歴史とはしょーもないことの繰り返しである
投降前に一番悩んだのが、行頭に1マス空けるかどうかでしたが、ぶっちゃけそれ以前の文章能力であることに気づいて、どうでもええわになりました。
気が向いたらワシを鍛えていただけると嬉しいです。
俺は自宅にある有線式のコネクタを頚椎のデバイスに差し込みながらARゴーグルのブラウザを立ち上げ、一つの企業サイトを確認していた。
『株式会社ディスカバリー』の公式サイト、そこのスタッフが働く現場は宇宙空間である。
この時代、転職希望のエントリーは頚椎部に挿入するコネクタととARゴーグルさえあれば24時間いつでも好きな時に可能で、こいつは統合拡張システムと呼ばれている。
時は西暦2222年、2120年から始まり2132年に終結した第三次世界大戦から80年が経過したのが現在だ。
数々の予言や予想、あるいは想像や妄想に反し核兵器が使われることがないまま終結した第三次世界大戦は地球中の人口を確かに減らしたものの、地球自体に致命的な汚染を残すことなく終結できたのは不幸中の幸いと言えるだろう。
第三次世界大戦の主人公格は、文字通り世界の中央を目指した中国だ。
現在から数えて200年以上前から起こる起こるといわれ続けて2100年代まで引っ張ったおかげで、地球の人口はとんでもないことになっていた。
その中で数百年前は減っていくと予測されていた国家の中のうちの一つ、中国は順調に総人口を増やし続けていて、その人口爆発は悩みの種であり続けていた。
彼らは強権を揮える政体をとっていたため、増え続ける人口の一部を計画的に他国に『輸出』し、そこに根付かせることで対処していたが、そういう対処療法もいい加減限界と来たところで宣戦布告を行ったのだ。
中国と、中華の人民を養うには地球という土地そのものが必要と言える……というのが当時の彼らの言い分である。
彼らとしては後々も使わねばならない土地であり、守る側としても放棄していい土地なんてものは存在していない。
まるで示し合わせたかのように通常戦で始まり、通常戦のまま終結したのが第三次世界大戦……と綺麗に締めたかったが、そういうわけにははいかなかった。
まずは現代において『第四世代VRシステム』とカテゴライズされることもあるI.E.S.の登場だ。
この技術の理論が初めて世に出たのは2100年になる直前あたりだったはずで、頚椎を神経網ごと電子デバイスに置換するという発想は倫理的な問題で不可だろうとされたのは言うまでもない。
しかし倫理も何もかも吹っ飛ばして人的損耗を気にしない国というのは探せばあるもので、その最たるものが中華人民共和国だった。
なお技術的に確立するまでどれほどの人的損耗があったのかは今現在でも公表されていないし、そんな彼らでさえ軌道に乗るまでにかなり時間がかかった。
最初の名目は次世代のVRゲーム機の開発で、実際に中国人たちによるゲームプレイ動画などが積極的に発表されていた。
短命に終わった『第三世代VR』の一般発売用と同様のキャッチコピー『初の完全移行型VR』と銘打たれたそのプレイ動画は世界中にいるゲーマーの注目を集めたのは言うまでもない。
頚椎を電子デバイスに置換するというリスクを突破しさえすれば"第三世代の失敗をカバーしつつ完全に仮想世界に自身を投影できる"というのは、長年の夢の実現なのだ。
中国人に限定されたそのサービスとプレイ動画はまさに羨望の的と言えただろう。
特色と言えるべきところは、ソフトウェア関連はオープンソースであり、動画を公開しているプレイヤーのネットワークIDを公表しメッセージや第四世代用に開発したアプリケーションを渡せるようにしたということだろうか。
これは「どうせお前らのところじゃこんな無茶はできるめぇ」といったものもあるだろうが、この技術は平和利用のためですというプロバガンダも含まれていた。
そんなこんなで頚椎置換手術を受けた中国人が移民をする場合も、多様性を重要視する欧米なんかは受け入れざるを得ず、自然と世界中にI.E.S.を扱える中国系移民が増えていくことになる。
第三世代VRシステムの失敗の理由は、肉体を疑似催眠状態にしたまま電波で脳波を操作し白昼夢のように仮想世界を作り上げるというところにあった。
脳は自身が起きていると判断し仮想現実の肉体を脳波で操作するのだが、脳から体に伝達される神経信号を止めるすべはない……夢遊病患者の量産体制が完成するわけだ。
第三世代VRシステムは軍の用途には不適格とされ、医療用として再開発して空前の大ヒットを起こしたものであり、体を自由に動かせる一般人向けではなかったというだけだったりする。
名誉のためにいうが、医療用途としては現代においてもベストセラーであり、第三世代VRシステムの思想自体は間違っていないというのは確かである。
そして、このI.E.S.のキモのうちの一つは完全に仮想世界に意識を移行させつつ、脳から頚椎神経網と通して体(あるいはその逆)に伝わる神経信号を選別し、通したり通さなかったりを選別できるところにあり、ARシステムも同時に扱えるところにある。
ようはFPSゲームで軍の訓練を体感しているのかARでサバゲをやっているのか、はたまた実際に自分が軍人になってしまっているのか、システム側でサポートされない限りその区別が全くつかないのだ。
また、神経信号を選別できるので実際の肉体が傷ついても痛覚信号を遮断してしまえば痛みを感じないパーフェクトソルジャーになってしまう――頭部の痛覚は防げないがそこへの被弾は即死みたいなものなので考慮されない。
そしてある時、つまり2120年にFPSゲームをやっているつもりの中国人や中国系の移民が一斉に歴戦の兵士となって戦闘行為を始めたのだ。
そしてもう一つの技術的なキモに、個々のデバイスがホストでありクライアントであり、電波の中継基地にもなりえるという機能がある。
空と海は艦船や航空機が中継基地やホストになればいいが、無数の人員が点在する地上では車両だけに任せるにしても電波の有効距離の問題がありなかなかそうはいかない。
ラグのない超高速無線通信は数ある周波数帯の中でも上のほうを使用することになり、壁を抜けられないだとか、直進するにしても距離が短すぎるだとか数々の問題があるが、それを個々の兵士がつけているデバイスに中継機能を持たせることでその有効半径を実質的に無制限であるかのようにしたのだ。
これにより各"プレイヤー"はラグなくその時々に応じた最適な"ミッション"が通達され、ゲームの報酬目的で嬉々として世界中に攻め込んだのだ。
国土を内外から食いちぎられた各国は防衛に苦心し、慌ててI.E.S.の研究を加速させたがそれでも中国のように"パーフェクト・ソルジャー"を作り上げるという思い切ったことはできない。
この時期に投入されたARとVRを統合したシステムが、現代のI.E.S.の大本となっているわけだが、"パーフェクト・ソルジャー"を相手にするには確かに力不足感があるのは否めないだろう。
ともかく、核兵器を持つ国家はその使用も視野に入れざるを得ない、というところまで来た時点でこれまで存在しなかった種類の爆弾が投下された。
犯人は、日本の1企業である。
その企業は短命に終わった一般商用第三世代VRの末期にも同様のことをやらかしていた。
各世代VR、あるいは高性能次世代機が発売されるたびに毎度のごとくVRエロゲを作ってきた老舗HENTAIゲーム開発会社がやらかしたのだ。
神経信号を選別できない第三世代VRエロゲはあまたの"廃人"を作り上げ驚天動地の社会問題を引き起こしたものである。
世界中が糞忙しいデスマーチに襲われている中で唐突にメディア各社を呼び出し、言い出したのは「平和のために"弾"を全部打ち尽くそう」であり、当時の人々の反応は当然ながら「何言ってんだこいつ」である。
中国にとって痛恨の誤算は、プレイヤーのネットワークIDは公開されており、戦争が始まっても今だダイレクトにコンタクトが可能なままだったというところにあるだろうか。
HENTAIゲーム開発会社渾身の第四世代VRエロゲは記者会見時点で既知のIDを持つ兵士たちに送信済み……男性用・女性用それぞれ開発していたわけであり、世界中で大暴れしていたパーフェクト・ソルジャーといえども戦争ゲームに飽きてきたところにこれである。
あえて遮断――ハードウェア的にそれが必要と解釈――されなかった神経信号により世界中がイカ臭くなり、後には精神がぶっ壊れた中国人が残るだけとなったのは言うまでもない。
慌てて外部のネットワークを遮断したところで、内部でエロゲの伝達が行われてしまっては後の祭りというものである。
兵士がほぼほぼ使い物にならなくなった中国は戦争続行不能状態に陥り、急速に終戦へと向かうことになる。
戦後処理はとてもとても大変だったという、文字通り電子ドラッグで廃人と化した大量の中国人をどうするのかということや、それをやらかした日本やその企業をどーするのかということである。
結果的に世界平和を取り戻したことになるためあまりご無体なことはできないので、戦功としてカウントされることはなかったが、戦争犯罪としてカウントされることもない……つまりなかったことにして解決とした。
あまりにもしょーもなく前例のない攻撃手段だったため、終戦宣言が出されるまで――この事態がなかったことにするという決定がなされるまで――に実に4年の時を浪費することになった。
第三次世界大戦は12年間続いたというのが世界的な認識であるが、実のところそのうちの1/3の期間にわたって戦闘が行われていないというわけだ。
それでも世界中の人口が急減したのは、中国製パーフェクト・ソルジャーの無双っぷりによるところである。
なお、廃人と化した中国人や中国系の移民である"元パーフェクト・ソルジャー"達は、敗戦の責任を取る形で全て中国が引き取ることになり、その非常に重いコストからほとんど地球内の勢力としては終わってしまっている。
後に残ったのは、I.E.S.の初期技術と、公的には認められていないが"世界平和をもたらした謎のアプリケーション"の存在だけである。
第一世代VRシステム
2000年前半に隆盛を誇った、ヘッドセットに搭載された液晶画面を見て、コントローラーやキーボード・マウスなどの入力装置を使って操作するタイプのシステムのものを言う。
第一世代のシステムを使ったものに関しては、現代においてはARの一種として扱われる。
なぜならば、精神や意識と呼ばれるものは現実世界にあるままだからである。