1話
「研究の手伝い? 今時は魔導機械のほうがいいと思うんですがね」
それでも私が生身の奴隷を求めたのは、もちろんエッチなことをするためだ。
『研究の手伝いをさせたい』という建前を語ってはいるが、そんなのは本来のエッチな目的を隠すためでしかない。
堂々と『性奴隷がほしい』と言えるような人格ならば、きっと今までに一度ぐらい『そういう経験』をしてきたことだろう。
機会はあった。いくらでもあった。
けれど私に備わる生来の誇り高さが、それら機会をことごとくふいにしてきたのだ。
「魔術師の先生っていうのは、弟子をとる時、まずは小間使いからやらせるんでしたっけ? そういうことならまあ、魔法の適性がありそうなやつを何人か見繕いまさあ」
奴隷商人は愛想笑いを浮かべ、店の奥へと消えようとする。
私は慌てて――慌てていることを悟られないようにしつつ――声をかけた。
「奴隷の選択にあたって、どうしても外せない大事な条件がある」
「へえ、なんでしょう?」
「女の子がいい」
「……へぇ?」
「ああ、もちろん、変な意味ではない。ただ、私の扱う魔術の特性上……女の子がいい」
「魔術ってのは性別も大事なんですねえ。わかりやした。『女の子』を見繕ってまいりやしょう」
奴隷商は素直にうなずき、店の奥へ消えていく。
事前にかなり大量の『購入資金』をちらつかせたおかげか、こちらの事情に深入りする気はなさそうだ。
「お待たせしやした。魔法の適性が高そうな『女の子』ってぇと、コイツぐらいでさあ」
連れられてきたのはエルフの少女であった。
エルフといえば寿命が長く、成長が遅いことがよく知られている。
長くとがった耳と、整った容姿なんかも特徴だろうか。
ただしそのエルフは『容姿』という面ではあまり優れていなかった。
顔にひどいヤケドのあとがあって、それが彼女の美貌を損ねているのだ。
ボロをまとった全身を見回せば、顔どころか、体の右半分全体にヤケドのあとがあるのがわかる。
まだ幼い(とはいえ私より年上の可能性はあるのだが)少女の右半身にべったりとついたヤケドあとは痛々しく、光の消えた瞳を地面に向けている様子を見ていると、胸がしめつけられるような気持ちになった。
これからこの子を性奴隷にするために買おうとしている状況だと、その不憫さに早くも興奮してくる。
「こいつは『エルフの森焼きブーム』の時に焼け出された一人でさあ。人々が狂ったようにエルフの森を焼き始めたあの……あれはなんだったんでしょうね」
「さて。そういうよくわからないものは『異世界からの波動』としか言えないな。ちまたでも理解に苦しむようなことをする者には『はいはい、異世界からの波動、いせはど』と言ってスルーするものだと聞く」
「便利な言葉ですよねえ」
「まあ、その『いせはど』のせいでエルフというのは珍しい種族になってしまったが……価格は大丈夫なのかな? 希少種族は高値になるものなのだろう?」
「ええ、まあ。コイツはごらんの通り、エルフのくせに容姿が悪い。性格も暗いし、『ご主人様』になるかもしれない旦那の顔を見ようとさえしねぇ。……ほれ! 売れ残り! 愛想の一つも振りまいてみろってんだ!」
奴隷商人がムチをふるおうとする。
私は魔法で風の刃を生み出し、ムチを根元から切り裂いた。
「私の奴隷になるかもしれない少女だ。勝手に傷つけることはやめてもらおうか」
「へ、へぇ! こいつは失礼いたしやした! ……ただねえ、旦那、こいつは、叩かれても、声の一つもあげないんですわ。言葉っていうのを、失ってるんですわ」
「大陸共用語がわからない、というだけではなく?」
「エルフ語で話しかけても、なーんも反応しやがらねぇ。……ま、そんなわけで、なにか不都合があっても、返品には応じられやせんが……」
「ふむ」
私はエルフの少女をもう一度見た。
容姿は幼いが、エルフというのは人間の五分の一の速度でしか成長しないと言われている。
この見た目からして彼女の年齢は五十歳~六十歳ぐらいだろう。
たしかに暗く、愛想はなく、ためしにエルフ語で話しかけても応じない。
ヤケドあとは右半身全体におよんでいて、足を引きずる様子から、ヤケドが与えた影響は見た目だけではないのだろうことがうかがえる。
しかし私は不憫な少女を見ると、身の上に涙を流しそうなほど同情しながら興奮するタイプなので、目的を考えれば、このぐらい不憫でちょうどいいとも言えた。
へんに愛想をふりまいたりされるとこびへつらわれているような感じが透けて見えてしまって、なんとなくイヤだ。
私は愛を欲する者ではあるのだが、仕事で愛想をふりまかれるのは大嫌いだ。
相手が本心じゃないとわかってしまうと冷めるというか、なんか、こわい。
私は人付き合いの初心者で、女性とのつきあいの素人だ。
三十歳の魔術師と言えばそれはもちろん童貞に決まっている。
ポジティブな性質を持つ者は『魔法剣士』などにジョブチェンジするし、社会性のある者ならば弟子をとり『魔導士』を名乗るからだ。
性質がポジティブであれば出会いの機会を逸することはなく、社会性があれば出会いの機会そのものを増やせたことだろう。
私にはポジティブさも社会性もない。
そしてプライドが高い。
性奴隷を求めるなら専門に扱っている奴隷商もあるのだからそちらに行けばいいのに、『性奴隷目的だ』と看破されるのがイヤで、一般奴隷の商店に足を運んだぐらいなのだ。
私は私の内心を、特に女性へ対する性欲を他者に見抜かれるのをなによりおそれていた。
まして見抜かれたうえで付き合われるだとか、指摘されるだとか……そういうことは、想像しただけで、心が壊れそうになるほどであった。
だから『言葉を失ったエルフの少女』というのは、私の求める性奴隷像にかなり適合していると言えた。
あと、不憫な様子を見ていると興奮する。
「わかった。この子を購入しよう。その代わり、そちらも買い戻したいなどと言うなよ」
「へい、ありがとうございやす! 買い戻しなど、そんな、めっそうもない。売れ残りを引き取っていただいて、感謝、感謝でございます。売れ残りを買っていただいたお礼に、次にご利用のさいはお安くしておきますので!」
かくして金銭を支払い、エルフの少女は私の所有物となった。
店主は大喜びだが……
私は少しばかり不機嫌になった。
『売れ残り』って言いすぎ。
仮にも私は購入者だぞ? それを前にして、私の買った商品に対して『売れ残り』『売れ残り』って、私がなんか価値のないものをつかまされたみたいじゃないか……
私は不憫な少女に興奮するタイプで、売れ残り扱いもたしかに興奮要素なのだが、興奮するのと『自分の買ったものを売れ残り扱いされて嬉しいか』はまた別の話だ。
少しだけ、度肝を抜いてやろう。
私はニヤリと笑い「なにがあっても買い戻したいと言うなよ」と念を押す。
それから、キョトンとしている店主に見せつけるように、聖言を唱えた。
その瞬間エルフの少女が光に包まれ、右半身にあったヤケドのあとが消えていく。
「はあ!? だ、旦那、なにをなさったので!?」
「昔、僧侶をしていてね。治癒の腕には少々覚えがある」
「少々って……こいつのヤケドは大神官でさえ『無理』と治療をあきらめたぐらいなんですよ!? それを……」
私は口の端をわずかに上げた。
奴隷商人の度肝をぬいたことに満足したのだが、今は正体を隠している身であることを思い出したので、『やっちまったかな』と即座に気づいたのだ。内心冷や汗である。
だが、私のプライドは満たされた。
ヤケドあとの消えたエルフの少女は美しい。
肌には彼女の年齢相応のハリとみずみずしさが戻っていた。――これならもう『売れ残り』だなんて言えないだろう。
彼女はおどろいたような顔をして自らのほおをなで、それから、私を見上げた。
私は彼女の手をとり、歩いていく。これ以上の追求を避けたい一心での行動だった。
「……まさか旦那は、あの『伝説』の一人……」
背後から声が聞こえてきて、私は『もう二度とこの店に来れないな』と確信した。
奴隷として扱っていたはずのエルフの少女を大神官に診せに行くぐらいにはいい店主だったんだが、正体がバレたらやりにくい。惜しいことをした。しかしプライドのためだからな……
またしても私は、プライドのために失敗をしてしまったようだ。
けれどこれからは違う。
豚のように、誇りも人間性もなく、性奴隷となった少女の肉体をむさぼる未来が私を待っている……




