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SS⑦:瑠璃にゃん&春君のアバンチュールな夏

 とある夏に行われたキャンプでの話。

 海を一望できる砂浜にて。燦々《さんさん》と降り注ぐ太陽を肌で感じつつ、敷かれたシートの上でブリの照り焼き体験会を実施中。アジやサケでも可。


 鮭の呼び方が、サケとシャケに分かれたのは何故だったろうか。

 方言の説があったような、調理前と調理後の説もあったような。

 うん……、分からん。


 そんなハイパーどうでもいいことを、独りで考える時間が素晴らしい。

 そろそろ片面が焼き上がりそうだと、ごろん、とうつ伏せから仰向けに。


「ん? ……倉敷?」


 何事? 視界には青空や太陽ではなく、イタズラ大好き女子、倉敷瑠璃が視界一杯に広がっているではないか。

 ビキニ姿で俺を見下ろしているだけにインパクト絶大。普段は絶対拝むことができない、柔らかそうな胸の谷間、小ぶりなヘソ、キュッと引き締まったヒップなどなど。サマーバケーションここにありけり。


 目のやり場に非常に困るのだが、本人は至って気にしていない様子。買ってきたであろう缶ジュースを一口飲んだ後、「邪魔するよん」と俺隣に寝そべってくる。


「何か用か?」

「理由が無かったら、姫宮にイタズラしちゃダメ?」

「イタズラを理由にカウントしないあたりが、お前らしいな」

「褒めるにゃよ~♪」


 人生楽しそうで何よりです。

 倉敷が本気で俺にイタズラしに来たのかは分からない。

 分からないが、


「……おい」

「どうしたの?」


 人の手握ってきて、「どうしたの?」じゃねーよ。

 何を企んでいるのか。隣で添い寝状態の倉敷が、俺の手を握り込んでくる。俗に言う恋人握りで。

 さらには、スマホを掲げ、恋人握りの部分をパシャリ。

 撮影は1発成功だったようで、画像を確認した倉敷の顔がニッコリほころぶ。


「完璧っ♪ 手と手だけの写真っていうのが、付き合いたてのバカップルっぽくていい!」


 全国のバカップルにボコられたらいいのに。


「いやさー。大学や社会人になってから、女子会とか絶対増えるでしょ?」

「まぁ、増えるだろうな」

「でしょでしょ? でもって、元カレの自慢話大会が絶対開催されるでしょ?」

「開催されるかもな」

「そこでだよ! わたしだけ高校生の夏に彼氏いなかったら寂しいじゃん! 今の内にそれっぽい写真を用意しておいても罰は当たらないじゃん!」


 罰しか当たらんわ。

 人のうとましがっている反応も何のその。

 恋人握りシーンの1カットだけでは物足りないと、さらにくっついてくる倉敷が寝そべり状態のままの2ショット写真をパシャリ続ける。


「ダーリン、はいチーズ♪ いいよいいよ~。その面倒くさそうな感じが、かえっていいよ~。わたしだけ彼氏にゾッコンだと思いつつ、実は彼氏のほうが彼女のほうを大事にしてる感がにじみ出てて、すっごくいいよ~」


 コイツはたった1枚の写真から、どれだけの物語が見えているのだろうか。


「えーっと、『春一君と念願の水着デート』ハートマークっと……」

「それっぽいタイトルで保存するなよ」

「来年の夏には、春一君から春君に呼び方変わるから、そこんとこヨロシク!」

「来年も同じようなことさせられんのかよ……」

「にゃはははは♪ 光栄に思えい!」


 さらには、「来年どころか、10年後も20年後も同じことしてやろ~か~!」と謎のプロポーズチックな言葉を送りつつ、俺との距離をさらに詰めてきやがる。


 夏の仕業か、はたまた、いつもと違う環境がそうさせるのか。白い歯見せるほど笑う倉敷は、いつも以上にテンションが高い。

 子猫が母猫にじゃれつくかのように、自身の華奢きゃしゃな肩やつややかな髪を、俺の身体へとスリスリとマーキング攻撃。さらには、色々なポーズや角度でシャッターを押し続ける。


 お調子者がハイテンションすぎると、必ずと言っていいほど何か仕出かす。それがお約束であったり、相場として決まっている。

 それは、倉敷も例外ではない。

 天罰覿面てんばつてきめん。アホほど暴れるもんだから、倉敷はシート上に置いた缶ジュースを倒してしまう。


 キンキンに冷えたサイダーがシートを伝い、倉敷の尻にジワリ。

 寝耳に水。

 倉敷の尻にサイダー。


「ひにゃ!?」「うお……っ」


 不慮の事態に倉敷の身体が跳ね上がる。というより、大胆にのけ反る。

 俺に抱き着く形で……。

 抱きつかれて初めて分かってしまう。さっきまでの倉敷は、ちゃんと男女間の距離を保っていたことに。

 そう分かるくらい今現在の俺らの距離は、ゼロ距離どころかマイナス距離。


 露出した肌同士が密着し合うのは勿論、倉敷の胸や下半身、デリケートな部分を覆う布地までもが俺の身体へと高密着。華奢で小柄ながら、しなやかで引き締まった身体なのがイヤというほどに体感させられてしまう。


 一方その頃、倉敷さん。


「にゃ、にゃ、にゃ…………!」


 攻撃に特化しすぎて、相変わらず防御は紙耐久。カウンターパンチで1発KO。

 全身がみるみる熱を帯びていて、大きな猫目も羞恥で滲んでいた。

 泣きたいのはコッチだ馬鹿野郎。


 おひとり様、こんなときに掛ける最適解な言葉が瞬時に出てこず。

 捻り出した言葉といえば、


「……夏の思い出にはなったんじゃないか?」


 焼け石に水。

 倉敷の顔に着火剤。


「~~~~~~っ! 今のは無し! 忘れろ忘れろ忘れろ―――――~~~っ!!!」


 駄々っ子と化した倉敷が、俺の胸板をぽかぽかと叩き続ける。

 いつかの女子会で、笑い話になるといいね。

 黒歴史だけど。

 





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