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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

回復術士は復讐の道を嗤い歩む

作者: 松杉ヒノキ

 普段は敬虔なる信徒たちの静かな祈りが満ちる教会で数多の怪我人が苦痛に喘いでいた。

「うう…痛い、痛いよぉ…」

「足が、足がぁぁ…」

「いやぁ、死にたくない、まだ死にたくない…」

「聖女様!次はこちらです!」

「はい!大丈夫ですよ。すぐに助かりますからね。」

その中でも一目で重傷と分かる者たちが集められた一角へ向けて凛とした女性の言葉が響いた。次いでどこかはかなげでそれでいて強い芯を感じさせる声がそれに答えた。聖女と呼ばれた女性が両手をかざし怪我人へ

「ヒール」

と唱えた。するとその両手から柔らかな緑色の光があふれ怪我人を照らし、たちまちにして流血が収まり痣が消え失われた右足さえも戻っていた。怪我人だった者たちは信じられないといった顔で辺りを見回し、聖女の姿に気付いた。

「聖女様!ありがとうございます!本当にありがとうございます…!」

右足を失ったはずの男が彼女の前に跪き感謝の言葉を捧げた。頭蓋骨が半分われていたはずの少年と腹部から大量に出血していたはずの女性が男性の隣で同じ姿勢になり感謝の言葉を述べた。


「まだ傷ついている方々はいらっしゃいますか?」

「はい。しかし聖女様のお力を必要とするほどの者はもうおりません。」

聖女の問いに対し彼女を重傷者達のもとへ導いた鎧姿の女性、女騎士が答えた。

「そうですか。それは良かった…うぅ」

「聖女様⁉おい誰か!聖女様をベッドへお運びするぞ!」

突然に体をふらつかせた聖女をとっさに抱き留めながら女騎士は周囲に助けを求めた。何人もの人々に支えられながら教会の奥へと運ばれていく彼女を見つめながら助けられたばかりの少年は男性に問いかけた。

「ねぇ、聖女様はどうしちゃったの?どこか痛いの?」

「そうか君はまだ知らなかったか。聖女様の回復魔術はまさに神の奇跡だ。なくなったはずの手足まで元に戻せるのはあの人しかいない。だけど代償がね、あるんだ…。」

「代償?」

「あの人は傷を治すときにその傷の痛みを感じてしまうんだそうだ。」

「⁉」

絶句する少年。同じく助けられたばかりの女性が続けて語った。

「体勢を崩してしまわれたのは私の傷を治したせい。もうどうしようもないほどに血が流れていたわ。医学を勉強していたから分かったの。もう私は助からない、傷をふさいでも死んでしまうって。聖女様はあの時の私と同じ、血が無くなり過ぎた状態になったの。これを見て。」

女性は自分の服を見せた。このあたりでよく見られる植物繊維の服には血の跡が(・・・・)ついていなかった(・・・・・・・・)

「流れ出ていったはずの血まで元に戻す。まさに奇跡の力よ。でも、その代償が、あんな…。」


 翌日の朝、女騎士は白い息を吐きながら扉の前に立ちノックしながら声をかけた。

「聖女様。入ってもよろしいでしょうか?」

許可を得た女騎士は部屋に入った。聖女は寝間着から普段の活動着へと着替え終わっていた。

「この季節の夜は冷え込みが激しいですが大丈夫でしたか?」

「ええ、暖炉のおかげで快適でした。それよりも何か知らせがあったのでは?」

「…ええ。実はあの後に領主からの使者が参りましてふざけたことを抜かしていったのです。『援助が欲しければ三日後の晩に一人で私の閨に来い』などと!『臣下の礼をとれ』だけでは飽き足らずにこのような。あの色狂いの愚物が!」

三週間前、聖女たちはこの地域で活動、魔物の襲撃による負傷者たちの治療、を始める際に地域を治める領主に人員と包帯、薬等の物資の援助を求めた。求めていたものは確かに送られた。しかし彼女たちが必要としている数量には全く届かない。なのに領主は自分に対する感謝を強制し今回に至っては自身の下劣な欲望を表してきた。領民がどうなっていようと構わないのか、と憤る女騎士に聖女はこともなげに言った。

「分かりました。参りましょう。」

「聖女様⁉」

「どのみち領主様とは会談せねばならなかったのです。魔物の活動が活発化してきていることをお伝えするいい機会です。」

「何を言っているのですか⁉奴はあなたを」

「分かっています。私もそこまで世間知らずではありません。しかし二人きりで話し合いができる機会を向こうが用意してくれたのです。利用しない手はないでしょう。それに」

一度言葉を切った聖女の顔はとても穏やかでどこか嬉しそうにすら見えた。

「それに私は信じています。どんな方であろうとも私の言葉を通じて必ずや神の意志は届くと。それが誰であろうと。だから私を信じてください。」

そう言って微笑む彼女を前に女騎士は何も言えなかった。

三日後、領主は上機嫌で寝室へ向かっていた。例え聖女ともてはやされていようと自分の前ではただの小娘に過ぎないことが証明されたのだから。寝室では聖女がベッドの傍で重厚なイスに腰かけていた。暖炉の火が彼女の横顔を照らしていた。彼女の、服を脱ぐところを見られるのが恥ずかしいから背を向けて欲しい、という要望を素直に聞き入れたのは彼女が想像以上に美しかったのでさらに上機嫌になったから。だから気付けなかった。背を向けた数秒後、彼は後頭部に凄まじい衝撃を感じ床が壁となり迫ってくるのを見ながら気を失った。


「本当は私、我慢できないんですよ、他人の痛みを感じてしまうことが。初めは善意と義務感から力を使っていました。でも皆さん我が儘なんですよ。傷薬を塗って一週間もすれば治る傷まで、治してくれー、治してくれー、って。」

「ぐ、ごああああぁぁぁ‼」

聖女はそう言いながらベッドの四隅から伸ばされたロープに四肢を拘束された真っ裸の領主の腹にナイフを突き立てた。領主の口から絶叫が飛び出ようとしたが布を詰め込まれていたため意味のなさないうめき声にしかならなかった。

「血を失くし過ぎた人だったらフラフラになるし失明した人だったら視界が曇るし手足を失った人だったら自分のものを動かすのも一苦労になってしまうのにそんなのお構いなしに頼んでくるんですもの。ああ、だけど」

聖女は領主の顔を覗き込んで言った。

自分が付けた傷なら(・・・・・・・・・)我慢できるんですよ(・・・・・・・・・)。」

そう言いながらナイフを滑らせ腹を裂いていった。領主はさらに絶叫になれなかった声を上げ続けたが次第に小さくなり、やがては息の根まで止まる-

「こんな風にね。ヒール」

-前に回復魔術がかけられ、腹の傷は消え去った。

「こんな傷を癒したらしばらくお腹を抑えて動けなくなっていることでしょう。後頭部を殴られてできた傷なら私も昏倒していたはずです。普通ならね。だけど私がやったことなら耐えられるんです。不思議ですね。」

聖女は穏やかに微笑みながら恐怖に染まった領主の目を見て言った。

「では応援の人たちと包帯や薬、食料等をこちらの望んだ分だけ用意してくれますか?」

聖女の問いかけに領主は必死でうなずいた。それを見て聖女は安心したように言った。

「良かった。契約成立ですね。では、続けましょうか。」

領主は目を見開きどういうことかと問いかける声を発した。

「大丈夫ですよ。傷も血の跡も(・・・・・・)残りませんから(・・・・・・・)。それに何所を刺したら命に関わるのか医学をかじっているので知っています。」

そう言いながら彼女はナイフを振りかぶり

「これは復讐なんですよ。私にふざけた態度をとり続けたあなたと『聖女』という役割を強要した神に対するね。私が傷つけ、私が癒す。最高に冒涜的ですよね。朝まで楽しみましょう。」

領主の心は絶望に染まった。


 それから一週間後、3倍以上に増えた人員と物資のおかげでその地域の役目を果たした聖女たちは次の目的地へと向かって馬車を走らせていた。

「まさかあの領主がここまで協力的になるなんて…最初からこうしてくれれば良かったのに。いったいどんなお話をされたのですか?聖女様。その…間違いがなかったのは知っていますが。」

女騎士からの問いに聖女は真面目な顔で答えた。

「私が胸に抱える思いを隠さずに一晩かけて伝えたのです。それだけです。」

聞いてもなお不思議そうな顔をしている女騎士を横目に聖女は、かつて一介の回復術師にすぎなかった女性は

(ああ、次はどんな復讐ができるのか今から楽しみだな。)

その胸に暗い炎を宿しながら過ぎ去っていく景色を眺めていた。




どうも杉松ヒノキです。

今回は「起承転結を意識して書く」という目標の元、なろう発の盗作・パクリ疑惑のある作品についてまとめられたサイトを閲覧していた時にぱっと思いついた内容でお送りしました。つまり内容に深い意味は全くないということです。

今回書いてみて分かったことは起承転結を意識して物語を書くと長くなる、ということです。そのため削った表現や展開がたくさんありました。連載作品だったら話を複数に分けられるのでこの問題は解決できたでしょう。

というわけで次は連載作品に挑戦しようと考えています。でもいきなり長期連載はきついので個人的に気に入っている「エリスの聖杯」(後日談抜きの本編のみ)ぐらいの長さでまとめてみようと考えています。できるとは言ってませんが。

ではまた!

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