見て肩の荷がだいぶ楽になったのを感じた。


 相当自分には悪役令嬢が向いていないらしい。それでもシルビアは貴族令嬢としての矜恃から姿勢を崩すことなく、まっすぐと軍服の麗人である自分の母親を見る。


「お母様、間に合いましたのね」

「シルビア、よくやったわね。あとはお母様たちに任せなさい」


 そう言って数歩前へ歩んでいった母親の今日という日のために準備してきた年数が自分とは全く違うことをシルビアは知っている。そうしてシルビアは、この先の断罪劇を安心して大人たちに託し参列者たちに混ざって見守ろうとミリアムたちと移動し始めるのだった。


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