7節
7
視界が暗転する。
世界の構築と共に擬似感情が刷り込まれる。
この感情は、なんだろう。
世界構築、完了。デモンストレーションを開始します。
「今日は誕生日だねェ。だからさ、いつもより愛を込めてあゲルよ。喜びなさいッ。」
顔を狂喜に染めて、母は拳を振り上げた。
ああ、なぜ私はこれほどまでに何も感じないのであろう。
結果が分かるから。
違う。
痛みに慣れてしまったから。
違う違う。
感情なんてとうの昔に消えてしまったから。
そうじゃない。
「そうだなァ。今日は特別ダナァ。」
父が竹刀を構えた。
目線がどこに向いているかなんて、分からなかった。
私なんて見ていないんだろうな。
それでも、彼は私に愛を込めるのであろうか。
だったら私も、愛を返さないと。
……ようやく、ようやく、ようやく。
心が追いついてきて。
私はギュッとそれを握りしめた。
それで私は愛を返すんだ。
あ、体が浮く。殴り飛ばされたんだ。
「ガハッ。」
まだ、見せちゃいけない。
サプライズだから、驚かせたいな。
ゆっくりと近付いてくる。
もう少しで私の愛を伝えることができる。
あと、3、2、1、……0。
「ねえねえ、母父。いつもありがとう。愛してくれてありがとう。私も愛してるよ。今日は私の愛も受け取ってよ。」
私は顔をあげて親を見る。
ゆっくりと、立ち上がりながら言葉を続けた。
「驚いたかな。泣いてもいいんだよ。感極まって、ね。」
それをあらわにする。
とっても綺麗。鋭利で、月の光に反射して、愛を示すのにぴったりなそれ。
目を見開いてる。
驚いてくれた。
嬉しい。
サプライズ成功。
「受け取ってね。私からの、お返しだよ。」
意外と柔らかい。
ズブズブズブと沈み込んでいく。
私の右手に伝う、生温かい液体。
腕の青い薔薇が真っ赤に染め上げられる。
「不可能も奇跡も全部全部、熱い熱い恋するほどの愛に塗り替えられるんだよ。勝てるものなんて無いんだよ。愛にぶつかれるものは愛だけなんだよ。」
狂ってる。
冷静な部分の脳味噌は、そう告げる。
グッサグッサと音を立てながら脳味噌は感情を殺していく。
動かなくなったことを確認して一息ついた。
愛が愛を解放させるだなんて馬鹿馬鹿しいことを考えつつ、私は後始末を始めた。
まずは私の身体についた血を落とさないと。
驚愕と恐怖からか、抵抗がほとんどなかったのはよかった。
楽にできたからね。
理解を拒絶してるから、もうあと少しで許容量を超えるであろう脳味噌さんは処理落ちしてしまうだろう。
それまでに片付ける。
朝になる前に証拠を隠そう。
私が、両親を殺した証を。
そうだ。思い出した。私が、――殺ったんだ。
デモンストレーション終了。コマンドに従い電源を落とします。




