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8節

 8


「ねえ、優井上さん。人間と化け物の違いってなんだと思いますか?」


私はリビングに足を踏み入れた。


「いきなりどうしたんだい。」


突然の質問に驚いたのか、優井上さんは立ち上がり、こちらを向きながら首を傾げている。


私だっていきなりこんな質問をされたら驚くに違いない。


「少なくとも私は、人間なんかじゃない。人の形をした化け物。」


きっと私の目は虚ろであろう。

光なんてないだろう。


光ってるのは、あの時と同じ月の光を浴びた刃だけ。


「やはり君が殺したのだな、湿然科那。」


やっと、私の名前を呼んでくれた。


今はどうでもいいことなのに、少し嬉しい。


全てを思い出した脳味噌は少し、痛みを帯びている。


ズキズキと痛む。


それはきっと、いけないことをしてしまった代償の一部。


「なぜ君はそんなことをした。その理由を聞かせてくれないかね。」


理由。


……理由、ね。


「優井上さんにも、予想がつくんじゃないかな。私が何をされていたのかを知っている貴女なら。」


優井上さんは静かに目を閉ざした。


沈黙が場を支配する。


前に一部分記憶が戻った時に彼女にだけは言ったこと。


私が親にまでイジメられていたということ。


「……証拠を、出してごらん。家庭内暴力を受けていたという証拠を。」


それなら、すぐに出せる。


私はその場で半回転した。


「上の服を捲ってみてください。見ればわかりますよ。」


きっとこう聞かれるだろうなと思ってさっきとってきた。


優井上さんは、この、大きな切り裂いた後を見てどう思うのだろうか。


中二の頃の私なら思わず口を押さえてしまっていただろう。


「この、傷は、どうしたのだ。前に見た時は無かったぞ。」


「半年に一度、上から塗るだけで隠せるクリームがあるんです。いつもはそれで隠しているから、見つからない。そのクリームは水でも汗でも落ちない優れものなんですよ。もし傷がいつできたのかがわからないなら調べてもらうといいです。二年前くらいのものだってすぐにわかりますよ。」


私はそう告げながら傷跡をなぞる。


医者からは跡が残らないように治すことはできると言われたけれど、私自身の意思で残してもらった。


きっとどこかで役に立つと思って、そうした。


今は痛まない。

そういう処理をしてもらったから。


「今は君の言葉を信じよう。ではなぜ君は、誰かにそのことを相談しなかったのかね。」


「相談しました。でも、イジメられるようになっただけです。」


今じゃ同級生には敵しかいない私にも、前は友達も言える存在はいた。


けれどその子は私が親から暴力を受けていると聞いて逆に脅してきた。


言うことを聞かないと他の子にもバラしちゃうぞ、と。


結局はいつのまにかそのことは広まっていて、もっともっとイジメが加速しただけ。


まあ、元からそのつもりで近付いてきたんだと今ならわかるけど。


「耐えきれなくなった君は、両親を、殺してしまったのだな。」


私は頷く。


「アタシの立場からは、君を逮捕するよう警察に突き出すことしかできない。いくら酷い目に遭っていたとしても殺人は重い罪だ。だがあえて言わせてもらうとするなら、君の態度についてだ。諦めなくても良かった筈だ。周りが無理なら警察にでも相談すれば良かった。もしもアタシの耳にまでそのことが伝わっていたら助けられたかもしれないのに。」


優井上さんは、何を言っているのだろう。


そんな、そんな話、


「奇跡でしかありませんよ。」


私の声が小さくて聞こえなかったのだろう。彼女は何もアクションしてこない。


「貴女へ、私に起こっていたことが届くだなんて、天文学的な数字ですよ。そんなの、奇跡でしかありません。」


「アタシの父親が警察にコネがあると言っただろう。アタシ自身、警察署内に仲のいい警察官くらいいるさ。」


必死になっているのがわかる。


私のことを気にかけてくれてるんだな、ってとてもとても伝わってくる。


なんで優井上さんにもっと早く逢えなかったのだろう。


「奇跡なんて、現実では起こりっこないんですよ。あの時の私の考え、少しはあっていたんです。」


私は優井上さんに向き直った。


「青い薔薇が血に染まって赤くなったように、奇跡は何かに塗りつぶされる。だいたい、優井上さんが言うような奇跡が起こるなら、背中を切られて思わず家を飛び出してしまった私に出逢うこともあったはずですよ。」


《その通りよ。》


なんだか言い訳にしか聞こえないと自分でも思う。


それにしても、何やら声が聞こえたけれど気のせいだろうか。


《だから私は試しているの。》


違う。空耳なんかじゃない。

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